仙腸関節炎

仙腸関節炎

仙腸関節炎について

仙腸関節炎(せんちょうかんせつえん)は、骨盤の後方にある仙腸関節に炎症が起こり、腰の下部や臀部に痛みを生じる病気です。
医学的には「sacroiliitis」と呼ばれます。
仙腸関節は左右に一つずつあるため、片側だけに炎症が起こる場合と、左右両側に起こる場合があります。
主な症状には次のようなものがあります。
・腰の下部から臀部の痛み
・左右どちらか、または両側の臀部痛
・寝返りや立ち上がりでの痛み
・長時間の座位・立位での痛み
・階段昇降や片脚立ちでの痛み
・夜間や早朝の腰・臀部痛
・朝のこわばり
・鼠径部や太ももへ広がる痛み
ただし、「仙腸関節炎」という名称が、仙腸関節周辺に起こる痛み全般を指して使用されることがあります。
炎症性疾患がないにもかかわらず、荷重や動作によって仙腸関節周辺が痛む状態は、一般に「仙腸関節障害」または「仙腸関節性疼痛」と呼ばれます。
厳密には、次の状態は区別して考える必要があります。
・脊椎関節炎による炎症性仙腸関節炎
・細菌感染による化膿性仙腸関節炎
・外傷や負荷による機械的な仙腸関節障害
・変形性変化による仙腸関節痛
・妊娠・出産に関連する骨盤帯痛
・骨折、腫瘍などによる仙腸関節周囲の痛み
痛む場所や誘発テストだけで原因を確定することはできません。
症状の経過、年齢、発熱の有無、血液検査、画像検査などを組み合わせて診断します。

仙腸関節の構造

骨盤は、左右の寛骨と中央の仙骨などによって構成されています。
仙腸関節は、仙骨と腸骨をつなぐ関節です。
背骨から骨盤へ伝わる上半身の重さを、左右の下肢へ分散する役割があります。
関節の前方には関節軟骨と滑膜があり、後方は強い靱帯によって支えられています。
主な靱帯には次のものがあります。
・前仙腸靱帯
・骨間仙腸靱帯
・後仙腸靱帯
・仙結節靱帯
・仙棘靱帯
仙腸関節の動く範囲は大きくありません。
歩行、立ち上がり、出産などの際に、わずかに回旋・移動します。
動きが小さい関節であるため、触診だけで「関節が何ミリずれている」「骨盤が外れている」と正確に判断することは困難です。
仙腸関節の痛みには、関節内部だけでなく、後方の靱帯や周囲の筋肉などが関係する場合があります。

仙腸関節炎と仙腸関節障害の違い

仙腸関節炎

関節内や関節周囲に炎症性の変化がある状態です。
主な原因には次のものがあります。
・体軸性脊椎関節炎
・強直性脊椎炎
・乾癬性関節炎
・反応性関節炎
・炎症性腸疾患に伴う関節炎
・若年性特発性関節炎の一部
・細菌感染
血液検査で炎症反応がみられたり、MRIで骨髄浮腫などが確認されたりする場合があります。

仙腸関節障害・仙腸関節性疼痛

炎症性疾患や感染症がなく、荷重、外傷、妊娠出産、周囲組織への反復負荷などによって仙腸関節周辺に痛みが生じる状態です。
画像検査で明らかな炎症が確認できないことも少なくありません。
次の動作で痛みが変化しやすい傾向があります。
・寝返り
・椅子からの立ち上がり
・階段昇降
・片脚立ち
・大股で歩く
・車の乗り降り
・長時間の座位・立位
両者は治療が異なるため、「仙腸関節が痛い」という情報だけで炎症性疾患と判断しないことが重要です。

炎症性仙腸関節炎

炎症性仙腸関節炎の代表的な原因は、体軸性脊椎関節炎です。
体軸性脊椎関節炎は、仙腸関節や脊椎を中心に炎症が起こる病気の総称です。
X線で仙腸関節の明らかな変化が確認できるものは、強直性脊椎炎またはX線基準を満たす体軸性脊椎関節炎と呼ばれます。
X線では明確な変化がなく、MRIや臨床所見から診断されるものは、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎と呼ばれます。

