お知らせ
6. PRP療法が検討される慢性疾患とスポーツ障害
PRP療法が検討される慢性疾患とスポーツ障害
PRP療法は、変形性ひざ関節症だけでなく、肩、肘、足、筋肉、腰などの慢性疾患やスポーツ障害に対しても検討されています。
ただし、病気ごとに研究の量や治療効果は異なります。すべての痛みにPRPを行えばよいわけではなく、まず正確な診断を行い、リハビリテーション、薬物療法、装具療法、注射療法、手術などと比較しながら選ぶことが大切です。
上肢の慢性疾患
上肢の慢性疾患では、五十肩、テニス肘、肩腱板炎や肩腱板部分断裂などに対してPRP療法が研究されています。
五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩)
五十肩は、40代後半から60代に多くみられ、肩の痛みと動かしにくさを特徴とする病気です。「腕が上がらない」「背中に手が回らない」「夜中に痛んで眠れない」などの症状がみられます。
肩関節を包む関節包に炎症や癒着が起こり、肩の動きが悪くなると考えられています。一般的には、痛みが強い急性期、動きが硬くなる拘縮期、徐々に改善する回復期を経過し、数か月から1年以上かけて回復することがあります。
治療では、痛みが強い時期に鎮痛薬や関節内注射を行い、症状に合わせてストレッチやリハビリテーションを進めます。
近年の研究では、発症早期の凍結肩に対する関節内ステロイド注射やPRP注射の効果が検討されています。PRP療法が痛みや可動域の改善に役立つ可能性が報告されていますが、標準的な治療として確立するには、さらに研究が必要です。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
テニス肘は、手首を伸ばす筋肉の腱が肘の外側へ付着する部分に、変性や微小損傷が起こる病気です。テニスだけでなく、重い物を持つ仕事、調理、パソコン作業、手首を繰り返し使うスポーツなどでも起こります。
従来は、湿布や鎮痛薬、サポーター、リハビリテーション、物理療法、ステロイド注射などが行われてきました。ステロイド注射は短期的に痛みを減らすことがありますが、中長期では再発や機能低下が問題になる可能性があります。
PRP療法とステロイド注射を比較した研究では、治療後早期はステロイドがやや有利でも、6か月前後の中長期ではPRP療法の方が痛みや肘機能の改善を示したという報告があります。
保存療法を続けても症状が改善しない場合には、PRP療法が次の選択肢となることがあります。筆者は、サポーターや薬物療法、リハビリテーションで十分な改善が得られないケースでPRP療法を検討しています。
肩腱板損傷・肩腱板炎
肩の腱板は、肩関節を安定させるインナーマッスルの腱です。加齢や繰り返しの負担によって、変性や部分断裂が起こります。
腱板断裂は高齢になるほど増えますが、画像上の断裂がすべて痛みの原因になるわけではありません。症状の有無、断裂の大きさ、筋力、肩の動きなどを総合的に評価します。
治療には、鎮痛薬、注射、リハビリテーション、手術などがあります。肩腱板炎や部分断裂に対するPRP療法は、短期から中期の痛みや肩機能を改善する可能性が研究されています。
一部の研究では、ステロイド注射より長期的に良好な結果が報告されていますが、完全断裂や大きな断裂では手術が適している場合もあります。
下肢の慢性疾患・スポーツ障害
下肢の慢性腱障害や筋損傷でも、PRP療法による組織修復反応が研究されています。
足底腱膜炎
足底腱膜炎は、足の裏にある足底腱膜へ繰り返し負担がかかり、かかとの痛みが続く病気です。ランニングやジャンプ動作、体重増加、急な運動量の増加、長時間の立ち仕事などがきっかけになります。
治療では、運動量の調整、ストレッチ、インソール、鎮痛薬、体外衝撃波治療、注射などを行います。
