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膝に水がたまるのはなぜ?抜いた方がいい?
膝に水がたまるとは?
「膝に水がたまっています」と言われたことがある方は多いと思います。
そもそも膝にたまっている「水」は、普通の水ではありません。関節の中にある関節液が通常より増えた状態です。これを「関節水腫」といいます。
正常な膝にも少量の関節液があります。関節液には、関節の動きを滑らかにしたり、血管のない関節軟骨に栄養を届けたりする大切な役割があります。
では、正常な膝では、なぜ関節液がたまらないのでしょうか。
実は関節液は、一度作られたものがずっと膝の中に残っているわけではありません。関節内への流入と、関節外への回収が常に繰り返される「ターンオーバー」が行われています。
関節液は常に作られ、回収されている
膝関節の内側は滑膜という薄い膜で覆われています。
滑膜には多くの毛細血管やリンパ管があり、関節液を一定の状態に保つための重要な役割をしています。
水分や分子量の小さな物質は、滑膜にある毛細血管との間で交換されます。
一方、ヒアルロン酸やタンパク質などの比較的大きな分子や、炎症によって生じた物質などを関節の外へ運び出すためには、リンパ管が重要な役割をしています。
栄養成分が関節内へ移動
関節の中を循環
リンパ管を介して回収
保たれています
つまり正常な膝では、「関節内へ入ってくる量」と「関節外へ出ていく量」のバランスが保たれています。
このため、関節液は必要な量だけが関節内に存在し、通常は膝が腫れるほどたまることはありません。
滑膜には関節の中を「掃除」する役割もある
滑膜には、関節液を調節するだけでなく、関節内をきれいに保つ働きもあります。
滑膜の表面には、A型滑膜細胞と呼ばれるマクロファージに似た細胞があります。
これらの細胞は、関節内で生じた細胞の死骸や細かな組織の破片などを取り込んで処理する、いわば「掃除役」のような働きをしています。
このような処理機構とリンパ系による回収によって、関節の中に不要な物質がたまり続けないように保たれています。
では、なぜ膝に水がたまるのでしょうか?
膝に水がたまる大きな理由は、関節の中で炎症が起こり、この正常なバランスが崩れるためです。
滑膜に炎症が起こると、炎症性サイトカインなどの影響によって滑膜の血管の透過性が高くなります。
簡単にいうと、血管から水分やタンパク質などの成分が、普段よりも関節の中へ出やすい状態になります。
一方で、それらを毛細血管やリンパ系を通して回収できる量には限界があります。
その結果、関節内へ入ってくる量が、外へ回収できる量を上回ると、関節液が徐々にたまって膝が腫れてきます。
炎症が起こると関節内への流入が増え、回収能力を上回るため、余った関節液がたまってきます。
軟骨がすり減ると、なぜ水がたまる?
膝に水がたまる代表的な病気の一つが変形性膝関節症です。
変形性膝関節症では、関節軟骨が徐々に傷み、すり減っていきます。
ここでよく誤解されるのですが、軟骨がすり減ってできた隙間に水が入り込んでいるわけではありません。
軟骨が傷んでいく過程では、軟骨の細かな破片や分解された成分などが関節内に生じます。また、半月板や軟骨下骨など、関節を構成するほかの組織にも変化が起こります。
このような関節内の変化によって滑膜が刺激されると、滑膜の免疫細胞などが反応し、滑膜炎が起こります。
滑膜炎が起こると血管の透過性が高くなり、水分やタンパク質などが関節内へ通常より多く流入します。
その量がリンパ系などによる回収能力を上回ることで、関節液がたまっていきます。
関節組織が傷みます
分解産物などが生じます
関節内への流入が増えます
関節液がたまります
つまり、変形性膝関節症は単純に「軟骨がすり減るだけの病気」ではありません。
軟骨や半月板、軟骨下骨などの変化と、それに反応して起こる滑膜炎も、痛みや腫れに関係しています。
結晶が原因で、一気に水がたまることもある
一方で、変形性膝関節症とは少し違う仕組みで、急激な炎症が起こることもあります。
代表的なのが痛風や偽痛風などの結晶誘発性関節炎です。
痛風では尿酸結晶、偽痛風ではピロリン酸カルシウム結晶が関節内で炎症を引き起こします。
関節内の免疫細胞がこれらの結晶を認識すると、強い炎症反応が起こります。
その結果、滑膜の血管透過性が急激に高まり、短時間で多量の関節液がたまることがあります。
ピロリン酸カルシウム結晶
結晶を認識します
炎症反応が起こります
膝が大きく腫れます
特に「昨日までは何ともなかったのに、急に膝がパンパンに腫れた」という場合には、変形性膝関節症だけではなく、偽痛風などの結晶誘発性関節炎も考える必要があります。
ほかにも膝に水がたまる原因があります
膝に水がたまる原因は、変形性膝関節症や偽痛風だけではありません。
半月板損傷、靱帯損傷、関節内骨折、関節リウマチなどの炎症性疾患、痛風、細菌感染による化膿性関節炎などでも関節液が増えることがあります。
半月板や靱帯などが損傷した場合にも、関節内で起こる炎症によって滑膜が刺激され、関節水腫につながることがあります。
また、外傷によって関節の中で出血すると、関節液ではなく血液がたまる関節血腫となることもあります。
つまり、「水がたまっている」こと自体は病名ではありません。
何が滑膜を刺激しているのか、なぜ関節液が増えているのかを考えることが重要です。
水は抜いた方がいい?
