腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアについて
腰椎椎間板ヘルニアは、腰の骨と骨の間にある椎間板の一部が後方へ突出し、神経根や馬尾神経を圧迫・刺激する病気です。
主な症状には、次のようなものがあります。
・腰痛
・臀部の痛み
・太ももやふくらはぎの痛み
・脚や足のしびれ
・脚の筋力低下
・つまずきやすさ
・足首や足趾の動かしにくさ
臀部から脚へ走るように広がる神経痛は、一般に「坐骨神経痛」と呼ばれます。
坐骨神経痛は一つの病名ではなく、坐骨神経につながる神経根が刺激されて生じる症状の総称です。
腰椎椎間板ヘルニアは、坐骨神経痛を起こす代表的な原因の一つですが、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、腫瘍、感染症などでも同様の症状が現れます。
MRIで椎間板の突出が確認されても、それだけで腰椎椎間板ヘルニアによる症状とは判断できません。
症状の範囲、筋力、感覚、腱反射などの診察所見と、画像上で圧迫されている神経が一致しているかを確認することが重要です。
多くの場合は、薬物療法、活動量の調整、リハビリテーション、神経ブロックなどの保存療法によって症状の改善を目指します。
一方、脚の麻痺が進行している場合、強い痛みが保存療法で改善しない場合、排尿・排便障害を伴う場合には、手術が必要になることがあります。

腰椎の構造
背骨は、椎骨と呼ばれる骨が縦に連なって構成されています。
上から次のように分かれます。
・頚椎:7個
・胸椎:12個
・腰椎:5個
・仙骨
・尾骨
腰椎は第1腰椎から第5腰椎までの5個の椎骨で構成されています。
腰椎には、上半身の重さを支えながら、身体を前後左右へ曲げたり、ひねったりする役割があります。
椎骨の前方には、体重を支える円柱状の「椎体」があります。
後方には「椎弓」があり、椎体と椎弓で囲まれた空間を脊柱管と呼びます。
腰椎の脊柱管内には、脊髄から分かれた多数の神経根が通っています。
これらの神経が馬の尾のように見えることから「馬尾神経」と呼ばれます。
左右の神経根は、椎骨の間にある椎間孔を通り、臀部や脚へ向かいます。
椎間板の構造
椎間板は、椎体と椎体の間にあるクッション状の組織です。
外側の丈夫な「線維輪」と、中央にあるゼリー状の「髄核」から構成されています。
椎間板には、次のような役割があります。
・背骨へ加わる衝撃を吸収する
・椎体同士が直接ぶつかることを防ぐ
・身体を曲げる、反らす、ひねる動きを支える
・背骨に加わる荷重を分散する
若い時期の髄核には水分が多く含まれ、弾力があります。
加齢や繰り返す負担によって椎間板の水分量や弾力が低下すると、線維輪に亀裂が生じやすくなります。
亀裂から髄核や変性した椎間板組織が後方へ突出し、神経へ影響を与えた状態が腰椎椎間板ヘルニアです。
神経症状が起こる仕組み
腰椎椎間板ヘルニアによる神経症状には、主に二つの仕組みが関係します。
神経の物理的な圧迫
突出した椎間板が神経根を押し、神経の血流や働きを障害します。
圧迫が強い場合には、しびれだけでなく筋力低下が現れることがあります。
化学的な炎症
椎間板の組織から炎症に関係する物質が放出され、神経根周囲に炎症が起こります。
そのため、MRIで神経の圧迫がそれほど大きく見えなくても、強い脚の痛みが現れる場合があります。
反対に、画像上では大きなヘルニアがあっても、神経への影響が少なく症状が軽い場合があります。
発生しやすい部位
腰椎椎間板ヘルニアは、身体の重さや動作による負担が集中しやすい下位腰椎に多く発生します。
特に次の椎間で多くみられます。
・第4腰椎と第5腰椎の間
・第5腰椎と仙骨の間
どの椎間板が突出しているかによって、圧迫される神経根と症状の範囲が異なります。
ヘルニアの突出方向
中央型
脊柱管の中央方向へ突出します。
大きな中央型ヘルニアでは、左右の神経根や馬尾神経をまとめて圧迫し、両脚の症状や排尿・排便障害を起こす可能性があります。