炎症性腰痛の特徴

次のような特徴が複数ある場合には、炎症性の仙腸関節炎を考えます。
・45歳未満で発症した
・3か月以上腰痛が続いている
・安静にしても改善しにくい
・身体を動かすと軽くなる
・夜間、特に明け方に痛みで目が覚める
・朝のこわばりがある
・臀部痛が左右交互に起こる
・消炎鎮痛薬を服用すると比較的速やかに軽くなる
これらの特徴があっても、必ず体軸性脊椎関節炎とは限りません。
逆に、すべてがそろわなくても病気を否定できません。

関連する症状

体軸性脊椎関節炎では、腰や仙腸関節以外にも症状が現れる場合があります。
・かかとや足裏の付着部痛
・アキレス腱付着部痛
・膝や足関節の腫れ
・手足の指全体が腫れる指趾炎
・眼の痛み、充血、まぶしさを伴うぶどう膜炎
・乾癬、頭皮や爪の変化
・持続する下痢、血便、腹痛
・クローン病、潰瘍性大腸炎
・尿路・生殖器感染や胃腸炎後の関節症状
これらの症状がある場合には、整形外科だけでなくリウマチ科、眼科、皮膚科、消化器内科などとの連携が必要です。

強直性脊椎炎

強直性脊椎炎は、仙腸関節と脊椎に慢性的な炎症が起こる病気です。
若い年齢から腰・臀部痛で発症することが多く、安静よりも運動で軽くなる傾向があります。
病気が進行すると、仙腸関節の関節裂隙が狭くなったり、脊椎の靱帯や関節周囲に新しい骨が形成されたりする場合があります。
すべての患者さまで脊椎が完全に硬くなるわけではありません。
早期に診断し、運動療法と薬物療法を適切に行うことが重要です。

乾癬性関節炎

皮膚の乾癬に関連して起こる関節炎です。
仙腸関節炎や脊椎炎を起こす場合があります。
体幹や頭皮、肘、膝などの皮疹だけでなく、爪の点状のへこみ、爪が浮く、変色するなどの変化が手がかりとなることがあります。
皮膚症状より先に関節症状が現れる場合もあります。
乾癬性関節炎の仙腸関節炎は、左右非対称に起こることがあります。

反応性関節炎

胃腸炎や尿路・生殖器感染などの後に、免疫反応によって関節炎が起こる病気です。
仙腸関節炎のほか、膝・足関節炎、付着部炎、眼の炎症、排尿症状などを伴う場合があります。
関節内に細菌が直接感染している化膿性関節炎とは異なります。

炎症性腸疾患に伴う仙腸関節炎

クローン病や潰瘍性大腸炎に伴い、仙腸関節炎や脊椎炎が起こる場合があります。
下痢、血便、腹痛、体重減少などがある場合には、消化器疾患も含めて評価します。
腸の症状と関節の症状が必ず同時に悪化するとは限りません。

化膿性仙腸関節炎

化膿性仙腸関節炎は、細菌が仙腸関節へ侵入して炎症を起こす病気です。
まれな病気ですが、診断や治療が遅れると、関節や骨の破壊、周囲の膿瘍、敗血症などにつながる可能性があります。
多くは片側に起こります。

主な症状

・片側の臀部や腰の非常に強い痛み
・発熱、悪寒
・全身のだるさ
・歩けない、脚へ体重をかけられない
・寝返りや股関節を動かしたときの激痛
・安静にしていても続く痛み
・夜間痛
・鼠径部や太ももへの痛み
発熱がはっきりしない場合もあります。
腰椎疾患、股関節疾患、筋肉痛などと誤認され、診断が遅れることがあります。

発症リスク

・糖尿病
・免疫機能の低下
・ステロイド薬や免疫抑制薬の使用
・妊娠中・産後
・最近の細菌感染
・皮膚感染症
・静脈内薬物使用
・透析
・悪性腫瘍
・外傷や手術
・菌血症、敗血症
血液検査、血液培養、MRIなどを行い、必要に応じて関節や膿瘍から検体を採取します。
治療には抗菌薬が必要です。
膿瘍がある場合や、抗菌薬だけでは改善しない場合には、穿刺や外科的な排膿を行うことがあります。

機械的な仙腸関節障害

仙腸関節周辺に繰り返し負荷が加わることで、関節、後方靱帯、周囲の筋肉などから痛みが生じると考えられる状態です。
必ずしも関節内部に炎症が起こっているわけではありません。

