お知らせ
骨密度が正常でも安心できない?
大腿骨頚部まで測ることで見つかった「隠れた骨粗鬆症」
骨密度検査を受けて、「大腿骨の数値はそれほど低くない」と言われたことはありませんか?
股関節の骨密度検査では、大腿骨近位部(きんいぶ)全体(total hip)と大腿骨頚部(けいぶ)の2か所の数値が表示されることがあります。当院ではどちらの計測も行っており、より詳細に解析をしています。同じ股関節でも、この2つの数値には大きな差が出ることがあり、今回はその点を分析しました。
当院の34例を分析したところ、大腿骨近位部の値だけでは骨粗鬆症と診断されたのは9例であるのに対し、大腿骨頚部で見てみると15例もありました。
つまり、大腿骨近位部全体だけを見ていた場合、頚部で骨粗鬆症だった症例の60%を拾えなかったことになります。女性に限ると、その割合は69.2%、つまり7割の患者さんで骨粗鬆症が見逃される可能性を示す結果でした。
今回の34例の分析で分かったこと
近位部全体より低値
骨粗鬆症の検出数
近位部全体だけでは拾えなかった割合
近位部全体だけでは拾えなかった割合

今回の分析について
今回、腰椎、大腿骨近位部全体、大腿骨頚部の骨密度を測定した34例について、部位ごとのYAM(Young Adult Mean」の略で、若年成人平均値)を分析しました。対象は女性27例、男性7例で、平均年齢は63.6歳、年齢範囲は26~88歳でした。
YAMは、若い成人の平均骨密度を100%として、現在の骨密度がその何%にあたるかを示した数値です。YAM70%未満は骨粗鬆症、70%以上80%未満は骨量減少、80%以上は正常範囲と判定されます。
今回の分析では、YAM70%未満を骨粗鬆症として集計しました。
YAM60%未満という区分について
この記事では、集計上の区分としてYAM60%未満を「高度な骨密度低下」と表現しています。
測定部位によって骨粗鬆症の検出数が大きく変わった
骨粗鬆症に該当した人数は、確認する測定部位によって大きく異なりました。大腿骨近位部全体では6例でしたが、大腿骨頚部では15例でした。
| 判定に使った部位 | 骨粗鬆症 (YAM70%未満) |
YAM60%未満 |
|---|---|---|
| 腰椎 | 4例 | 2例 |
| 大腿骨近位部全体 | 6例 | 3例 |
| 大腿骨頚部 | 15例 | 9例 |
大腿骨近位部全体だけで判定した場合と比べ、大腿骨頚部まで確認すると、骨粗鬆症の検出数は6例から15例へ増えました。また、YAM60%未満の高度な骨密度低下は、3例から9例へ増えました。
大腿骨頚部まで確認すると、骨粗鬆症の検出数は6例から15例となり、2.5倍でした。
34例中31例で、大腿骨頚部の方が低かった
今回の34例のうち、31例(91.2%)で大腿骨頚部のYAMが大腿骨近位部全体より低い結果でした。頚部の方が低かった差は平均10.3ポイント、中央値9ポイントで、16例では10ポイント以上の差がありました。
今回の症例群では、頚部の値が低く出る例が多く、約半数で10ポイント以上の差がみられました。ただし、この割合を一般の患者さん全体へそのまま当てはめることはできません。
大腿骨近位部全体だけでは、骨粗鬆症の60%を拾えなかった
大腿骨頚部で骨粗鬆症だった症例は15例でした。このうち、大腿骨近位部全体でも骨粗鬆症だったのは6例でした。
残りの9例は、大腿骨近位部全体の値だけでは骨粗鬆症に該当しませんでしたが、大腿骨頚部では骨粗鬆症でした。
大腿骨頚部で骨粗鬆症だった15例中9例、60.0%は、大腿骨近位部全体だけでは骨粗鬆症として拾えませんでした。
YAM60%未満についても、大腿骨頚部では9例だったのに対し、大腿骨近位部全体では3例でした。頚部で高度な骨密度低下を示した9例のうち6例、66.7%は大腿骨近位部全体だけでは高度低値と判定されませんでした。
女性では、部位による差がさらに大きかった
大腿骨頚部では骨粗鬆症でしたが、大腿骨近位部全体だけでは骨粗鬆症に該当しなかった9例は、すべて女性でした。女性27例のうち、大腿骨頚部で骨粗鬆症だったのは13例で、そのうち大腿骨近位部全体でも骨粗鬆症だったのは4例でした。
| 対象 | 頚部で骨粗鬆症 | 近位部全体だけでは 拾えなかった症例 |
割合 |
|---|---|---|---|