傍中央型
中央からやや左右へ偏って突出します。
腰椎椎間板ヘルニアで比較的多くみられ、左右どちらかの神経根を圧迫します。
片脚の坐骨神経痛を起こすことが一般的です。
外側型・椎間孔内型
神経が脊柱管から出る椎間孔付近へ突出します。
通常の傍中央型とは異なる神経根を圧迫することがあります。
椎間孔外型
椎間孔より外側へ突出し、脊柱管を出た後の神経根を圧迫します。
MRIの一般的な断面では見つけにくい場合があります。
ヘルニアの形態
椎間板ヘルニアは、突出した組織の状態によって分類されます。
膨隆・突出型
線維輪の外側がある程度保たれたまま、椎間板が後方へ膨らんでいる状態です。
脱出型
髄核が線維輪を越えて後方へ脱出した状態です。
遊離型
脱出した椎間板組織が本来の椎間板から離れ、脊柱管内を上下へ移動している状態です。
脱出型や遊離型では、身体の免疫反応によって突出した組織が徐々に縮小・吸収されることがあります。
大きなヘルニアだから必ず手術が必要というわけではなく、症状と神経障害の程度を合わせて判断します。

主な原因
腰椎椎間板ヘルニアは、一度の動作だけで発症するとは限りません。
椎間板の変性や体質に、日常生活や仕事での負担が重なって発症すると考えられます。
椎間板の変性
年齢とともに椎間板の水分量が低下し、線維輪へ亀裂が入りやすくなります。
比較的若い成人にも発症します。
重い物を持ち上げる動作
前かがみになり、腰だけを使って重い物を持ち上げると、椎間板へ大きな圧力が加わります。
身体をひねりながら持ち上げると、さらに負担が増える可能性があります。
繰り返す前屈・ひねり動作
次のような作業が発症や症状の悪化に関係する場合があります。
・荷物の積み下ろし
・介護や抱き上げ動作
・長時間の中腰作業
・農作業
・建設作業
・長時間の運転
・身体をひねるスポーツ
外傷
転倒、交通事故、スポーツ外傷などをきっかけに発症する場合があります。
ただし、明らかな外傷がなく症状が始まることも少なくありません。
体質・遺伝的要因
椎間板が変性しやすい体質には、遺伝的な要因も関係すると考えられています。
喫煙
喫煙は椎間板の血流や代謝へ影響し、椎間板変性に関係する可能性があります。
体重・身体活動
体重増加や運動不足は腰への負担を増やす場合があります。
ただし、肥満や運動不足だけが直接的な原因になるわけではありません。
主な症状
腰痛
急に強い腰痛が現れる場合と、以前からあった腰痛に脚の症状が加わる場合があります。
腰痛よりも脚の痛みが強くなることもあります。
神経根への圧迫が中心の場合には、腰痛がほとんどなく、脚だけが痛む場合もあります。
臀部から脚へ広がる痛み
臀部、太もも、ふくらはぎ、足にかけて、鋭い痛みや電気が走るような痛みが現れます。
片脚に現れることが多いものの、大きな中央型ヘルニアでは両脚に症状が出る場合があります。
脚・足のしびれ
ピリピリ、ジンジンするしびれや、皮膚の感覚低下が現れます。
痛みが軽くなった後も、しびれだけが長く残ることがあります。
脚の筋力低下
神経根の障害が強くなると、脚や足へ力が入りにくくなります。
次のような症状から気づくことがあります。
・つまずきやすい
・スリッパが脱げやすい
・階段を上りにくい
・片脚で立てない
・つま先立ちができない
・かかとで歩けない
・足首が持ち上がらない
・親指へ力が入りにくい
疼痛性側弯
痛みを避けるために身体が左右へ傾き、背骨が曲がって見えることがあります。
この状態を疼痛性側弯と呼びます。
側弯症そのものとは異なり、神経痛が改善すると姿勢も戻ることがあります。
前かがみ・座位で悪化する痛み
椅子へ座る、前かがみになる、靴下を履くなどの姿勢で、腰や脚の痛みが強くなる場合があります。
咳、くしゃみ、排便時のいきみによって神経痛が増すこともあります。
歩行障害
痛みや筋力低下によって、歩きにくくなることがあります。
足を引きずる、左右で歩幅が違う、長距離を歩けないなどの変化が現れます。
神経根ごとの代表的な症状
