お知らせ
1. PRPの基本定義
PRPは血液からどのように抽出されるか?
いま、再生医療という言葉を耳にする機会が増えています。その中でもPRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血しょう)療法は、患者さん自身の血液から血小板を多く含む成分を取り出し、患部へ注射する治療です。組織の修復反応を助けることが期待され、全国的に提供する施設が増えています。
PRPは、患者さんから採取した血液を高速で回転させる「遠心分離」によって作製します。遠心分離にかかる時間はキットによって異なりますが、一般的には10〜30分程度です。専用キットの価格が治療費に影響する場合もありますが、作製原理そのものは比較的シンプルです。
PRP治療では、作製方法だけでなく、どのタイミングで、どの部位へ、どのくらいの量を、何回投与するかも重要です。ここでは、PRPが血液から作られる仕組みと、血小板の働きについて詳しく説明します。
血小板とPRP治療の歴史
19世紀後半、顕微鏡による血液の観察が進み、血液中に存在する血小板が知られるようになりました。当初、血小板は血液が固まる際に働く小さな成分として理解されていました。
1960年代に電子顕微鏡が普及すると、血小板の内部にα(アルファ)顆粒という袋状の構造があることが分かりました。1970年代には、その中に組織修復に関係する成長因子が含まれていることが明らかになってきました。
血小板が刺激を受けると形を変え、α顆粒の膜が血小板の表面につながって、中にあるたんぱく質を外へ放出します。これを脱顆粒といいます。放出された成長因子は近くの細胞へ合図を送り、傷ついた組織の修復反応を助けます。
血小板が組織修復に関わることが分かると、血小板を多く集めて患部へ届けるという考えが生まれました。初期には歯科や口腔外科で、骨の欠損部位へ血小板濃縮物を加える試みが行われ、現在のPRP治療につながる考え方が広がりました。
2000年代になると、遠心分離機や専用キットが改良され、スポーツ整形や美容医療などでもPRPが注目されるようになりました。複数の成長因子などを含むPRPを患部へ戻し、体が本来持つ修復反応を引き出すという考え方が広まりました。
PRPの作り方
① 抗凝固剤入りの採血管で採血する
腕の静脈から血液を採取します。
血液が途中で固まらないよう、抗凝固剤が入った採血管を使用します。
② 遠心分離を行う
採取した血液を遠心分離機へ入れ、高速で回転させます。
回転数、回転時間、遠心回数は、使用するキットや作製方法によって異なります。
③ 血小板を多く含む部分を取り出す
遠心分離によってできた層から、血小板を多く含む部分を回収します。
この血小板を多く含む血しょうがPRPです。
血しょうと血清の違い
採血した血液は、抗凝固剤を入れないと自然に固まります。この違いが「血しょう」と「血清」の分かれ道になります。
抗凝固剤を入れて血液を固めずに遠心分離し、血球成分を取り除いた液体が血しょうです。何も加えずに血液を自然に固め、その後に分離して残る液体が血清です。
PRPはPlatelet-Rich Plasmaの略であるため、血清ではなく、血小板を多く含む血しょうです。
遠心分離で血液を層に分ける
遠心分離は洗濯機の脱水に似ています。重い赤血球は下へ沈み、比較的軽い血しょうは上に集まります。
その境目付近には、淡い雲のように見える層ができることがあります。ここには血小板や白血球が集まりやすく、この部分を適切に回収してPRPを作製します。
PRPの内容は、回転数、回転時間、遠心回数、回収する層の位置などによって変わります。
PRPにはどのような成分が含まれる?
・PDGF(血小板由来成長因子):血管形成や線維芽細胞の増殖を助け、損傷した組織の修復に関わります。
・TGF-β(トランスフォーミング成長因子β):細胞増殖やコラーゲン産生に関わり、炎症反応の調整にも関係します。
・VEGF(血管内皮成長因子):新しい血管が作られる過程を助け、組織への酸素や栄養の供給に関わります。
・IGF-1(インスリン様成長因子1):細胞増殖、たんぱく質合成、コラーゲン産生などに関係します。
・EGF(上皮細胞成長因):細胞の増殖や分化を助け、創傷治癒に関わります。
・FGF(線維芽細胞成長因子):血管、神経、皮膚、結合組織などの修復に関係します。
PRPは成長因子などのカクテル
PRPには成長因子だけでなく、サイトカイン、血しょう中のたんぱく質、細胞外小胞など、さまざまな成分が含まれます。
血小板の中にはα顆粒のほかにδ(デルタ)顆粒、ミトコンドリアなどがあり、血小板由来のエクソソームなども研究されています。また、白血球をどの程度含めるかもPRPの性質を左右する要素です。
そのためPRPは、単一の成分を投与する治療というより、複数の成分を含む「成長因子などのカクテル」と考えると分かりやすいでしょう。
一方で、PRPはまだ標準化の途中にあります。どの濃度や作製方法が最適か、どの病気でどの程度有効かについては、明らかになっていない部分もあります。
PRPは濃くなった血小板?