すべての関節水腫で水を抜く必要があるわけではありませんが、私の経験上では抜いた方が明らかに症状が楽になる方が多い印象です。
ただ、軽度で原因が明らかであり、症状も強くなければ、必ずしも関節穿刺を行わない場合があります。
一方、急に大きく腫れた、強い熱感がある、発熱している、原因が分からない、痛風や偽痛風が疑われる、感染を否定する必要があるといった場合には、関節液を採取することが重要です。
採取した関節液の白血球数、細菌培養、結晶の有無などを調べることで、原因の診断につながります。
つまり関節穿刺には、単に「水を抜く」という治療だけではなく、原因を調べる検査としての役割もあります。
「水を抜くと癖になる」は本当?
「一度膝の水を抜くと、その後も何度もたまるようになる」と心配される方がいます。
しかし、水を抜いたことそのものが原因で、水がたまりやすくなるわけではありません。
例えば変形性膝関節症で滑膜炎が続いていれば、水を抜いた後も血管から関節内への水分などの流入が続きます。
つまり、一度たまった関節液を抜いても、関節液が増える原因が残っていれば、再びたまるということです。例えば、軟骨のすり減りが続いており、慢性的に滑膜炎が起こっているなどが原因として考えられます。
蛇口から水が出続けている状態で、一度バケツの水を捨てても、また水がたまるのと似ています。
大切なのは、水を抜いたかどうかではなく、なぜ水が増えているのかを確認することです。
水を抜くことで楽になることもある
大量の関節液がたまると、関節の中の圧が高まり、膝が曲がりにくい、膝が重い、歩きにくいといった症状が出ることがあります。
また、関節水腫が強いと、大腿四頭筋に力が入りにくくなることもあります。
このような場合には、関節液を抜くことで膝の中の圧が下がり、動かしやすくなったり、痛みが軽くなったりすることがあります。
ただし、原因となっている滑膜炎などが残っていれば、再び関節液がたまる可能性があります。

TGOCにおける関節水腫の考え方
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックでは、膝が腫れている場合に、単純に「水を抜いて終わり」とするのではなく、なぜ水が増えたのかを確認することを大切にしています。
必要に応じてレントゲン、超音波、MRI、血液検査、関節液検査などを組み合わせて原因を評価します。
変形性膝関節症に伴う滑膜炎なのか、半月板などの損傷が関係しているのか、痛風・偽痛風などの結晶誘発性関節炎なのかによって、治療方法は変わります。
特に急激な腫れ、強い熱感、発熱などがある場合には、化膿性関節炎などの感染症を見逃さないことが重要です。
まとめ
膝の「水」は、本来から関節の中に存在している関節液です。
正常な膝では、関節液に含まれる水分や成分が関節内へ入り、同時に滑膜の毛細血管やリンパ系などを介して回収されることで、一定の量に保たれています。
ところが変形性膝関節症などによって軟骨や関節組織が傷むと、軟骨の微細な破片や分解産物などが滑膜を刺激し、滑膜炎が起こることがあります。
炎症によって血管から関節内への水分などの流入が増え、その量がリンパ系などによる回収能力を上回ると、余った関節液が膝の中にたまります。
また、痛風や偽痛風のように、結晶によって急激な炎症が起こり、短時間で多量の関節液がたまることもあります。
水を抜けば必ず治るわけでも、水を抜くことで癖になるわけでもありません。
大切なのは、「なぜ関節液のバランスが崩れているのか」を調べることです。
文責:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫
<参考文献>
・Ravn C, et al. Guideline for management of septic arthritis in native joints (SANJO). J Bone Jt Infect. 2023.
・Synovial fluid tests. Medicine. 2025;53:736-739.