症状の範囲には個人差があり、複数の神経根が同時に障害される場合もあります。
第4腰神経根
・太ももの前面から膝、すねの内側に痛み・しびれ
・膝を伸ばす力の低下
・膝蓋腱反射の低下
第5腰神経根
・臀部から太ももの外側、すねの外側、足の甲に痛み・しびれ
・足首や足の親指を上へ持ち上げる力の低下
・かかと歩きが難しくなる
・下垂足が現れる場合がある
第1仙骨神経根
・臀部から太もも・ふくらはぎの後面、足の外側に痛み・しびれ
・足首を下へ踏み込む力の低下
・つま先立ちが難しくなる
・アキレス腱反射の低下
症状の場所だけで障害神経を確定することはできません。
筋力、感覚、反射、MRI所見を合わせて判断します。
馬尾症候群
大きな中央型腰椎椎間板ヘルニアによって、脊柱管内の馬尾神経が急激に強く圧迫されることがあります。
これを馬尾症候群と呼びます。
馬尾症候群は、神経障害が後遺症として残る可能性がある緊急疾患です。
主な症状には次のものがあります。
・尿が出にくい
・尿を出せない
・尿意を感じにくい
・尿が漏れる
・便意を感じにくい
・便を漏らす
・肛門周囲の感覚が鈍い
・陰部や太ももの内側がしびれる
・両脚の強い痛みやしびれ
・両脚の筋力低下
・性機能の変化
乗馬用の鞍が触れる範囲に相当する、臀部、肛門・陰部周囲、太ももの内側の感覚低下を「サドル型感覚障害」と呼びます。
尿が出ない、会陰部の感覚が低下した、両脚の麻痺が急速に進んだ場合には、翌日まで様子をみず緊急受診してください。
馬尾症候群が疑われる場合には、緊急MRIと早期の手術による神経除圧を検討します。
画像上のヘルニアと症状の関係
椎間板の膨らみや突出は、腰痛や脚の症状がない方のMRIにもみられることがあります。
そのため、MRIで「ヘルニアがあります」と指摘されても、それが現在の症状の原因とは限りません。
診断では次の点を確認します。
・症状が片脚か両脚か
・痛み・しびれの範囲
・筋力低下の部位
・腱反射の変化
・MRI上のヘルニアの高さと方向
・圧迫されている神経根
・ほかの病変の有無
画像所見と症状が一致しない場合には、別の病気や複数の原因を考えます。
ほかの病気との違い
急性腰痛症
一般に「ぎっくり腰」と呼ばれる急性腰痛症では、腰の痛みが中心です。
脚のしびれ、神経に沿った痛み、筋力低下などがある場合には、腰椎椎間板ヘルニアなどを確認します。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症では、歩くと脚が痛む・しびれるものの、座る、前かがみになると軽くなる間欠性跛行が特徴です。
椎間板ヘルニアでは、座位や前屈で症状が強くなる場合があります。
両者を合併することもあります。
腰椎すべり症
椎骨が前後へずれ、神経を圧迫する病気です。
腰痛や脚の痛み・しびれを起こします。
立位X線やMRIで評価します。
腰椎分離症
成長期のスポーツ選手に多く、腰を反らす・ひねる動作で腰痛が強くなる傾向があります。
すべり症へ進行すると、脚の症状を伴う場合があります。
梨状筋症候群・深殿部症候群
臀部の深い部分で坐骨神経が刺激され、臀部から脚に痛み・しびれが現れます。
腰椎MRIで神経圧迫が確認できない場合に検討します。
股関節疾患
変形性股関節症などでは、鼠径部、太もも、臀部に痛みが出ます。
股関節を動かした際の痛みや可動域制限がみられます。
仙腸関節障害
骨盤後方の仙腸関節が痛みの原因となり、臀部や脚へ痛みが広がる場合があります。
末梢神経障害
腓骨神経障害、脛骨神経障害、足根管症候群などでも、足のしびれや筋力低下が起こります。
神経伝導検査や筋電図検査が役立つ場合があります。
閉塞性動脈硬化症
脚の血流が低下し、歩行時にふくらはぎなどが痛む病気です。
休むと改善するため腰部脊柱管狭窄症と似ていますが、足の脈、皮膚温、血圧などを確認して区別します。
化膿性脊椎炎・硬膜外膿瘍
細菌感染によって、強い腰痛、発熱、神経症状が現れます。
糖尿病、透析、免疫抑制状態、最近の感染症や手術などがある方では注意が必要です。
