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5. PRPの科学的エビデンス(変形性関節症)
PRPの科学的エビデンス —— 研究・臨床データから見る整形外科での効果
PRP療法は、美容医療、創傷治療、歯科など幅広い分野で使用されています。今回は変形性関節症に対する研究結果を中心に説明します。
最初に理解しておきたいのは、PRPは一つの決まった薬ではないという点です。採血量、作製方法、血小板濃度、血小板総数、白血球や赤血球の量、投与回数などが研究ごとに異なります。そのため、同じ「PRP療法」という名称でも治療内容は同じではなく、研究結果にもばらつきがあります。
整形外科のクリニックや病院では、どのような病気に使われる?
整形外科では、変形性関節症、腱障害、靱帯損傷、筋損傷などにPRP療法が使用されています。ただし、病気によって研究の量と質は大きく異なります。
変形性関節症では、ひざに対する研究が最も多く、痛みや関節機能の改善を示したランダム化比較試験やメタアナリシスが複数あります。一方、股関節、足関節、肩関節、手指などでは研究数が少なく、現時点では効果をはっきり断定できない部位もあります。
変形性関節症とは?
変形性関節症は、加齢、体重、外傷、関節にかかる負担の積み重ねなどによって、関節軟骨や半月板、滑膜、軟骨下骨などに変化が起こり、痛みや動かしにくさが生じる病気です。ひざ、股関節、足関節、肩、指などに起こります。
以前は「軟骨がすり減る病気」と説明されることが多くありましたが、現在では、軟骨だけではなく、滑膜の炎症、軟骨下骨、半月板、筋力など、関節全体に変化が起こる病気と考えられています。
PRPは軟骨を再生させる治療なのか?
PRPには、PDGF、TGF-β、VEGF、IGF-1など、組織の修復反応に関係するさまざまな成長因子や生理活性物質が含まれています。基礎研究では、軟骨細胞の働きや細胞外マトリックスの産生に関係する可能性が示されています。
一方、人に対する臨床研究では、PRPによって失われた関節軟骨が明らかに元どおり再生することまでは証明されていません。現時点で期待されている主な効果は、関節内の炎症反応を調整し、痛みを軽くし、関節機能を改善することです。
したがって、患者さんには「軟骨を完全に再生させる注射」と説明するのではなく、「痛みや機能の改善を目指す治療であり、軟骨再生についてはまだ研究段階」と説明することが適切だと考えます。
重要
PRP療法の治療後に痛みが改善しても、レントゲン上の変形、半月板断裂、軟骨欠損などが元どおりになったことを意味するわけではありません。症状の改善と、画像上の組織修復は分けて考える必要があります。
変形性ひざ関節症に対する科学的エビデンス
変形性ひざ関節症は、PRP療法に関する研究が最も多い病気です。複数のメタアナリシスでは、PRPはヒアルロン酸注射や生理食塩水などと比較して、数か月から1年程度の痛みや関節機能を改善する可能性が報告されています。特に、初期から中等度の変形性ひざ関節症で効果を得やすい傾向があります。
ただし、すべての研究が有効性を示しているわけではありません。研究結果が一致しない理由として、PRPの作製方法、血小板総数、白血球数、患者さんの年齢や体重、変形の程度、注射方法などの違いが考えられます。
| 部位・病気 | 現在の研究状況 | 考え方 |
|---|---|---|
| 変形性ひざ関節症 | ランダム化比較試験とメタアナリシスが多く、痛みと機能の改善を示す研究が複数あります。一方、プラセボとの差が出なかった大規模試験もあります。 | 保存治療で十分に改善しないKL分類1~3の患者さんでは、選択肢の一つになります。最も研究が多い部位です。 |
| 変形性股関節症 | 小規模な比較試験では改善を示す報告がありますが、生理食塩水との差を認めなかった試験もあります。 | 超音波などを用いた正確な関節内投与が必要です。エビデンスはひざより少なく、効果を断定できません。 |
| 変形性足関節症 | 症状改善を示す研究はありますが、対照群との明らかな差が確認されていない解析もあります。 | 外傷後の変形が多く、病態がさまざまです。現時点では限定的なエビデンスです。 |
| 変形性肩関節症 | PRPとヒアルロン酸を比較した試験では、両群で改善しましたが、PRPが明らかに優れているとは示されませんでした。 | 研究数が少なく、一般的な標準治療として確立しているとはいえません。 |