発症のきっかけ

・尻もち、転倒
・交通事故
・重い物を持ち上げる
・身体をひねる
・段差を踏み外す
・片脚へ急に体重をかける
・長時間の立ち仕事
・左右非対称の反復動作
・ランニングやジャンプ
・ゴルフなどの回旋運動
・妊娠・出産
・腰椎固定術後
はっきりしたきっかけがなく、徐々に痛みが出る場合もあります。

主な症状

・上後腸骨棘付近を指一本で示せる臀部痛
・片側に強い腰・臀部痛
・寝返りで痛む
・椅子から立つときに痛む
・階段を上り下りすると痛む
・片脚に体重をかけると痛む
・車の乗り降りで痛む
・患側を下にして寝ると痛む
・長時間座る、立つと痛む
・鼠径部や太ももへ痛みが広がる
痛みが膝より下へ広がる場合もありますが、脚の明らかな筋力低下や腱反射の異常がある場合には、腰椎神経根障害を確認します。

妊娠・産後の仙腸関節痛

妊娠中は体重や姿勢が変化し、骨盤周囲の靱帯にも影響が加わります。
出産時には骨盤帯へ大きな負担がかかるため、妊娠中や産後に仙腸関節周辺の痛みが生じる場合があります。
主な症状には次のものがあります。
・寝返りでの痛み
・片脚で立つ動作の痛み
・階段昇降時の痛み
・歩行時の臀部痛
・赤ちゃんを抱き上げたときの痛み
・ベッドや車から脚を開いて乗り降りするときの痛み
妊娠・産後の骨盤帯痛は、多くの場合、機械的な負荷や骨盤帯の安定性の変化が関係します。
一方、産後に発熱と強い片側臀部痛がある場合には、化膿性仙腸関節炎を除外する必要があります。
また、産後や長距離ランナーなどでは、仙骨疲労骨折が似た症状を起こすことがあります。

変形性仙腸関節症

年齢とともに仙腸関節の軟骨や骨に変性が生じ、関節裂隙の狭小化、骨硬化、骨棘などがみられることがあります。
画像上の変形があっても、症状がないことは少なくありません。
CTで変形が確認されたという理由だけで、現在の痛みの原因を仙腸関節と断定することはできません。

腸骨硬化性骨炎

腸骨硬化性骨炎は、仙腸関節の腸骨側に三角形状の骨硬化がみられる状態です。
出産経験のある女性などに認められることがあります。
画像上は仙腸関節炎に似て見える場合がありますが、通常は関節裂隙が保たれ、明らかな骨びらんを伴いません。
無症状のことも多く、腰・臀部痛がある場合も保存療法が中心です。
体軸性脊椎関節炎と区別する必要があります。

仙骨疲労骨折・脆弱性骨折

仙骨に疲労骨折や骨粗鬆症性骨折が起こると、仙腸関節周辺に強い痛みが現れます。
次のような方では注意が必要です。
・骨粗鬆症のある高齢者
・軽い転倒後から痛む
・長距離走などを行う選手
・妊娠・産後
・放射線治療歴がある
・ステロイド薬を長期間使用している
単純X線で分かりにくい場合があり、MRIやCTを検討します。