脊椎・脊髄腫瘍
腫瘍によって腰痛や脚の症状が起こる場合があります。
安静時・夜間にも強く痛む、体重減少、がんの既往などがある場合には詳しい検査が必要です。
椎体骨折
骨粗鬆症のある方では、軽い転倒や荷物を持つ動作だけで腰椎を骨折することがあります。
寝返りや起き上がりで強く痛む場合には、骨折を確認します。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査
当院では、腰や脚の痛み・しびれの範囲、筋力低下、感覚障害、腱反射、歩行状態などを確認し、画像所見と症状が一致しているかを総合的に判断します。
腰椎椎間板ヘルニアはX線だけでは確定できないため、必要に応じてMRI検査などを検討します。
問診
症状の始まり方や神経障害の有無を確認します。
主に次のような点について確認します。
・いつから症状があるか
・重い物を持った、転倒したなどのきっかけがあるか
・腰と脚のどちらが強く痛むか
・どこからどこへ痛み・しびれが広がるか
・片脚か両脚か
・座位、前屈、歩行などで症状が変化するか
・咳やくしゃみで痛みが増すか
・足へ力が入りにくいか
・つまずく、足を引きずることがあるか
・尿が出にくい、尿意が分かりにくいなどの変化があるか
・陰部や肛門周囲にしびれがあるか
・発熱、体重減少、夜間痛があるか
・がん、感染症、骨粗鬆症などの既往があるか
姿勢・歩行の確認
身体が痛みを避ける方向へ傾いていないかを確認します。
歩行では次の状態を評価します。
・通常歩行
・つま先歩き
・かかと歩き
・片脚立ち
・足を引きずっていないか
・左右の歩幅
・方向転換
筋力検査
股関節、膝、足首、足趾などへ力を入れ、左右差を確認します。
特に足首や足趾の筋力低下は、患者さま自身が気づきにくい場合があります。
感覚検査
太もも、すね、足の甲、足裏などの触覚や痛覚を左右で比較します。
必要に応じて、陰部・肛門周囲の感覚も確認します。
腱反射
膝蓋腱反射やアキレス腱反射を確認します。
神経根が障害されると、対応する反射が弱くなる場合があります。
下肢伸展挙上テスト
仰向けで膝を伸ばしたまま、脚をゆっくり持ち上げます。
臀部から膝より下へ神経痛が再現される場合には、下位腰椎の神経根刺激が疑われます。
腰や太ももの裏が伸びる感覚だけでは、陽性とは限りません。
急性期の強い痛みがある場合には、無理に高く持ち上げません。
大腿神経伸展テスト
うつ伏せまたは横向きの状態で膝を曲げ、股関節を伸ばす方向へ動かします。
太ももの前面に神経痛が現れる場合には、上位腰椎神経根の障害を考えます。
膀胱・直腸機能の確認
馬尾症候群が疑われる場合には、排尿状態、残尿感、便意、肛門・会陰部の感覚などを確認します。
必要に応じて、超音波で排尿後の膀胱内に残っている尿量を測定します。
X線検査
椎間板や神経は、通常のX線には直接写りません。
X線では主に次の状態を確認します。
・腰椎の配列
・椎間板腔の狭小化
・骨棘
・腰椎すべり症
・腰椎分離症
・側弯
・骨折
・腫瘍を疑う骨変化
・腰椎の不安定性
腰椎椎間板ヘルニアの確定診断は、X線だけではできません。
MRI検査
MRIは、腰椎椎間板ヘルニアの診断において中心となる検査です。
次のような点を評価します。
・ヘルニアの高さ
・突出する方向
・神経根・馬尾神経の圧迫
・ヘルニアの大きさと形
・上方・下方への移動
・脊柱管狭窄症の合併
・腫瘍、感染、骨折などの可能性
典型的な症状がなく、短期間で改善傾向にある軽症例では、最初からMRIを行わない場合もあります。
次のような場合には、早期のMRIを検討します。
・脚の筋力低下がある
・麻痺が進行している
・馬尾症候群が疑われる
・強い症状が続いている
・手術や椎間板内治療を検討している
・感染症や腫瘍が疑われる
・診察所見と経過が典型的でない
MRIでヘルニアが確認されても、症状と圧迫神経が一致しているかを確認します。
MRI・CT検査について
