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PRPで腰の筋肉は再生する?腰のインナーマッスルの萎縮と慢性腰痛に関する研究
PRPで腰の筋肉は回復する?
腰痛の治療というと、椎間板や神経への治療を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし近年は、背骨を支える「多裂筋(たれつきん)」の衰えも、慢性腰痛に関係する要素として注目されています。
では、患者さん自身の血液から作るPRP(多血小板血漿)を、衰えた多裂筋へ投与すると、筋肉の状態は改善するのでしょうか。
2016年に発表された研究では、PRP投与後に痛みや日常生活動作が改善しただけでなく、MRI上でも筋肉が太くなり、筋肉の中の脂肪が減ったことが報告されました。今回は、この研究の内容と、現時点でどこまで分かっているのかを解説します。
多裂筋とは?
多裂筋は、背骨のすぐ近くにある「腰のインナーマッスル」です。腰を大きく動かすというよりも、腰の骨を一つひとつ安定させる役割を担っています。
腰痛が長く続くと、多裂筋をうまく使えなくなり、筋肉が細くなったり、筋肉の一部が脂肪に置き換わったりすることがあります。この脂肪に置き換わる変化を「脂肪変性」といいます。
多裂筋が弱ると、腰を安定させにくくなり、それがさらに痛みや活動量の低下につながる可能性があります。つまり、腰痛によって多裂筋が弱り、多裂筋が弱ることで腰痛が続くという悪循環が起こることがあります。

萎縮した多裂筋へPRPを投与した研究
2016年、Husseinらは、慢性腰痛があり、腰の1か所に椎間板の変化と多裂筋の衰えがみられる患者さんを対象として、白血球を含むLR-PRP(leukocyte-rich platelet-rich plasma)を多裂筋へ投与した研究を報告しました。
対象
3か月以上続く慢性腰痛があり、腰の1か所に椎間板の変化と多裂筋の衰えを認めた115人が研究に参加しました。
PRPの作製方法
50mLの血液を専用の機器で2回分離し、約5mLのLR-PRPを作製しました。血小板は、もとの血液のおよそ4〜6倍に濃縮されていました。
投与方法
X線で位置を確認しながら、背骨に近い左右の多裂筋へ2.5mLずつ投与しました。
投与回数
週1回の投与を6週間続け、合計6回の投与を行いました。
経過観察
投与後24か月まで痛み、日常生活動作、患者満足度などを追跡し、12か月後にはMRIによる多裂筋の評価も行いました。
研究期間中、患者さんには1日30分以上歩き、できるだけ活動性を保つよう指導されました。この研究で行われた週1回・合計6回という方法は、あくまで研究上のプロトコルであり、現在の標準的な治療方法として確立されているわけではありません。
痛みと日常生活動作は改善
最後まで確認できた人数
115人中104人を24か月後まで評価
良好な治療成績
104人中74人(71.2%)
腰痛の強さ(0〜10の評価)
平均8.81から3.5へ改善
腰痛による日常生活への影響
平均36.74から14.65へ改善
最終的に104人が評価され、24か月後には74人、全体の71.2%で良好な結果が維持されていました。
0〜10で評価する腰痛の強さは平均8.81から3.5へ改善しました。また、腰痛が日常生活へ与える影響を調べる評価も、平均36.74から14.65へ改善しました。いずれも、数字が低いほど状態がよいことを示します。
研究中に神経の損傷や感染などの重い問題は報告されませんでした。一方で、すべての患者さんに注射部位の痛みがあり、1〜2日続く場合がありました。
MRIでも筋肉の状態が改善
この研究で特に興味深い点は、症状だけでなく、MRIで多裂筋の変化も調べたことです。
良好な結果が得られた74人のうち65人、87.8%で、投与から12か月後のMRIにおいて、多裂筋が太くなった、または筋肉の中の脂肪が減ったことが確認されました。
つまり、PRP投与後に「痛みが軽くなった」という変化だけでなく、画像上でも筋肉の状態が改善した可能性が示されました。
87.8%という数字について
87.8%は研究参加者全体を母数とした割合ではありません。良好な治療結果が得られた74人中65人の割合です。
「PRPで筋肉が再生した」といえるのか?
