お知らせ
3. PRP療法の適正価格は?
なぜPRP療法に大きな価格差が存在するのか?
PRP療法の治療価格は、数万円から数十万円までと、医療機関や使用する製品によって大きな幅があります。
しかし、PRP作製キットやPRPの凍結乾燥製品(FD製品)で使われる元の「材料」は、患者さんから採血した血液の中に、もともと含まれている血小板です。
どのような方法で作製しても、採取した血液に含まれている血小板以上のものを、新しく作り出せるわけではありません。価格差を考えるときは、単に「高い製品ほど効果が高い」と考えるのではなく、採血量、血小板の回収率、加工方法、安全性のための構造、流通コストなどを分けて考える必要があります。
価格差を生む主な要因
PRP療法の価格は、主に次のような要因によって変わります。
採血量
PRPに含まれる血小板は患者さん自身の血液から得られるため、採血量は価格に影響します。キットによって採血量は20mL程度から90mL程度まで幅があり、一般的には採血量の多いキットほど高価になりやすいと考えられます。
血小板の回収率
採血量が多くても、血小板の回収率が低ければ、最終的に得られる血小板総数が多いとは限りません。回収率の高い方法であれば、20mL程度の採血でも十分な血小板量を濃縮できる場合があります。また、20mLのキットを複数本使用して、実質的な採血量を増やす方法もあります。
FD製品の加工費と運送費
FD製品は、採血した血液を院外の企業へ送り、加工や凍結乾燥などの工程を行います。そのため、加工費、品質管理費、梱包費、運送費などが治療価格に加わります。
閉鎖式キットの構造
閉鎖式キットは、作製中に外部へ触れる機会を減らし、感染リスクをできるだけ下げるための構造になっています。多くのPRPキットが閉鎖式を採用していますが、専用容器や接続部分などの開発・製造コストが価格へ反映されます。
海外製品の輸入コスト
海外製のキットは、製品価格に加えて、輸送費、輸入に関する費用、為替変動の影響を受けます。円安になるほど、日本国内での仕入れ価格は高くなりやすくなります。
高価なPRPほど効果が高いとは限らない
このように、PRP療法の価格差にはさまざまな理由があります。ただし、価格の高さと治療効果が、そのまま比例するとは限りません。
採血量が多い高価なキットでも、血小板の回収率が低ければ、最終的に投与できる血小板総数が期待ほど多くないことがあります。逆に、比較的少ない採血量でも、回収率が高く、目的に合ったPRPを作製できれば、費用を抑えながら必要な血小板量を確保できる可能性があります。
私は、治療効果だけでなく、患者さんが支払う費用に対して、どの程度の改善が期待できるのかという「費用対効果」も重視して、PRPキットを選ぶべきだと考えています。
支払意思額(WTP)とは?
「この治療でどのくらい良くなるなら、どの程度のお金を払ってもよいと思えるか」という考え方を数値化したものが、willingness to pay(支払意思額:WTP)です。
WTPは、治療費が高いか安いかを、単純な金額だけで判断するのではなく、得られる改善の大きさや、効果が続く期間と合わせて考えるための一つの指標です。
ただし、WTPは調査した国、所得、医療制度、病気の重症度、患者さんの生活状況などによって変わります。そのため、以下の計算は厳密な治療価格を決めるものではなく、費用対効果を考えるための目安です。
腰痛とひざ痛のWTP
海外の慢性腰痛患者を対象とした研究では、0から10までの疼痛スコアが1ポイント改善することに対して、月額約46ドルまでなら支払ってもよいという結果が報告されています。1ポイントは、痛みが約10%改善した状態として考えることができます。
これを1ドル約155円として換算すると、痛みが10%改善することに対するWTPは、月額約7,100円になります。
また、ひざ関節痛については、タイの住民を対象とした研究結果を日本の平均所得などから大まかに換算すると、痛みが10%改善することに対して、月額約4,700円程度が一つの目安になります。
※ 為替レートや所得換算によって金額は変わります。ここでは費用対効果を考えるための概算として示しています。
痛みが40%改善すると仮定した場合
腰痛
10%改善あたり月額約7,100円
7,100円 × 4 = 月額約28,400円
ひざ痛
10%改善あたり月額約4,700円
4,700円 × 4 = 月額約18,800円
PRP療法による痛みの改善率は、病気の種類、重症度、PRPの作製方法、投与回数、リハビリの内容などによって異なります。
