お知らせ
4. ドジャース大谷選手などスポーツなどに対するPRP療法
大谷翔平選手にもPRP療法は使われた?
現在メジャーリーグベースボール(MLB)のロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手は、ロサンゼルス・エンゼルス所属時の2018年に、右肘の内側側副靱帯(Ulnar Collateral Ligament:UCL)のグレード2損傷と発表され、PRP注射と細胞を用いた治療を受けたことが公表されています。
UCLは肘の内側を支える靱帯で、投球のようなオーバーヘッド動作を繰り返す選手では大きな負担がかかります。一般的には、グレード1は軽度の損傷、グレード2は部分損傷、グレード3は完全損傷として説明されることがあります。ただし、分類方法は一つではなく、画像上のグレードだけで治療方法が決まるわけではありません。
大谷選手は、当初、手術を避けることを目指して休養、PRP療法、リハビリなどの保存治療を行いました。その後、投手として復帰しましたが、再び肘に損傷が確認され、最終的には2018年10月にトミー・ジョン手術を受けています。
大切な点
有名選手がPRP療法を受けたことは、すべてのUCL損傷にPRPが有効であることを示すものではありません。また、大谷選手が受けたPRPの詳しい作製方法、投与量、白血球数などは公表されていません。当院で行うPRP療法と同一の内容という意味でもありません。
UCL損傷に対するPRP療法の復帰率はどのくらい?
UCLの部分損傷に対するPRP療法では、比較的高い競技復帰率を報告した研究があります。例えば、PRP療法と段階的なリハビリを行った選手の約88%が平均約12週間で元の競技レベルへ復帰したという報告があります。一方で、その後の研究では成績に幅があり、PRPを追加したことでリハビリ単独より明らかに復帰率が高くなるとは断定できないという報告もあります。
近年のシステマティックレビューでは、UCL損傷に対する手術を行わない治療全体の競技復帰率は約80%、元の競技レベルへの復帰率は約78%と報告されています。ただし、対象となった損傷の程度、競技レベル、損傷部位、PRPの作製方法、リハビリ内容は研究ごとに異なります。
そのため、「PRPを受ければ何%で復帰できる」と単純に説明するのは難しく、損傷の状態を確認したうえで、リハビリを中心とした保存治療の一部としてPRPを検討する必要があります。
大谷選手は手術を受けたのに、田中将大選手は手術を受けなかったのはなぜ?
田中将大選手も、ニューヨーク・ヤンキース所属時の2014年に右肘UCLの部分損傷が確認され、PRP注射とリハビリを受けたことが公表されています。田中選手は約2か月後に実戦復帰し、その後もトミー・ジョン手術を受けずにMLBで投球を続けました。
一方、大谷選手は保存治療後に再び損傷が確認され、手術へ移行しました。両選手の詳しいMRI画像や肘の不安定性、靱帯の質、投球時の症状などは公表されていないため、「田中選手の損傷が軽かったから」と断定することはできません。
保存治療で復帰できるかどうかには、損傷の程度だけでなく、損傷部位、慢性変化、肘の不安定性、投球時の痛み、競技レベル、リハビリへの反応など、複数の要素が関係します。
損傷部位
UCLの上腕骨側に近い近位損傷は、尺骨側に近い遠位損傷よりも保存治療で復帰しやすい傾向が報告されています。遠位損傷では手術へ移行する割合が高くなることがあります。
損傷の程度と靱帯の質
同じ部分損傷でも、損傷範囲、靱帯の薄さ、慢性的な変性、石灰化などによって治療結果は変わります。完全損傷や強い不安定性がある場合は、手術が検討されやすくなります。
競技レベルと求められる出力
日常生活では問題がなくても、プロ投手として高い球速と制球を維持するには、より強い肘の安定性が必要です。競技復帰の目標によって治療選択は変わります。
リハビリへの反応
痛みが減り、筋力や投球動作が改善し、段階的な投球プログラムを進められる場合は保存治療を継続できます。痛みや不安定感が続く場合は手術を検討します。
復帰までの時間
保存治療が成功すれば数か月で復帰できる可能性があります。一方、投手がトミー・ジョン手術後に実戦復帰するまでは、一般的に12~18か月程度かかります。
PRP療法は、手術を必ず回避できる治療ではありません。保存治療を試す価値がある状態か、早い段階で手術を選ぶべき状態かを、診察、MRI、超音波検査、競技レベル、復帰時期などから総合的に判断します。
サッカーの本場スペインでもPRPは活用されている?