MRIは腰椎椎間板ヘルニアの診断において中心となる検査です。神経根や馬尾神経への圧迫、ヘルニアの高さ、突出方向、感染症や腫瘍などの可能性を確認します。
CTは骨の状態や椎間孔周囲の骨性狭窄、手術計画などを確認する際に役立ちます。
当院でMRI・CTによる詳しい評価が必要と判断した場合には、提携医療機関で検査をご案内し、画像所見と診察所見を合わせて治療方針を検討します。
腰椎椎間板ヘルニアの治療
治療方法は、痛みの強さだけでなく、筋力低下、排尿・排便障害、日常生活への影響、症状の期間などを踏まえて決定します。
保存療法が基本となる場合
次のような場合には、まず保存療法を行うことが一般的です。
・痛みやしびれが中心である
・重い筋力低下がない
・麻痺が進行していない
・排尿・排便障害がない
・痛みをある程度管理できる
・症状が改善傾向にある
突出した椎間板組織が自然に縮小・吸収され、症状が改善する場合があります。
早期の手術検討が必要な場合
・馬尾症候群が疑われる
・脚の麻痺が急速に進行している
・下垂足など明らかな運動麻痺がある
・耐え難い痛みを管理できない
・保存療法を行っても強い症状が続く
・仕事や日常生活への支障が非常に大きい
安静と活動量の調整
急性期に激しい腰痛や脚の痛みがある場合には、短期間、楽な姿勢で休みます。
ただし、長期間の寝たきりは推奨されません。
長く横になり続けると、体幹・下肢筋力や全身持久力が低下し、職場や日常生活への復帰が遅れる場合があります。
痛みが許す範囲で、短い歩行や日常動作を続けます。
次の動作は一時的に控えます。
・前かがみで重い物を持つ
・身体をひねりながら持ち上げる
・長時間の座位
・痛みを我慢した筋力トレーニング
・強い衝撃を伴う運動
・長時間の中腰作業
動かないことを目標にするのではなく、症状を強く悪化させない範囲で活動を維持することが重要です。
薬物療法
消炎鎮痛薬
神経周囲の炎症や痛みを軽減する目的で使用します。
胃腸障害、腎機能障害、血圧上昇、むくみなどに注意します。
アセトアミノフェン
痛みを軽減するために使用します。
ほかの風邪薬や鎮痛薬との重複、肝機能障害に注意します。
神経障害性疼痛に対する薬
電撃痛、焼けるような痛み、しびれを伴う痛みに対して使用することがあります。
眠気、ふらつき、むくみ、吐き気などが現れる場合があります。
自動車運転や転倒に注意が必要です。
筋緊張を和らげる薬
痛みに伴って腰背部の筋肉が強く緊張している場合に使用することがあります。
眠気やふらつきに注意します。
強い鎮痛薬
痛みが非常に強い場合には、症例を選んで短期間使用することがあります。
眠気、吐き気、便秘、依存、呼吸抑制などの問題があるため、慎重に使用します。
薬物療法は痛みを軽減するものであり、突出した椎間板を直接取り除く治療ではありません。
リハビリテーション
急性の強い痛みが落ち着いた後は、症状に合わせてリハビリテーションを行います。
主な内容には次のようなものがあります。
・痛みを悪化させにくい姿勢の指導
・安全な寝返り・起き上がり
・歩行訓練
・腰椎、股関節周囲の可動性改善
・体幹筋の機能改善
・下肢筋力訓練
・神経の滑走を意識した運動
・仕事や家事動作の修正
・再発予防のための持ち上げ動作指導
すべての患者さまへ同じ運動を行うわけではありません。
腰を曲げると悪化する方、反らすと悪化する方など、症状の反応には個人差があります。
運動中に次の変化がある場合には中止します。
・痛みやしびれが足先方向へ広がる
・脚の筋力が低下する
・足が動かしにくくなる
・会陰部のしびれが現れる
・排尿に変化が出る
コルセット
急性期の痛みが強い場合に、腰部コルセットを一時的に使用することがあります。
体幹の動きを制限し、日常動作を行いやすくすることが目的です。
コルセットによってヘルニアが元へ戻るわけではありません。
長期間常に使用すると、体幹筋の活動が低下する場合があります。
使用する時間や期間は、症状に応じて調整します。
神経根ブロック・硬膜外ブロック
