お知らせ
慢性腰痛に対する運動療法や鍼、マッサージの効果はいつまで続く?
慢性腰痛の保存療法は、いつまで効果が続くのか?
腰痛は、世界中で身体機能の低下や仕事の生産性低下を引き起こす大きな原因の一つです。なかでも、発症から12週間以上続く慢性腰痛は、患者さんの日常生活だけでなく、社会的・経済的にも大きな負担となっています。
慢性腰痛の治療では、運動療法、リハビリテーション、薬物療法、物理療法、鍼治療、マッサージ、徒手療法など、さまざまな保存的治療が行われています。
これらの治療によって一時的に痛みが軽くなることは少なくありません。しかし、「治療効果はどのくらい続くのか」「運動療法とマッサージではどちらが優れているのか」「治療が終わった1年後にも効果は残っているのか」という点については、これまで十分に整理されていませんでした。
2026年にBMJ Medicineに掲載された研究では、慢性腰痛に対する保存的治療の効果が、時間の経過とともにどのように変化するのかが詳しく検討されました。
今回の研究の要点
運動療法、鍼、マッサージ、徒手療法などは、慢性腰痛の短期的な改善には有効でした。
一方、治療効果は約10週でピークを迎え、12か月以上では臨床的に意味のある改善が確認されませんでした。
慢性腰痛とは?
慢性腰痛とは、一般的に発症から12週間以上続く腰痛を指します。
腰痛は特定の病名ではなく、腰椎、椎間板、椎間関節、仙腸関節、筋肉、筋膜、靱帯、神経など、さまざまな組織が関係して生じる症状です。腰が重い、長時間座っていると痛む、立ち上がるときに痛む、腰を曲げたり反らしたりすると痛む、お尻や脚まで痛みやしびれが広がるなど、症状の現れ方も人によって異なります。
慢性腰痛では、身体的な問題だけでなく、睡眠不足、ストレス、不安、痛みに対する恐怖などが重なっていることもあります。そのため、画像検査だけで痛みのすべてを説明できるとは限らず、身体機能や生活習慣、仕事の環境なども含めて評価することが大切です。
慢性非特異性腰痛と神経根性腰痛の違い
今回の研究では、主に慢性非特異性腰痛と神経根性の慢性腰痛が対象となりました。
慢性非特異性腰痛
骨折、感染症、悪性腫瘍など、痛みの原因となる重大な病気が確認されず、一つの組織だけに原因を特定することが難しい腰痛です。一般的な慢性腰痛の多くが、この非特異性腰痛に含まれます。
神経根性の慢性腰痛
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などによって神経が刺激され、腰痛に加えて脚の痛みやしびれが生じるタイプです。今回の研究では、神経根性腰痛に関する研究が少なく、結果の解釈には注意が必要です。
551研究、71,126人をまとめて解析
研究グループは、成人の慢性腰痛患者を対象としたランダム化比較試験を調査しました。最終的に、551研究、581件の研究報告、合計71,126人という非常に大規模なデータが解析されています。
比較された治療には、鍼治療、運動療法、徒手療法、マッサージ、電気・温熱・冷却などの物理療法、マッケンジー法、薬物療法、心理的治療、牽引療法、患者教育、多職種による疼痛管理などが含まれます。
腰痛の強さ、脚の痛み、日常生活の障害度、精神的健康について、治療直後、短期、中期、12か月以上の長期に分けて評価されました。
この研究で分かった4つのポイント
保存的治療の効果を時間の経過に沿って見ると、次のような結果になりました。
1.複数の保存的治療が短期的には有効だった
治療開始から3か月以内では、鍼治療、物理療法、運動療法、徒手療法、マッサージ、多職種による疼痛管理が、腰痛の強さについて臨床的に意味のある改善を示しました。日常生活の障害度については、鍼治療、マッサージ、多職種による疼痛管理が短期的な改善を示しました。
2.治療効果は約10週でピークを迎えた
保存的治療の効果は、治療開始から約10週で最も大きくなっていました。研究に含まれた治療期間の多くは6〜8週間程度であり、効果のピークは治療コースが終了する時期とほぼ重なっていました。
3.12か月以上では臨床的に意味のある効果が残らなかった
長期では、一部の治療に統計学的な差が残っていました。しかし、その差は患者さんが実際に改善を感じられる「臨床的に意味のある大きさ」には達していませんでした。短期的には有効でも、一度の治療コースの効果が1年以上自動的に続くとは考えにくいという結果です。
4.能動的治療と受動的治療の短期効果は似ていた
運動療法などの「能動的治療」と、マッサージ、徒手療法、鍼治療などの「受動的治療」の間に、痛みや障害度の短期的な改善について大きな差は確認されませんでした。症状、身体機能、生活環境、患者さんの希望などに応じて治療を選ぶことが大切です。
「長期効果がない」なら治療を受ける意味はない?