| 母指CM関節症 | 少人数の比較試験や後ろ向き研究で、痛みや機能の改善が報告されています。 | 期待できる可能性はありますが、症例数が少なく、さらに質の高い研究が必要です。 |
| ヘバーデン結節・その他の手指関節症 | 症例報告や小規模研究が中心で、十分な比較試験がありません。 | 現時点では効果を明確に説明できる段階ではありません。 |
| 腰痛・変形性腰椎症 | ひざなどの関節内PRPとは別の領域です。椎間板、椎間関節、靱帯など、注射する場所によって治療内容が異なります。 | 「腰の変形性関節症にPRPが有効」と一括して説明することはできません。原因を確認して判断します。 |
KL分類とPRP療法の適応
変形性ひざ関節症の重症度は、レントゲン画像を用いたKellgren-Lawrence分類(KL分類)で評価されることがあります。KL分類は0から4まであり、数字が大きいほど関節裂隙の狭小化や骨棘、骨の変形が強い状態です。
2024年に発表された海外の学会のコンセンサスでは、運動療法、体重管理、薬物療法、ほかの注射治療などで十分に改善しないKL分類0~3の患者さんでは、PRPが適切な選択肢となる場合があるとされました。一方、KL分類4の重症例や、最初からPRPを第一選択として行うことについては不確実性が高いとされています。
KLグレード0
レントゲン上、明らかな変形を認めない状態です。MRIでは軟骨や半月板の変化が見つかることがあります。
KLグレード1
骨棘が疑われる程度の初期変化です。関節裂隙の狭小化は明らかでないことが多い状態です。
KLグレード2
明らかな骨棘があり、関節裂隙が少し狭くなっている可能性がある状態です。
KLグレード3
複数の骨棘と明らかな関節裂隙の狭小化があり、骨の変化も進んでいる状態です。
KLグレード4
関節裂隙が著しく狭くなり、軟骨下骨の硬化や骨の変形が強い重症の状態です。
重症例では投与回数を増やした方がよい?
PRPの最適な投与回数については、まだ統一された結論がありませんが、1回投与と複数回投与を比較した研究では、3回や5回の投与で効果が長く続いたという報告があります。重症例では1回の投与で十分な改善が得られないことがあり、当院では治療前の状態、1回目の反応、治療後の経過、費用や身体的負担を確認しながら、2~3回以上を検討する場合があります。
なお、これは臨床経験を含む判断であり、すべての患者さんに複数回投与を勧めるものではありません。
PRP療法の前に行う治療
変形性関節症の基本治療は、運動療法、筋力訓練、体重管理、生活動作の調整、薬物療法などです。PRPは、これらの基本治療を行っても十分に改善しない場合に検討する選択肢の一つであり、リハビリを行わずにPRPだけを受ければよいという治療ではありません。
実際の治療例
治療例を読む際の注意点
以下は実際の経過をもとにした治療例ですが、治療結果には個人差があり、同じ病気や重症度でも同様の結果を保証するものではありません。PRP療法は自由診療です。
主なリスク・副作用:注射時および注射後の痛み、腫れ、熱感、皮下出血、出血、感染、アレルギー反応、神経・血管損傷、一時的な症状の悪化など。十分な改善が得られない場合もあります。
評価方法
痛みのスケールは0が「痛みなし」、10が「最も強い痛み」です。KOOSは0~100点で評価し、点数が高いほど状態が良いことを示します。
治療例① 68歳女性 軽症の変形性ひざ関節症と半月板損傷
来院までの経過:3か月前から両ひざの痛みがあり、正座から立ち上がる際に支えが必要となっていました。その後、右ひざの痛みが急に強くなり、歩行が難しくなりました。近くの医療機関でレントゲンとMRIを受け、変形性ひざ関節症(KLグレード2)と半月板損傷と診断されました。ヒアルロン酸注射を6回受けましたが、十分な改善が得られず来院されました。
治療内容:両ひざの関節内へPRPを1回ずつ投与しました。
治療後の経過:投与後2週間で一度痛みが軽くなりましたが、その後も痛みは残っていました。約1か月半後から再び改善傾向となり、3か月時点では本人の申告上、痛みはほぼ気にならない状態となりました。
| 評価項目 | 治療前 | 治療後 |
|---|---|---|
| 痛みのスケール | 9 | 1 |
| KOOS疼痛 | 22 | 75 |
| KOOS日常生活動作 | 43 | 99 |