ステロイド注射は短期的に炎症や痛みを抑える場合がありますが、繰り返し行うと組織へ負担を与える可能性があります。PRP療法は、慢性化して保存療法で改善しない足底腱膜炎に対する選択肢として研究されています。
PRP療法とステロイド注射を比較した研究では、中長期でPRP療法の方がよい結果を示した報告があります。筆者自身も、保存療法で改善しなかった足底腱膜炎にPRP療法を受け、現在は痛みなく生活しています。
肉離れ・筋断裂
肉離れは、スポーツ中のダッシュ、ジャンプ、急な方向転換などで筋肉が損傷する状態です。筋損傷の程度は軽いものから部分断裂、完全断裂までさまざまです。
急性期には出血や腫れが起こり、修復過程で硬い瘢痕組織が多く形成されると、筋肉の柔軟性が低下して再発しやすくなることがあります。
PRPに含まれる成長因子は、血管形成や修復に関わる細胞の働きを助けるため、筋損傷からの回復を支える可能性が研究されています。
ハムストリング筋損傷に対して、血腫の吸引とPRP療法を組み合わせることで、競技復帰までの期間や再発率が改善したという報告があります。ただし、筋損傷に対するPRP療法は、まだ研究結果が一定していない部分もあります。
腰椎疾患
腰痛にはさまざまな原因があり、PRP療法を検討する前に、痛みの原因をできる限り明確にする必要があります。
筋筋膜性腰痛
腰の筋肉や筋膜に負担がかかり、圧痛や動作時痛が続く状態です。姿勢、仕事、運動、筋力低下などが関係します。
PRP療法が筋筋膜性腰痛の痛みや機能を改善する可能性を示した報告がありますが、研究数はまだ多くありません。
椎間板性・椎体性を含む慢性腰痛
3か月以上続く腰痛を慢性腰痛といいます。椎間関節、筋筋膜、椎間板、終板や椎体など、さまざまな組織が痛みの原因になります。
慢性腰痛に対するPRP療法では、短期から中期の痛みや機能改善を示した研究があります。ただし、投与する部位や方法が研究によって異なり、適応はまだ明確に定まっていません。
腰痛に対するPRP療法を行う国内施設は多くありません。神経症状、感染、腫瘍、骨折などを除外し、痛みの原因を評価したうえで慎重に判断する必要があります。
各国におけるPRP療法の位置づけ
変形性ひざ関節症に対するPRP療法については、海外の学会や専門家グループから、適応に関する見解が発表されています。
ただし、PRPの作製方法や投与回数が統一されていないため、すべての患者さんへ同じようにすすめられる治療ではありません。
ESSKA・ICRSの見解
適応として検討されやすい状態
・80歳以下
・KL分類グレード0〜3
・運動療法や薬物療法などの保存療法で改善が不十分
・ヒアルロン酸やステロイドなど、ほかの注射治療で改善が不十分
適応が不明確または慎重な判断が必要な状態
・KL分類グレード4の重症例
・変形性ひざ関節症に対する最初の治療としての使用
・80歳を超える場合
・膝蓋大腿関節の変形が強い場合
・関節水腫が多い場合
AAOSの考え方
米国整形外科学会(AAOS)では、PRPが変形性ひざ関節症の痛みや機能を改善する可能性を示す一方で、作製方法、投与回数、長期的な効果が統一されていない点が課題とされています。
PRPは比較的安全性の高い治療と考えられていますが、すべての患者さんに同じ効果が出るわけではありません。
PRP療法を受ける前に大切なこと
PRP療法を検討する際には、病名だけで判断するのではなく、病気の重症度、年齢、症状が続いている期間、関節水腫の有無、これまでに行った治療、生活やスポーツへの影響などを確認することが大切です。
PRP療法は、正確な診断と注射技術が必要な治療です。整形外科専門医など、運動器疾患の診断と治療に詳しい医師から、期待できる効果、限界、費用、ほかの治療方法について説明を受けたうえで選択することをおすすめします。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