仙腸関節周辺の痛みと区別が必要な病気

腰椎椎間板ヘルニア

臀部から脚にかけて、神経の走行に沿った痛み・しびれが現れます。
足首や足趾の筋力低下、腱反射の低下などを伴う場合があります。

腰部脊柱管狭窄症

立位や歩行を続けると脚の痛み・しびれが強くなり、座る、前かがみになると軽くなる間欠性跛行が特徴です。

腰椎椎間関節性疼痛

腰を反らす、ひねる動作で腰の片側が痛むことがあります。
臀部や太ももへ関連痛が広がる場合があります。

筋筋膜性腰痛症

腰や臀部の筋肉に圧痛やこわばりがあり、姿勢や反復作業で症状が変化します。
仙腸関節障害と同時に存在する場合もあります。

変形性股関節症

鼠径部を中心に痛み、股関節を曲げる・ひねる動作が制限されます。
靴下の着脱や車の乗り降りが難しくなることがあります。

大腿骨頭壊死症

鼠径部や臀部に痛みが現れます。
ステロイド薬の使用歴や多量飲酒歴がある場合などに注意します。

深殿部症候群

臀部深部で坐骨神経が刺激され、長時間の座位で臀部から脚に痛みが出ます。

梨状筋症候群

臀部の梨状筋周辺で坐骨神経が刺激されると、臀部から脚へ痛み・しびれが現れます。

恥骨結合炎

骨盤前方の恥骨結合周辺に痛みが生じます。
走行、キック、方向転換、妊娠出産などと関係する場合があります。

腎臓・尿路疾患

尿路結石、腎盂腎炎などでも腰・脇腹の痛みが現れます。
血尿、発熱、排尿時痛、吐き気などを伴う場合があります。

婦人科疾患

子宮内膜症、卵巣疾患、骨盤内炎症性疾患などが、腰・骨盤・臀部痛として感じられる場合があります。

腫瘍

仙骨、腸骨、骨盤内の腫瘍やがんの骨転移でも、仙腸関節周辺が痛むことがあります。
安静時痛、夜間痛、体重減少、がんの既往などがある場合には詳しい検査が必要です。

高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査

問診

主に次の内容を確認します。
・いつから痛むか
・片側か両側か
・上後腸骨棘付近を指一本で示せるか
・急に始まったか、徐々に始まったか
・転倒、出産、運動などのきっかけ
・寝返り、立ち上がり、階段で悪化するか
・安静と運動のどちらで軽くなるか
・夜間や早朝に痛むか
・朝のこわばりがあるか
・発熱、悪寒があるか
・眼の充血や痛みがあるか
・乾癬や爪の変化があるか
・下痢、血便、腹痛があるか
・最近、胃腸炎や尿路感染があったか
・脚のしびれや筋力低下があるか
・排尿・排便障害があるか
・がん、感染症、骨粗鬆症などの既往

痛みの位置

機械的な仙腸関節障害では、患者さまが上後腸骨棘のすぐ内側や下側を指一本で示すことがあります。
これをFortin finger signと呼ぶことがあります。
痛む場所は診断の手がかりになりますが、その場所を指しただけで仙腸関節由来と確定することはできません。

歩行・姿勢の確認

・左右どちらかをかばっていないか
・歩幅が小さくなっていないか
・片脚荷重で痛むか
・骨盤や体幹が傾いていないか
・杖や手すりが必要か
などを確認します。

腰椎・股関節の診察

仙腸関節周辺の痛みは、腰椎や股関節疾患でも起こります。
腰椎の動き、股関節の可動域、脚の筋力・感覚・腱反射なども確認します。

仙腸関節誘発テスト

仙腸関節周辺へ異なる方向から負荷を加え、普段の痛みが再現されるかを確認します。
主なテストには次のものがあります。
・大腿スラストテスト
・仙骨スラストテスト
・仙腸関節圧迫テスト
・仙腸関節離開テスト
・Gaenslenテスト
・FABERテスト
一つの誘発テストだけでは、診断の精度が十分ではありません。
複数のテストのうち、3項目以上で普段の痛みが再現される場合には、機械的な仙腸関節性疼痛の可能性が高くなると考えられます。
ただし、誘発テストが陽性でも、炎症性疾患、感染症、骨折などとの区別はできません。
強い痛みがある場合、骨折や感染症が疑われる場合には、無理にテストを繰り返しません。

X線検査

骨盤正面X線などで仙腸関節の状態を確認します。
炎症性仙腸関節炎が進行すると、次のような変化がみられます。
・関節裂隙の不整
・骨びらん
・軟骨下骨の硬化
・関節裂隙の狭小化
・関節の癒合
初期の炎症はX線に写らない場合があります。
X線で異常がないという理由だけで、初期の体軸性脊椎関節炎を否定することはできません。
また、仙腸関節の形には個人差があり、加齢性変化や出産後の変化などが炎症性変化に似て見える場合があります。

血液検査

炎症性仙腸関節炎や感染症が疑われる場合には、症状に応じて血液検査を行います。
CRPや赤沈などの炎症反応、白血球数などを確認します。
体軸性脊椎関節炎が疑われる場合には、HLA-B27を検討することがあります。
HLA-B27や炎症反応が正常でも、体軸性脊椎関節炎を完全に否定できるわけではありません。
化膿性仙腸関節炎が疑われる場合には、血液培養を含めた速やかな検査が必要です。