薬物療法で改善しない強い脚の痛みに対して、神経根ブロックや硬膜外ブロックを行うことがあります。
局所麻酔薬や副腎皮質ステロイド薬などを、神経根や硬膜外腔の周囲へ注射します。
主な目的は次のとおりです。
・神経根周囲の炎症を抑える
・脚の痛みを一時的に軽減する
・症状の原因となる神経根を確認する
・リハビリテーションを行いやすくする
ブロックによって突出した椎間板が消えるわけではありません。
効果は一時的な場合があり、すべての方に有効とは限りません。
主なリスクには次のようなものがあります。
・出血、血腫
・感染
・神経損傷
・硬膜穿刺、頭痛
・薬剤アレルギー
・血糖値の上昇
・一時的な脚の脱力
・まれな重篤な神経合併症
抗凝固薬や抗血小板薬を使用している場合には、休薬の可否を含めて慎重に判断します。
椎間板内酵素注入療法について
選択された症例では、椎間板内酵素注入療法を検討することがあります。
この治療はすべての腰椎椎間板ヘルニアに行うものではなく、ヘルニアの形、神経症状、年齢、既往歴、禁忌などを確認したうえで適応を判断します。
強い麻痺や馬尾症候群が疑われる場合には、酵素注入療法ではなく早期の手術を検討することがあります。
体外衝撃波治療・PRP療法について
体外衝撃波治療は、腰部や臀部周囲の慢性的な筋腱付着部痛などが併存する場合に検討することがあります。腰椎椎間板ヘルニアそのものを引っ込めたり、神経圧迫を直接取り除いたりする治療ではありません。
PRP療法は、患者さんご自身の血液を採取し、血小板を多く含む成分を抽出して注入する治療です。
腰椎椎間板ヘルニアに対するPRP療法は、標準的な第一選択治療ではなく、突出した椎間板を取り除く治療でもありません。症状、画像所見、痛みの原因、神経障害の有無を確認したうえで、適応は慎重に判断します。
体外衝撃波治療とPRP療法は、保険適用外の自費診療となります。
体外衝撃波治療について詳しくはコチラ
PRP療法について詳しくはコチラ
整体・強い矯正について
腰椎椎間板ヘルニアによる神経障害がある状態で、腰を強くひねる、急激に反らす、強い力で矯正する施術を受けると、症状が悪化する可能性があります。
特に次の症状がある場合には、強い矯正を受ける前に整形外科で評価してください。
・脚の筋力低下
・下垂足
・歩行障害
・両脚の強いしびれ
・会陰部の感覚低下
・排尿・排便障害
・発熱や夜間痛
マッサージによって筋肉の張りが一時的に軽くなることはありますが、神経を圧迫している椎間板組織を取り除く治療ではありません。
手術治療
保存療法で十分に改善しない場合や、重い神経障害がある場合には手術を検討します。
手術の目的は、神経を圧迫している椎間板組織を取り除くことです。
腰椎全体の椎間板をすべて取り除くのではなく、神経を圧迫している部分を中心に切除します。
緊急手術を検討する場合
・馬尾症候群
・急速に進行する両脚または片脚の麻痺
・排尿・排便障害
・会陰部の感覚低下
・重度の神経障害
予定手術を検討する場合
・保存療法で強い脚の痛みが改善しない
・仕事や日常生活への支障が大きい
・筋力低下がある
・歩行が難しい
・症状と画像上の神経圧迫が一致している
・患者さまが早期の改善を希望し、利益とリスクを理解している
手術を受ける時期は、症状の強さ、麻痺の有無、仕事、生活状況などを踏まえて決定します。
手術後のリハビリテーション
早期離床
全身状態と神経症状を確認し、医師の許可後に座位、立位、歩行を開始します。
歩行訓練
最初は短い距離から始め、痛みや筋力を確認しながら距離を延ばします。
筋力・柔軟性訓練
体幹、股関節、下肢の筋力と柔軟性を段階的に回復させます。
生活動作の練習
起き上がり、靴下の着脱、物の持ち上げ方などを練習します。
神経症状の経過観察
脚の痛みは手術後早期に改善する場合がありますが、しびれや筋力低下は時間をかけて回復することがあります。
手術後に新たな麻痺、会陰部の感覚低下、排尿障害が出た場合には、直ちに医療機関へ連絡してください。
仕事への復帰
復帰時期は、手術の有無、症状、仕事内容によって異なります。