今回の研究で最も注意したいのは、長期的な効果が確認できなかったことを理由に、保存的治療そのものを否定しないことです。
慢性腰痛によって痛みが強いと、身体を動かすことが難しくなります。活動量が低下すると、筋力や体力が低下し、さらに動きにくくなる悪循環が生じます。
保存的治療によって短期的に痛みを軽減できれば、その期間を利用して、歩行や日常動作を増やす、筋力や柔軟性を改善する、仕事やスポーツへの復帰を進める、自宅で行える運動を身につける、腰に負担がかかる生活習慣を見直す、といった次の段階へ進みやすくなります。
治療の役割は、痛みを一時的に下げることだけではありません。痛みが軽くなった時期を、身体機能や生活を立て直すために活用することが重要です。
慢性腰痛は「一度治療して終了」ではない
論文では、慢性腰痛を高血圧や糖尿病などと同じように、長期的に管理する考え方が提案されています。患者さん自身が腰痛について理解すること、続けられる運動を生活に取り入れること、痛みが出たときの対処法を身につけること、医療者と治療目標を共有すること、状態に応じて治療内容を見直すことが大切です。
必要に応じて追加の治療を行う「ブースター治療」も候補として挙げられています。ただし、ブースター治療や生活習慣の改善によって長期効果が確実に高まると証明されたわけではなく、今後さらに検証が必要な分野です。
決められた間隔で治療を受け続ければよいということではなく、症状や身体機能を定期的に確認し、その時点で必要な治療を判断することが大切です。
この研究を読む際の注意点
今回の研究は、551研究、7万人以上をまとめた非常に大規模な解析です。一方で、結果を読む際には次の点に注意が必要です。
エビデンスの確実性が低い
GRADEによる評価では、ほとんどの比較が「極めて低い」、残りも「低い」と判定されました。治療内容や患者背景のばらつき、評価の偏り、推定値の幅などが理由です。
神経根性腰痛の研究が少ない
神経根性腰痛と非特異性腰痛で治療反応が異なるという明確な結果は出ませんでしたが、神経根性腰痛の研究数が少ないため、両者の効果が同じと証明されたわけではありません。
文献検索は2020年まで
論文は2026年に発表されていますが、文献検索は2020年7月24日までです。著者らは、小規模から中規模の追加研究で全体の結論が大きく変わる可能性は低いとしていますが、検索期間が古いことは研究の限界です。
TGOCにおける慢性腰痛の考え方
慢性腰痛では、単に「腰が痛い」という症状だけを見るのではなく、痛みの原因や発生している部位をできる限り見極めることが重要です。
腰痛の原因は、筋肉や筋膜だけではありません。椎間板、椎間関節、仙腸関節、靱帯、神経など、さまざまな組織が痛みに関係している可能性があります。また、複数の部位が重なって症状を起こしていることもあります。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックでは、診察やレントゲン、必要に応じたMRIなどの画像検査に加え、超音波検査、筋力、柔軟性、関節の動き、姿勢、歩行、日常動作などを確認し、どの組織が痛みの発生源となっている可能性が高いのかを評価します。
原因や症状に応じて治療を組み合わせる
評価した結果をもとに、症状や原因に応じて次のような治療を組み合わせます。
- 薬物療法や物理療法
- リハビリテーション、運動療法
- 神経や関節周囲へのブロック注射
- 体外衝撃波治療
- PRP療法
- 日常生活や運動方法の指導
例えば、神経、椎間関節、仙腸関節などが痛みに関係している場合には、ブロック注射を治療や痛みの発生源を確認する目的で用いることがあります。筋肉、腱、靱帯などの組織が痛みに関係している場合には、体外衝撃波治療を検討します。また、組織の損傷や変性が痛みの原因と考えられる場合には、状態に応じてPRP療法を選択肢として検討します。
ただし、すべての慢性腰痛にこれらの治療が適しているわけではありません。画像所見だけで治療を決めるのではなく、診察所見、症状の経過、これまでに受けた治療の効果などを総合的に判断します。
※今回紹介したネットワークメタ解析では、主に一般的な保存的治療が比較されており、ブロック注射、体外衝撃波治療、PRP療法の長期的な有効性を直接検証した研究ではありません。これらは論文の結論ではなく、TGOCにおける実際の治療方針です。
痛みを軽減した後のリハビリまで考える
注射、体外衝撃波治療、PRP療法などによって痛みを軽減することだけが最終的な目的ではありません。痛みが軽くなった時期にリハビリテーションや運動療法を行い、身体機能や動作を改善することで、日常生活、仕事、スポーツへの復帰につなげていきます。
慢性腰痛の治療では、現在の痛みの原因はどこにあるのか、痛みを軽減する治療が必要な時期なのか、身体機能を改善する段階なのか、自宅での運動へ移行できるのか、別の治療を追加または変更する必要があるのかを定期的に見直します。
TGOCでは、原因や痛みの発生部位を評価したうえで、ブロック注射、体外衝撃波治療、PRP療法、リハビリテーションなどを適切に組み合わせ、短期的な痛みの改善と長期的な身体機能の維持を目指します。
まとめ
今回の大規模ネットワークメタ解析では、慢性非特異性腰痛に対する鍼治療、運動療法、物理療法、徒手療法、マッサージ、多職種ケアなどが、短期的な痛みの改善に有効であることが示されました。
一方、その効果は治療開始から約10週でピークを迎え、12か月以上では臨床的に意味のある効果が残っていませんでした。
大切なのは、「どの治療が一番優れているか」だけを考えることではありません。まず痛みの原因や発生部位を評価し、必要な治療によって痛みを軽減し、その期間に身体機能、運動習慣、生活環境を整えることが重要です。
慢性腰痛は、一度の治療だけで完全に終了するとは限りません。症状や生活への影響を確認しながら、長期的な視点で治療を組み立てていきましょう。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献>
・Belavý DL, Saueressig T, Arora NK, et al. Conservative treatments for chronic non-specific low back pain: time course network meta-analysis. BMJ Medicine. 2026;5:e001908. doi:10.1136/bmjmed-2025-001908