MRI検査

当院でMRI検査の必要性を判断し、必要な場合には提携医療機関をご案内します。
MRIは、初期の炎症性仙腸関節炎を評価するうえで重要な検査です。
主に次の状態を確認します。
・骨髄浮腫
・骨炎
・関節周囲の炎症
・骨びらん
・脂肪沈着
・硬化や癒合
・感染症
・膿瘍
・仙骨疲労骨折
・腫瘍
体軸性脊椎関節炎が疑われ、X線で明確な仙腸関節炎が確認できない場合には、仙腸関節のMRIを検討します。
ただし、MRIの骨髄浮腫は体軸性脊椎関節炎だけに起こる変化ではありません。
次のような状態でも、仙腸関節周囲に似た信号変化が現れることがあります。
・出産後
・激しいスポーツ
・機械的な負荷
・骨折
・感染症
・変形性変化
MRI所見だけで診断せず、症状、血液検査、関連疾患などを合わせて判断します。

CT検査

当院でCT検査の必要性を判断し、必要な場合には提携医療機関をご案内します。
CTは、仙腸関節の骨の形を詳しく評価できます。
主に次の状態を確認します。
・骨びらん
・軟骨下骨硬化
・骨棘
・関節裂隙の狭小化
・関節癒合
・骨折
・感染による骨破壊
・腫瘍
骨の構造的な変化はMRIより分かりやすい場合があります。
一方、初期の活動性炎症を確認する目的ではMRIが適しています。
CTは放射線被ばくを伴うため、必要性を判断して行います。

超音波検査

仙腸関節は身体の深い位置にあり、骨に囲まれているため、超音波だけで関節内の炎症や骨変化を十分に評価することは困難です。
注射時に周囲の構造を確認する目的などで使用される場合があります。
感染症で臀部や腸腰筋周囲に膿瘍が疑われる場合には、ほかの画像検査と組み合わせます。

仙腸関節ブロック

機械的な仙腸関節性疼痛が疑われるものの、腰椎や股関節などとの区別が難しい場合には、画像を確認しながら仙腸関節内へ局所麻酔薬を注射することがあります。
普段の痛みが一時的に大きく軽減すれば、仙腸関節内が痛みに関係している可能性が高くなります。
仙腸関節ブロックは、主に関節内部から生じる痛みを確認する検査です。
関節後方の靱帯など、関節外から生じる痛みは十分に評価できない場合があります。
注射の効果だけで、脊椎関節炎や感染症などの原因を診断するものではありません。
主なリスクには次のものがあります。
・感染
・出血、血腫
・薬剤アレルギー
・一時的な脚のしびれ・脱力
・痛みの悪化
・血糖値の上昇
・効果が得られない
抗凝固薬や抗血小板薬を使用している場合には、自己判断で中止せず、事前に申告してください。

仙腸関節炎・仙腸関節障害に対する治療

仙腸関節炎の治療は、原因によって大きく異なります。
・機械的な仙腸関節障害
・体軸性脊椎関節炎
・化膿性仙腸関節炎
を区別することが重要です。

機械的な仙腸関節障害の治療

活動量の調整

痛みを強くする動作を一時的に減らします。
・長時間の片脚立ち
・階段の反復
・大股歩行
・患側を下にした寝姿勢
・重量物の運搬
・強いひねり動作
・痛みを我慢したランニングやジャンプ
長期間寝たままになる必要はありません。
痛みが許す範囲で、短い歩行や日常活動を続けます。

薬物療法

症状や基礎疾患に応じて、アセトアミノフェンや消炎鎮痛薬などを使用することがあります。
消炎鎮痛薬では次の副作用に注意します。
・胃腸障害
・腎機能障害
・血圧上昇
・むくみ
・喘息症状
・出血傾向
妊娠中や授乳中は、自己判断で市販薬を使用せず、医師や薬剤師へ相談してください。

リハビリテーション

機械的な仙腸関節障害では、腰だけでなく、骨盤帯、股関節、体幹、下肢の機能を評価します。
主な内容には次のものがあります。
・痛みを悪化させにくい寝返り・立ち上がり
・体幹・骨盤帯の安定化運動
・臀筋群の筋力訓練
・股関節周囲筋の機能改善
・股関節・胸椎の柔軟性改善
・歩行や片脚動作の練習
・仕事・家事・スポーツ動作の調整
・左右非対称な負荷の修正
「骨盤を常に締める」「腹部へ常に強く力を入れる」必要はありません。
動作に応じて必要な筋肉を使い、無理なく荷重できることを目指します。
運動で痛みが長時間強くなる場合や、しびれ・筋力低下が現れる場合には中止します。