| 男女34例 | 15例 | 9例 | 60.0% |
| 女性27例 | 13例 | 9例 | 69.2% |
女性に限ると、大腿骨頚部で骨粗鬆症だった13例中9例、69.2%は、大腿骨近位部全体だけでは骨粗鬆症として拾えませんでした。
また、大腿骨頚部で高度な骨密度低下を示した女性は7例でしたが、大腿骨近位部全体でも高度低値だったのは1例だけでした。つまり、7例中6例、85.7%は大腿骨近位部全体だけでは高度な骨密度低下として拾えませんでした。
この6例はいずれも64~84歳の女性でした。特に閉経後の女性では、大腿骨近位部全体だけでなく、大腿骨頚部の値まで確認することが大切です。
数字の読み方に注意が必要です
「女性全体の69.2%で骨粗鬆症を拾えない」という意味ではありません。分母は、今回の症例群で大腿骨頚部が骨粗鬆症だった女性13例です。そのうち9例は、大腿骨近位部全体の値だけでは骨粗鬆症に該当しなかったという結果です。
大腿骨近位部全体は正常範囲でも、頚部は58%だった症例
大腿骨近位部全体が正常範囲でも、大腿骨頚部まで正常とは限りません。今回の分析では、大腿骨近位部全体が正常範囲だった21例のうち、4例は大腿骨頚部で骨粗鬆症でした。そのうち1例は、頚部のYAMが60%未満まで低下していました。
実際に、次のような測定結果がありました。
測定結果の一例
| 測定部位 | YAM |
|---|---|
| 腰椎 | 88% |
| 大腿骨近位部全体 | 86% |
| 大腿骨頚部 | 58% |
腰椎は88%、大腿骨近位部全体は86%で、どちらも正常範囲でした。しかし、大腿骨頚部は58%で、骨粗鬆症に該当していました。
このように、腰椎や大腿骨近位部全体が正常範囲でも、大腿骨頚部では骨粗鬆症になっている場合があります。
腰椎と近位部全体では骨粗鬆症でなくても、頚部では骨粗鬆症のことがある
腰椎または大腿骨近位部全体のどちらかで骨粗鬆症に該当した症例は7例でした。大腿骨頚部まで含めて評価すると、骨粗鬆症に該当した症例は15例に増えました。
大腿骨頚部で骨粗鬆症だった15例のうち8例、53.3%は、腰椎と大腿骨近位部全体のどちらも骨粗鬆症に該当していませんでした。
大腿骨頚部まで確認することで、腰椎と大腿骨近位部全体だけでは分からなかった骨粗鬆症を見つけられる場合があります。
なぜ腰椎の数値が高く出ることがあるのか
年齢を重ねると、腰椎に変形、骨棘、椎間関節の変性、石灰化などが生じることがあります。正面から測定する腰椎DXAでは、こうした変化や周囲の石灰化が測定値に影響し、骨密度が実際より高く見える場合があります。
そのため、腰椎の値が保たれていても、股関節の評価を省略してよいとは限りません。ただし、今回の院内集計だけで、腰椎の値が高かった理由を変形や石灰化と断定することはできません。測定画像を確認し、椎体変形、圧迫骨折、人工物、測定範囲などが数値へ影響していないかを判断する必要があります。
国内外の基準でも大腿骨頚部は正式な評価部位
大腿骨頚部を確認することは、当院独自の評価方法ではありません。
国内の診断基準では、YAM70%未満を骨粗鬆症と判定します。また、大腿骨近位部を評価するときは、大腿骨頚部と大腿骨近位部全体(total hip)のうち、低い方の値を確認することが大切です。
国際臨床骨密度学会(ISCD)の2023年公式見解でも、股関節では大腿骨頚部とtotal hipのうち低い方を診断に用いるとされています。
大腿骨近位部全体だけを見て「骨粗鬆症ではない」と判断すると、頚部にある骨粗鬆症を拾えない可能性があります。
ガイドラインの考え方
大腿骨近位部全体の数値だけで判断せず、大腿骨頚部も確認し、低い方の値を使って評価することが大切です。
骨密度検査は「一番高い数字」だけで判断しない
骨密度の結果表には、複数の部位の数値が記載されていることがあります。最も高い数字だけを見て、「問題ない」と判断するのは適切ではありません。
測定された部位のうち低い値を確認するとともに、測定画像、脆弱性骨折歴、年齢、閉経状況、基礎疾患、使用している薬、転倒リスクなどを含めて総合的に評価します。
測定部位
腰椎、大腿骨近位部全体、大腿骨頚部のどこを測定したかを確認します。
最も低い値
高い値だけではなく、測定された部位の中で最も低い値を確認します。