ここでは、説明を分かりやすくするために、PRP療法によって痛みが40%改善すると仮定しています。すべての患者さんに40%の改善を保証するものではありません。
効果が6か月続くと仮定した場合
腰痛
月額約28,400円 × 6か月
合計 約170,400円(約17万円)
ひざ痛
月額約18,800円 × 6か月
合計 約112,800円(約11万円)
この計算では、腰痛で約17万円、ひざ痛で約11万円までであれば、得られる改善と効果の持続期間を合わせたときに、WTPの観点から支払ってもよいと感じる患者さんが一定数いる可能性があります。
※海外研究をもとにした概算であり、実際の患者さん一人ひとりの支払意思額を示すものではありません。
3回投与が必要な場合の目安
腰痛
約170,400円 ÷ 3回
1回あたり 約56,800円(約6万円)
ひざ痛
約112,800円 ÷ 3回
1回あたり 約37,600円(約4万円)
1回の投与で6か月間の効果が続けば理想的ですが、患者さんによっては、効果を得るため、または効果を維持するために複数回の投与が必要になることがあります。
3回投与が必要だと仮定してWTPから逆算すると、腰痛では1回あたり約6万円、ひざ痛では1回あたり約4万円が、一つの目安になります。
私自身も、おおむねこのあたりが費用対効果の観点から妥当な範囲だと考えており、その範囲で、できるだけ血小板の回収率が高く、患者さんの病態に合わせて調整できるPRPキットを選ぶようにしています。
1回5万円のひざPRPは高いのか?
例えば、ひざの痛みに対して、1回5万円(税込5万5千円)のPRP療法を行ったとします。
1回の投与で痛みが40%改善し、その効果が6か月間続いた場合、先ほどの概算では約11万円までがWTPの目安になります。そのため、診察料などを加えても、税込5万5千円で治療を受けられるのであれば、費用対効果は比較的高いと感じられる可能性があります。
一方で、十分な効果を得るために2回の投与が必要となった場合は、PRP療法だけで税込11万円となります。さらに診察料、画像検査、リハビリなどの費用が加われば、総額はWTPの目安を超える可能性があり、患者さんによっては割高に感じるかもしれません。
そのため、PRP療法では、1回あたりの価格だけでなく、予想される投与回数、改善の程度、効果が続く期間、治療前後に必要となる費用まで含めて考えることが大切です。
PRP療法の価格は総額で考える
PRP療法に至るまでに、患者さんは診察、画像検査、薬物治療、リハビリなどの費用をすでに支払っていることがあります。
そのため、PRP療法だけの金額が妥当であっても、治療全体の総額が大きくなりすぎれば、費用対効果は低下します。
私は、PRP療法を必要以上に高額な治療にしたくないと考えています。安全性と品質を保ちながら、血小板の回収率、患者さんの病態に合わせた調整、作製後の血小板数の確認などを重視し、できるだけ現実的な価格で提供することが大切だと考えています。
まとめ
PRP療法の価格差は、採血量、血小板の回収率、キットの構造、院外での加工費、運送費、輸入費用などによって生じます。
ただし、高価なPRPほど治療効果が高いとは限りません。価格だけではなく、最終的にどの程度の血小板を回収できるのか、患者さんの病態に合ったPRPを作製できるのか、作製後の内容を確認できるのかが重要です。
また、治療費を考えるときは、1回あたりの価格だけではなく、必要となる投与回数、期待できる改善の程度、効果が続く期間、診察やリハビリを含めた総額まで考える必要があります。
私は、治療効果と費用の両方を考え、患者さんにとって納得しやすい価格で、できるだけ費用対効果の高いPRP療法を提供することが大切だと考えています。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献>
・Herman, P. M., et al. (2019). Patient willingness to pay for reductions in chronic low back pain and chronic neck pain. The Journal of Pain, 20(11), 1317–1327.
・Luksameesate, P., et al. (2023). Using a discrete choice experiment to elicit patients’ preferences and willingness-to-pay for knee osteoarthritis treatments in Thailand. Scientific Reports, 13(1), 12154.