解説:PRP療法の効果は注射直後に完成するわけではなく、数週間から数か月かけて変化する場合があります。この症例では、途中で痛みが残る時期がありましたが、その後、痛みと日常生活動作の改善を認めました。
治療期間・回数:治療回数:両ひざ各1回 治療期間:約3か月
治療例② 76歳女性 重症の変形性ひざ関節症
来院までの経過:自転車走行中から左ひざの痛みを自覚し、近くの医療機関でヒアルロン酸注射を受けていました。変形性ひざ関節症はKLグレード4で、人工関節手術を勧められていました。手術以外の方法を希望し、約1年間リハビリを続けましたが、十分な改善が得られず来院されました。
治療内容:両ひざの関節内へPRPを投与しました。1回目の治療から6か月後、さらに改善を希望されたため、両ひざへ2回目のPRPを投与しました。
治療後の経過:1回目の投与後、1か月頃から少しずつ変化を認め、6か月時点では痛みが治療前の約半分となりました。2回目の投与後は、伸びきらなかったひざの可動域、歩幅、痛みに改善を認めました。
| 評価項目 | 治療前 | 治療後 |
|---|---|---|
| 痛みのスケール | 4 | 1 |
| KOOS疼痛 | 64 | 81 |
| KOOS生活の質(QOL) | 44 | 56 |
解説:重症例では1回の投与だけで痛みが十分に軽くならないことがあります。この症例では、経過と本人の希望を確認したうえで2回目を行い、追加の改善を認めました。ただし、KLグレード4に対するPRPの効果は一定ではなく、人工関節手術が適切な場合もあります。
治療期間・回数:治療回数:両ひざ各2回 治療期間:6か月以上
治療例③ 49歳男性 変形性ひざ関節症と内側半月板水平断裂
来院までの経過:2年前から左ひざの痛みがあり、約2km歩くと痛みのため歩き続けることが難しくなっていました。坂道でも痛みがあり、画像検査で変形性ひざ関節症(KLグレード2)と内側半月板の水平断裂を認めました。1年以上リハビリを継続しましたが、症状が残っていました。
治療内容:左ひざの関節内へ、1か月間隔でPRPを合計3回投与しました。
治療後の経過:治療前は難しかったしゃがみ込みができるようになり、本人の申告上、痛みはほぼ気にならない状態となりました。治療6か月後のMRIでは半月板断裂そのものは残っていましたが、症状の改善は維持されていました。
| 評価項目 | 治療前 | 治療後 |
|---|---|---|
| 痛みのスケール | 5 | 0 |
| KOOS疼痛 | 78 | 94 |
| KOOS生活の質(QOL) | 6 | 50 |
解説:この症例では症状が改善しましたが、MRI上の半月板断裂が修復したわけではありません。PRPによって半月板が再生したと判断することはできず、関節内の炎症や痛みが軽くなった可能性があります。症状が改善しない場合には、手術を含む別の治療も選択肢となります。
治療期間・回数:治療回数:左ひざ3回 治療期間:約6か月
治療例から分かること
3つの治療例では、治療前後の痛みやKOOSに改善を認めました。ただし、これはPRPを受けたすべての患者さんに同じ結果が出ることを示すものではありません。また、リハビリ、活動量の調整、自然経過などが結果に影響した可能性もあります。
大切なのは、治療前後の状態を同じ方法で評価し、どの症状や機能が改善したのかを確認することです。当院では、痛みだけでなく、KOOSなどの患者立脚型評価、関節可動域、歩行、スポーツ動作などを確認し、追加治療や治療終了の判断に役立てています。
まとめ
変形性関節症に対するPRP療法は、ひざで最も多く研究されており、痛みや関節機能の改善が期待できる治療の一つです。一方、研究結果はすべて一致しておらず、失われた軟骨を元どおり再生させることも証明されていません。
現時点では、特に保存治療で十分に改善しない初期から中等度の変形性ひざ関節症で検討しやすい治療です。重症例、股関節、足関節、肩、手指などでは効果が限定的、または研究が十分でない場合があります。
PRP療法を検討する際は、病気の種類、重症度、PRPの作製方法、投与量、投与回数、リハビリ、費用を含めて総合的に判断することが重要です。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
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