骨盤ベルト

妊娠中・産後など、骨盤帯の支持によって痛みが軽くなる場合には、骨盤ベルトを使用することがあります。
強く締めすぎると、圧迫感、皮膚障害、しびれなどが生じる場合があります。
ベルトによって関節が元の位置へ永久に戻るわけではありません。
痛みの強い動作を補助する目的で使用します。

仙腸関節注射

保存療法で十分に改善しない場合には、画像誘導下で局所麻酔薬とステロイド薬などを注射することがあります。
診断と短期的な疼痛軽減の両方を目的とする場合があります。
繰り返し注射を行えば必ず根本的に治るものではありません。
感染症が疑われる場合には、ステロイド注射を行ってはいけません。

体外衝撃波治療

慢性的な痛みが続く場合には、体外衝撃波治療を検討することがあります。
治療中や治療後に一時的な痛み、赤み、皮下出血などが生じることがあります。
すべての仙腸関節障害に同じ効果が得られるわけではありません。
体外衝撃波治療は、保険適用外の自費診療となります。

体外衝撃波治療について詳しくはコチラ

PRP療法

PRP療法は、患者さんご自身の血液を採取し、血小板を多く含む成分を抽出して、仙腸関節などへ注入する治療です。PRP療法の効果には個人差があり、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。
感染症や炎症性疾患が疑われる場合には、PRP療法ではなく原因に対する治療を優先します。
診察と画像所見を確認し、仙腸関節内または周囲組織への治療適応を慎重に判断します。
注射後には、一時的に痛みや腫れが強くなることがあります。
PRP療法は保険適用外の自費診療です。

PRP療法について詳しくはコチラ

炎症性仙腸関節炎の治療

体軸性脊椎関節炎が疑われる場合には、リウマチ科などで全身の病状を評価します。

運動療法

炎症性腰痛では、長期間の安静よりも、症状に合わせて身体を動かすことが重要です。
主な内容には次のものがあります。
・脊椎と股関節の可動域運動
・姿勢と胸郭運動
・筋力・持久力訓練
・有酸素運動
・呼吸運動
・日常生活動作の維持
病状が強く悪化している時期には、運動量を調整します。

消炎鎮痛薬

禁忌がなければ、炎症性腰痛に対する薬物療法の一つとして使用されます。
胃腸、腎臓、心血管系などのリスクを確認します。

生物学的製剤・分子標的薬

消炎鎮痛薬と運動療法を行っても疾患活動性が高く、MRI炎症やCRP上昇などの客観的な所見がある場合には、専門医が次のような治療を検討します。
・TNF阻害薬
・IL-17阻害薬
・JAK阻害薬など
使用する薬は、乾癬、ぶどう膜炎、炎症性腸疾患などの合併症や感染症リスクを考慮して選択します。
治療開始前には、結核、肝炎などの感染症評価が必要になる場合があります。

局所ステロイド注射

仙腸関節炎による局所症状が強い場合に、画像誘導下の関節内注射を検討することがあります。
全身の体軸性脊椎関節炎を治療する代わりにはなりません。

化膿性仙腸関節炎の治療

化膿性仙腸関節炎は、運動療法や一般的な関節注射で経過をみる病気ではありません。
感染が疑われる場合には、速やかに医療機関で評価します。
主な治療には次のものがあります。
・入院管理
・血液培養などの検体採取
・抗菌薬治療
・膿瘍の穿刺・ドレナージ
・必要に応じた外科的洗浄・排膿
・全身状態と敗血症の管理
原因菌と薬剤感受性が判明した場合には、抗菌薬を調整します。
抗菌薬は自己判断で中断しないでください。