PRPは遠心分離によって血小板を濃縮して作ります。一般的な血液検査では、血小板数は1μLあたり約15万〜35万個が一つの目安です。
10mLの血液には、計算上15億〜35億個程度の血小板が含まれます。10mLの血液から最終的に1mLのPRPを作り、すべての血小板を回収できた場合には、理論上10倍濃縮になります。
ただし、実際の回収率は100%ではなく、作製の途中で一部の血小板が失われます。そのため、最終的に得られる血小板総数は、採血前の血小板濃度、採血量、回収率によって決まります。
作製できる血小板総数 = 採血前の血小板濃度 × 採血量 × 回収率
濃縮倍率だけでなく、最終的に患部へ投与される血小板総数を見ることが大切です。
濃度と血小板総数の考え方
10mLを4倍濃縮し、1mL投与する場合
濃度は高く見えますが、投与量は1mLです。
20mLを2倍濃縮し、2mL投与する場合
同じ回収率であれば、理論上の血小板総数が同じになる場合があります。
適切な血小板濃度とは
2001年にMarxらは、『1μLあたり100万個以上の血小板を含む血しょうをPRP』とする考え方を示しました。通常の血小板数と比べると、約4〜7倍程度になることが多く、一つの目安として用いられてきました。
ただし、PRPの濃度は最終的な液量によっても変わります。そのため、濃縮倍率だけを単純に比較するのではなく、投与する血小板総数やPRP量も確認する必要があります。
過度に高い血小板濃度では、血小板の凝集や成長因子の放出への影響が指摘されています。また、基礎研究では非常に高い濃度が一部の細胞へ悪影響を与える可能性も報告されています。
血小板は少なすぎても十分な成分を届けにくく、多ければ多いほどよいとも限りません。治療部位に合った濃度と総数を考えることが大切です。
1回遠心法と2回遠心法
PRPの作製方法には、1回遠心法と2回遠心法(ダブルスピン法)があります。
2回遠心法では、最初のソフトスピンで主に赤血球を分離し、次のハードスピンで血小板をさらに集めます。作製条件が適切であれば、安定して高い濃縮率を得やすい方法です。
一方、キットや作製方法によっては血小板が十分に濃縮されず、通常の血しょうに近い血小板濃度となることがあります。安定したPRPを投与するには、作製後の血小板数を実際に測定し、濃縮倍率や血小板総数を確認することが望まれます。
当院では、PRP作製後の血小板数を測定し、血小板総数を確認してから投与しています。作製する人による差を減らし、安定して十分な量のPRPを得られる方法を重視しています。
PRPの活性化とは
PRPの活性化とは、血小板へ刺激を与え、内部に保存されている成長因子やサイトカインの放出を始めさせる工程です。
血小板が活性化すると、α顆粒などから成分が放出され、炎症の調整、組織修復の開始、血管や細胞の働きの調整に関わります。
内因性活性化
薬剤を加えずにPRPを患部へ投与し、体内のコラーゲンや組織因子などによって自然に活性化させる方法です。
放出が比較的なだらかになると考えられ、関節内などへ無活性化の状態で投与する施設も多くあります。
外因性活性化
投与前に塩化カルシウムやトロンビンなどを加え、体外で血小板を活性化させる方法です。
投与前から成長因子の放出を始めさせ、放出のタイミングや勢いを調整することを目的とします。
無活性化で投与するという考え方
血小板は核を持たないため、内容物を放出した後に自ら修復して長く働き続けるわけではありません。また、放出された成分は時間とともに分解されます。
筆者は、より多くの血小板成分を患部へ届けるため、無活性化の状態で投与し、体内で自然に活性化させる方法が望ましいと考えています。ただし、適した方法は治療部位や目的によって異なります。
PRP治療は危険?採血量とリスク
PRP治療で採取する血液量は、一般的に20〜60mL程度です。通常の採血と同程度か、やや多い程度で、採取した血液から最終的に2〜4mL程度のPRPを作製することがあります。
採血時と投与時には針を刺す痛みがあります。また、注射を行う治療である以上、リスクがまったくないわけではありません。
- ・注射した部分の一時的な痛み
- ・腫れ
- ・熱っぽさや発赤
- ・内出血
- ・一時的な症状の悪化
- ・感染
- ・神経や血管の損傷
感染リスクと治療後の注意
関節内注射による感染は一般的にまれですが、適切な消毒操作と清潔な環境が重要です。筆者自身は、これまでヒアルロン酸やPRPを投与した患者さんで感染を経験していませんが、感染リスクがゼロになるわけではありません。
重度の糖尿病など、感染しやすい状態が疑われる場合には、治療前に健康状態や血液検査を確認することがあります。
注射後の痛み、腫れ、発赤などは一時的な反応であることが多いですが、強い痛み、発熱、腫れの悪化が続く場合は、早めに医療機関へ連絡してください。
PRP治療で重視すべきこと
PRP治療の結果は、患者さんの状態、病気の種類と重症度、PRPの作製方法、投与量、投与回数、注射する位置、治療後のリハビリなどによって変わります。すべての方に期待した結果が得られるわけではありません。
筆者が特に重視しているのは、「PRPの作製方法」「投与回数」「投与量」「病状」を総合的に判断することです。単に高濃度のPRPを投与するのではなく、患者さんの状態と治療部位に合った方法を選ぶことが大切です。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献>
Marx, R. E. (2001). Platelet-rich plasma (PRP): What is PRP and what is not PRP? Implant Dentistry, 10(4), 225–228.