この研究は、PRPによって多裂筋の状態が改善する可能性を示した興味深い報告です。しかし、この研究だけで、PRPによって筋肉が再生することが証明されたと断定することはできません。
主な理由は次のとおりです。
PRPを行わない人との比較がない
PRPを投与しなかった患者さんとの比較がないため、自然経過や活動量の影響を完全には除外できません。
研究の進め方に限界がある
治療を受ける人と受けない人を公平に振り分けて比べた研究ではありません。また、患者さんも評価する医師も治療内容を知っていたため、治療への期待が結果に影響した可能性があります。
筋肉の組織を直接調べていない
MRIで筋肉の大きさや脂肪の状態は確認していますが、新しい筋肉が作られたかを顕微鏡で直接確認した研究ではありません。
6回投与の結果である
1回のPRP投与で同じ変化が得られるかは分かりません。また、最適な投与回数もまだ決まっていません。
PRPの種類が一定ではない
PRPは作製方法によって、血小板濃度、白血球量、赤血球の混入量などが異なります。別のPRPを使った場合にも同じ結果になるとは限りません。
現時点での正確な表現
「PRPで多裂筋が再生することが証明された」ではなく、「PRP投与後、MRIで多裂筋が太くなり、筋肉内の脂肪が減った例が報告されている」とするのが正確です。
2026年には動物を使った研究も報告
2026年には、順天堂大学の研究グループから、使わないことで細くなったマウスのふくらはぎの筋肉へ、PRPを1回投与した研究が報告されました。
この研究では、マウスの後ろ脚を2週間使わない状態にして筋肉を細くした後、PRPを投与し、1週間の回復後に筋肉を調べています。
その結果、PRPを投与した側では、投与していない側より筋肉の重さが増え、すばやい動きに使われる筋肉の細胞も太くなっていました。
これは、PRPが使わないことで細くなった筋肉の回復を後押しする可能性を示す結果です。ただし、マウスを使った研究であり、そのまま人の多裂筋や慢性腰痛に当てはめることはできません。
PRPは関節や腱だけでなく筋肉にも可能性がある
PRPは、変形性ひざ関節症や腱・靱帯の治療で知られています。一方で、血小板から放出されるさまざまな成分は、筋肉の細胞が増えることや、傷ついた組織の修復にも関わる可能性があります。
複数の基礎研究をまとめた報告でも、PRPによって筋肉の細胞が増えたり、傷ついた筋肉の回復が進んだりする可能性が示されています。
ただし、筋肉に対して、どのくらいの血小板や白血球を含むPRPを、いつ、どの程度投与するのがよいかは、まだ分かっていません。同じPRPという名前でも中身は作製方法によって異なるため、すべてのPRPで同じ効果が得られるとは限りません。
多裂筋へのPRPだけで腰痛は治るのか?
慢性腰痛の原因は、腰のクッションである椎間板、背骨の関節、神経、骨盤に近い関節、筋肉などさまざまです。多裂筋が細くなっていても、それだけが痛みの原因とは限りません。
また、筋肉の状態を改善するには、PRPのような注射治療だけでなく、多裂筋を適切に働かせる運動療法やリハビリテーションも重要です。PRPによって筋肉が回復しやすい環境を作れたとしても、実際に筋肉を使わなければ、十分な改善につながらない可能性があります。
多裂筋へのPRP治療は、現時点では一般的な治療として確立されたものではありません。まず診察と画像検査によって腰痛の原因を整理し、薬による治療、運動療法、リハビリテーションなどを行った上で、治療の選択肢を考える必要があります。
まとめ
慢性腰痛患者の衰えた多裂筋へLR-PRPを投与した研究では、痛みと日常生活動作の改善に加え、MRIで多裂筋が太くなり、筋肉の中の脂肪が減った例が報告されました。
また、2026年の動物研究でも、PRPが細くなった筋肉の回復を助ける可能性が示されています。PRPは関節や腱・靱帯だけでなく、筋肉の回復という面でも、今後の研究が期待される治療です。
ただし、現時点で「PRPによって多裂筋が再生する」と断定することはできません。多裂筋へのPRP治療も、一般的な治療として確立されている段階ではありません。
PRPがすべての腰痛に適しているわけではないため、まずは診察や画像検査で痛みの原因を調べ、リハビリテーションを含めて治療方針を考えることが大切です。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
※本記事は医学情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献>
・Hussein, M., & Hussein, T. (2016). Effect of autologous platelet leukocyte rich plasma injections on atrophied lumbar multifidus muscle in low back pain patients with monosegmental degenerative disc disease. SICOT-J, 2, 12. https://doi.org/10.1051/sicotj/2016002
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