デスクワークでは、長時間座り続けず、定期的に立つ・歩く時間を作ります。
次のような仕事では、より慎重な復帰が必要です。
・重量物を持つ
・中腰作業が多い
・介助や抱き上げを行う
・身体をひねる動作が多い
・長時間運転する
・高所作業を行う
スポーツへの復帰
痛み、筋力、神経症状を確認しながら段階的に復帰します。
次の状態を確認します。
・安静時の強い痛みがない
・脚の痛みが悪化していない
・必要な筋力が回復している
・片脚立ちや軽いジャンプが安定している
・競技動作でしびれが広がらない
・翌日に症状が大きく増えない
急に元の練習量へ戻さず、歩行、軽い有酸素運動、基礎的な筋力訓練から進めます。
自宅での注意点
・長時間同じ姿勢を続けない
・座位では定期的に立ち上がる
・荷物は身体へ近づけて持つ
・膝と股関節を使って持ち上げる
・身体をひねりながら荷物を持たない
・急に高負荷の運動を始めない
・長期間寝たきりにならない
・痛み止めを重複して使用しない
・しびれだけでなく筋力を確認する
・排尿・排便の変化を見逃さない
・喫煙している場合は禁煙を検討する
腰椎椎間板ヘルニアでお悩みの方へ
次のような症状がある場合には、腰椎椎間板ヘルニアの可能性があります。
・腰から臀部、脚へ痛みが広がる
・片脚に電気が走るような痛みがある
・脚や足がしびれる
・座っていると症状が強くなる
・前かがみで脚が痛む
・咳やくしゃみで脚へ痛みが走る
・足首や足の親指へ力が入りにくい
・つま先立ち、かかと歩きが難しい
・つまずきやすくなった
・痛みで身体が左右へ傾いている
・腰痛よりも脚の痛みが強い
・MRIで椎間板ヘルニアを指摘された
次のような場合には、早めに整形外科・脊椎脊髄外科を受診してください。
・脚の筋力が低下している
・足首が持ち上がらない
・つまずく回数が増えている
・歩行が難しくなっている
・痛みが強く、眠れない
・薬物療法を行っても改善しない
・症状が徐々に悪化している
・発熱や強い夜間痛がある
・がんや感染症の既往がある
・転倒や事故後に症状が始まった
次のような症状は、馬尾症候群や重い神経障害の可能性があります。
直ちに救急受診してください。
・尿を出せない
・急に尿を漏らすようになった
・便を漏らすようになった
・尿意や便意を感じにくい
・肛門・陰部周囲がしびれている
・太ももの内側の感覚が鈍い
・両脚へ急に力が入らなくなった
・両脚のしびれや痛みが急速に悪化した
・片脚の麻痺が急速に進んでいる
診察では、痛み・しびれの範囲、筋力、感覚、腱反射、歩行、下肢伸展挙上テストなどを確認します。
筋力低下、馬尾症候群、感染・腫瘍などが疑われる場合には、早期にMRI検査を行います。
腰椎椎間板ヘルニアの多くは、薬物療法、活動量の調整、リハビリテーション、神経ブロックなどの保存療法で改善を目指します。
選択された症例では、椎間板内酵素注入療法を検討することがあります。
保存療法で強い症状が改善しない場合、麻痺が進行している場合、馬尾症候群がある場合には、顕微鏡や内視鏡を用いた椎間板摘出術などを検討します。
MRI上のヘルニアの大きさだけで治療を決めず、現在の症状、神経障害、生活への影響を含めて治療方針を相談することが重要です。
当院での診療について
当院では、腰から臀部・脚へ広がる痛み、しびれ、筋力低下、歩行障害、排尿・排便の変化などを確認し、診察所見と画像所見を合わせて治療方針を判断します。
軽症から中等症では、薬物療法、活動量の調整、リハビリテーション、コルセット、神経ブロックなどの保存療法を行います。
脚の麻痺が進行している場合、馬尾症候群が疑われる場合、保存療法でも強い痛みが改善しない場合には、脊椎手術に対応している医療機関へご紹介します。
MRIでヘルニアがあるという画像所見だけで治療を決めるのではなく、現在の症状、神経障害、生活への影響を含めて相談しながら治療を進めます。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