サッカーやスポーツ医学の分野でも、PRPを含む血液由来製剤は広く研究され、筋肉、腱、靱帯などの治療に使用されてきました。スペインの整形外科医ラモン・クガット医師は、関節鏡手術やスポーツ整形外科、再生医療の分野で知られ、FCバルセロナを含む多くのサッカー選手の診療に関わってきた医師の一人です。
クガット医師らは、2000年代初頭から血小板由来の成長因子を利用した治療の研究と臨床応用に取り組んできました。PRPは一つの決まった製品ではなく、作製方法、血小板濃度、白血球の有無、投与量、投与時期によって内容が変わります。そのため、病名だけで同じPRPを使用するのではなく、損傷した組織や治療目的に合わせて考えることが重要です。
私も以前、クガット先生が講演で来日された際にアテンドをさせていただき、街をご案内した経験があります。講演では、半月板、靱帯、筋肉損傷などに対して、生物学的治療とリハビリを組み合わせながら復帰を目指す考え方が紹介され、強く印象に残りました。
トップアスリートへの使用実績だけで治療効果を判断することはできません。PRPの効果は疾患ごとに異なり、研究結果が一定していない分野もあります。
TGOC®式PRP療法とは?
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックの英語表記の頭文字から、当院では患者さんの病態に合わせてPRPの内容と治療計画を考える方針を「TGOC®式PRP療法」と呼んでいます。
TGOC®式PRP療法は、一般に確立された学術用語や全国共通の治療規格ではなく、当院のPRP療法に対する考え方と治療方針を示す名称です。主に「PRPの作製方法」「作製後の内容確認」「白血球と赤血球への配慮」「投与回数」「投与量」「治療後の評価」を総合的に考えます。
フレッシュPRPと2回遠心法
当院では、採血後に院内で作製し、その日のうちに投与するフレッシュPRPを基本としています。また、血小板を効率よく回収し、作製手順を標準化しやすい2回遠心法を採用しています。ただし、2回遠心であれば必ず高品質になるという意味ではなく、採血量、遠心条件、操作方法などの管理が必要です。
白血球数を病態に応じて考える
関節内へ投与する場合は、強い炎症を避ける目的で白血球を少なくしたPRPを選ぶことがあります。一方、筋肉、腱、靱帯などの関節外組織では、病態によって白血球を含むPRPを検討する場合があります。白血球が多すぎると、注射後の痛みや炎症が強く出る可能性があるため、部位と症状に応じて考えます。
赤血球をできるだけ減らす
白血球を多く回収しようとすると、赤血球が混入しやすくなることがあります。赤血球が壊れると、ヘモグロビンや遊離鉄などが放出され、局所の炎症を強める可能性があります。そのため、必要な白血球を確保しながら、赤血球はできるだけ少なくするように作製します。
作製後の血球数を確認する
当院では、必要に応じて血球計数器を使用し、作製したPRPに含まれる血小板数、白血球数、赤血球数を確認します。例えば約3mLのPRPから10マイクロリットルを測定に使用する場合、使用量は全体の約0.3%です。見た目の色は参考になりますが、色だけでPRPの品質を判断することはできません。
血小板濃度だけでなく血小板総数を考える
PRPでは、何倍に濃縮されたかだけでなく、最終的に何個の血小板を投与できるかという血小板総数も重要な要素です。ただし、最適な濃度や総数は疾患や組織によって異なり、多ければ多いほど良いとは限りません。
投与回数と投与量を調整する
変形性関節症では、重症度や治療後の反応により複数回の投与を提案する場合があります。筋肉、腱、靱帯では1回の投与後に経過を確認し、追加治療の必要性を判断します。また、組織によって注入できる容量が異なるため、痛みを強くしないよう投与量を調整します。