測定画像
腰椎の変形、圧迫骨折、人工物、測定範囲やROIの設定などが数値に影響していないか確認します。
骨折リスク
過去の脆弱性骨折、年齢、閉経状況、家族歴、基礎疾患、服薬内容、転倒リスクなども合わせて評価します。
骨密度の結果を詳しく確認したい方
- 閉経後の女性
- 若い頃と比べて身長が低くなった方
- 軽い転倒や日常生活程度の外力で骨折したことがある方
- ご家族、とくにご両親に大腿骨近位部骨折歴がある方
- 腰椎の値は保たれているものの、骨折リスクが心配な方
- 大腿骨近位部全体のYAMが70~80%前後で、頚部の値も確認したい方
- 骨粗鬆症に関係する基礎疾患がある方や、骨密度へ影響する薬を使用している方
- 結果表に大腿骨頚部の数値が見当たらない方
今回の分析のまとめ
今回の34例の院内分析では、大腿骨近位部全体だけで判定すると骨粗鬆症は6例でしたが、大腿骨頚部まで確認すると15例に増えました。また、34例中31例(91.2%)で、大腿骨頚部のYAMが大腿骨近位部全体より低い結果でした。
大腿骨頚部で骨粗鬆症だった15例のうち9例、60.0%は、大腿骨近位部全体だけでは骨粗鬆症として拾えませんでした。女性に限ると、大腿骨頚部で骨粗鬆症だった13例のうち9例、69.2%が同じ結果でした。
特に重要なのは、大腿骨近位部全体や腰椎が正常範囲でも、大腿骨頚部では骨粗鬆症だった症例が実際にあったことです。骨密度検査では、一番高い数値だけを見るのではなく、どの部位を測定し、どの部位の値が最も低かったかを確認することが大切です。
今回の分析の限界
今回の結果は34例に基づく小規模な院内集計で、女性が約8割を占めています。対照群を設けた研究や診断精度を検証した研究ではなく、統計学的な有意差も検討していません。そのため、今回の割合を一般の患者さん全体へそのまま当てはめることはできません。
また、対象者の選び方、骨粗鬆症治療の有無、使用機器、測定条件、ポジショニング、ROI設定、YAMの丸め方などによって結果が変わる可能性があります。今後は、より多くの連続症例を用い、患者背景や治療状況も含めて検証する必要があります。
骨密度の結果が気になる方へ
「検査では問題ないと言われたが、結果の見方が分からない」「腰椎の値は保たれていたが、骨折リスクが心配」「大腿骨近位部全体と大腿骨頚部で数値が違う」「治療が必要か確認したい」という場合は、骨密度検査の結果表をお持ちのうえ、整形外科でご相談ください。可能であれば、数値だけではなく測定画像も確認できると、より詳しい評価につながります。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックでは、骨密度の数値だけではなく、測定部位、測定画像、年齢、脆弱性骨折歴、基礎疾患、服薬状況、生活状況などを確認し、必要な検査や治療についてご案内します。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考資料>
・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編.骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版.
https://jsbmr.umin.jp/guide/
・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会合同 原発性骨粗鬆症診断基準改訂検討委員会.原発性骨粗鬆症の診断基準(2012年度改訂版).
https://jsbmr.umin.jp/guide/pdf/g-guideline.pdf
・International Society for Clinical Densitometry. 2023 ISCD Official Positions: Adult.
https://iscd.org/official-positions-2023/
※YAM70%未満は骨粗鬆症の基準です。ただし、治療方針は骨密度だけでなく、測定画像、脆弱性骨折歴、年齢、基礎疾患、服薬状況なども含めて総合的に判断します。また、本記事は当院34例の院内分析であり、一般のすべての患者さんに同じ割合が当てはまるものではありません。