日常生活での注意点

・長時間同じ姿勢を続けない
・立ち上がる際は両脚へ均等に体重をかける
・片脚立ちでの着替えを避ける
・階段では手すりを利用する
・重い荷物を片側だけで持たない
・荷物は身体へ近づけて持つ
・身体をひねりながら持ち上げない
・車の乗り降りでは両脚をそろえて動かす
・患側を下にした寝姿勢で痛む場合は避ける
・横向きでは膝の間にクッションを挟む
・痛みを我慢して強いストレッチをしない
・適度な歩行と運動を続ける
炎症性仙腸関節炎では安静にしすぎるとこわばりや可動域制限が強くなる場合があります。
機械的な仙腸関節障害では、痛みを悪化させる負荷を一時的に調整し、段階的に活動を戻します。

早めに受診すべき症状

次のような場合には、整形外科またはリウマチ科を受診してください。
・臀部や腰の下部の痛みが数週間続く
・45歳未満で3か月以上腰痛が続く
・安静より運動で軽くなる
・夜間や明け方に痛みで目が覚める
・臀部痛が左右交互に起こる
・朝のこわばりが続く
・眼の充血、痛み、まぶしさがある
・乾癬や爪の変化がある
・下痢、血便、腹痛が続く
・かかとやアキレス腱付着部が痛む
・家族に脊椎関節炎や乾癬の方がいる
・寝返り、階段、片脚立ちで臀部が痛む
・妊娠中・産後の骨盤痛が強い
・保存療法を行っても改善しない

速やかな受診が必要な症状

次の症状がある場合には、化膿性仙腸関節炎、骨折、腫瘍などの可能性があります。
・発熱や悪寒を伴う臀部痛
・安静にしていても強く痛む
・夜間も持続する激痛
・片脚へ体重をかけられない
・急に歩けなくなった
・臀部が腫れている、赤い、熱を持っている
・産後に急激な片側臀部痛と発熱が出た
・最近、細菌感染症や手術を受けた
・免疫抑制薬を使用している
・透析を受けている
・原因不明の体重減少がある
・がんの既往がある
・転倒や事故後に強く痛む

直ちに救急受診すべき症状

次の症状がある場合には、馬尾症候群、重い感染症、神経障害などの可能性があります。
直ちに救急受診してください。
・尿を出せない
・急に尿や便を漏らすようになった
・尿意や便意が分からなくなった
・肛門、陰部、太ももの内側がしびれる
・両脚または片脚へ急に力が入らなくなった
・急速に脚の麻痺が進行している
・高熱、悪寒、意識障害を伴う
・血圧低下、冷汗、呼吸の速さなど敗血症を疑う症状がある
・大きな交通事故や高所転落後である

仙腸関節炎・仙腸関節障害でお悩みの方へ

診察では、痛みの位置、動作との関係、炎症性腰痛の特徴、発熱、乾癬・眼・腸の症状などを確認します。
機械的な仙腸関節障害が疑われる場合には、腰椎・股関節の診察と複数の誘発テストを組み合わせます。
体軸性脊椎関節炎が疑われる場合には、X線、MRI、CRP、HLA-B27などを検討します。
HLA-B27や炎症反応が正常でも、病気を完全には否定できません。
化膿性仙腸関節炎が疑われる場合には、MRI、血液培養、血液検査を速やかに行い、抗菌薬治療を開始します。
仙腸関節周辺の痛みをすべて「骨盤のずれ」と判断せず、炎症性疾患、感染症、骨折、腰椎・股関節疾患などを区別したうえで、原因に合った治療を行うことが重要です。
当院では、痛みの位置、動作との関係、腰椎・股関節の状態、神経症状、複数の仙腸関節誘発テストなどを組み合わせて評価します。
X線検査では、仙腸関節の変形、骨硬化、骨びらん、関節裂隙の変化、骨折などを確認します。
炎症性疾患や感染症が疑われる場合には、血液検査を行い、必要に応じてリウマチ科や対応可能な医療機関と連携します。
MRI検査やCT検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。
機械的な仙腸関節障害に対しては、薬物療法、活動量の調整、骨盤ベルト、リハビリテーション、注射治療などを症状に合わせて行います。
慢性的な痛みでは、状態に応じて体外衝撃波治療やPRP療法などの自費診療を検討する場合があります。
化膿性仙腸関節炎、骨折、腫瘍、重い神経障害などが疑われる場合には、速やかに専門医療機関へご紹介します。
腰の下部や臀部の痛みが続く場合には、すべてを「骨盤のずれ」と考えず、原因を確認することが大切です。早めにご相談ください。

監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