治療後の評価を詳しく行う
治療前後の痛みだけでなく、機能、スポーツ動作、日常生活、生活の質などを確認します。ひざではKOOSなど、疾患に応じた患者立脚型評価を使用し、改善した項目と残っている問題を確認します。
次の治療計画につなげる
再生医療等安全性確保法に基づく提供計画に沿って治療後の経過を確認し、効果の持続期間、副作用、リハビリの進行状況などから、追加投与の時期、治療の終了、別の治療への変更を判断します。
こだわりのポイント(TGOC®式PRP療法)
- 採血後に院内で作製し、その日のうちに投与するフレッシュPRP
- 2回遠心法を用いて、血小板を効率よく回収
- 関節内、筋肉、腱、靱帯など、治療部位に応じて白血球数を考える
- 赤血球の混入をできるだけ減らす
- 作製後の血小板数、白血球数、赤血球数を必要に応じて測定
- 血小板濃度だけでなく、投与する血小板総数も確認
- 疾患、重症度、注射部位に応じて投与回数と投与量を調整
- 超音波を使用し、目的とする部位へ正確に投与
- KOOSなどの医学的な評価指標を用いて治療前後を比較
- 治療効果の持続、副作用、リハビリの進み方を確認し、次の治療計画へつなげる
PRPはスポーツ医療以外でも使われている?
PRP療法は、整形外科やスポーツ医学だけでなく、歯科、形成外科、創傷治療、美容医療、毛髪治療など、幅広い分野で研究・使用されています。
美容医療では、PRPを皮膚へ注入したり、細い針で皮膚に刺激を加えた後に使用したりする施術が知られています。海外では「ヴァンパイアフェイシャル」という名称がSNSなどで広まり、PRPの美容利用が注目されるきっかけの一つになりました。小じわ、肌の質感、瘢痕などへの効果が研究されていますが、施術方法や研究の質には差があり、すべての美容目的で効果が確立しているわけではありません。
創傷治療では、糖尿病性足潰瘍、静脈性潰瘍、褥瘡などの治りにくい皮膚潰瘍に対するPRPの研究が行われています。日本でも、一定の条件を満たす難治性皮膚潰瘍に対して、多血小板血漿を用いた処置が保険診療として行われる場合があります。ただし、これは整形外科で行う関節、腱、靱帯へのPRP療法が保険適用になるという意味ではありません。
PRPは分野ごとに目的、作製方法、投与方法が異なります。自分の血液を使用する治療であっても、効果が保証されるわけではなく、感染、注射後の痛み、腫れなどのリスクがあります。治療を受ける際は、対象疾患に対する研究結果と限界について説明を受けることが大切です。
まとめ
PRP療法は、大谷翔平選手や田中将大選手をはじめ、トップアスリートのUCL損傷に対する保存治療の一つとして使用されたことがあります。しかし、大谷選手のように最終的に手術が必要になる場合もあり、PRPだけで手術を必ず回避できるわけではありません。
治療結果には、損傷の程度、損傷部位、靱帯の質、肘の不安定性、競技レベル、リハビリへの反応などが関係します。また、PRPは作製方法によって血小板、白血球、赤血球の量が異なるため、同じ「PRP療法」という名前でも内容は同じではありません。
当院では、PRPの作製方法、作製後の血球数、投与量、投与回数、患者さんの病態、治療後の評価を確認しながら、リハビリと組み合わせて治療計画を立てます。PRPを行うこと自体を目的にするのではなく、患者さんがどの機能を取り戻したいのかを明確にし、治療効果と負担のバランスを考えることが重要です。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献・公表資料>
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