筋筋膜性腰痛症
筋筋膜性腰痛症について
筋筋膜性腰痛症は、腰や骨盤周囲の筋肉・筋膜に負担が加わり、腰痛、こわばり、動かしにくさなどが現れる状態です。
「筋・筋膜性腰痛」「筋筋膜性疼痛」「筋性腰痛」などと呼ばれることもあります。
重い物を持ち上げた後、長時間同じ姿勢を続けた後、スポーツや仕事で同じ動作を繰り返した後などに発症することがあります。
一方で、明らかなきっかけがなく、徐々に症状が現れる場合もあります。
主な症状には次のようなものがあります。
・腰の片側または両側の痛み
・腰の重さ、だるさ
・腰のこわばり
・押すと痛む部分がある
・長時間座る、立つと痛む
・動き始めに痛む
・前かがみ、後屈、ひねりで痛む
・臀部や太ももへ痛みが広がる
・運動や仕事の後に悪化する
筋筋膜性腰痛症では、一般に腰の局所的な痛みが中心となります。
筋肉から離れた臀部や太ももに「関連痛」が現れることもありますが、明確な筋力低下、腱反射の異常、神経の走行に沿った感覚低下などは通常認めません。
脚のしびれや脱力、排尿・排便障害を伴う場合には、筋筋膜性腰痛症だけでは説明できない可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、馬尾症候群などを含めて評価する必要があります。

「筋筋膜性腰痛症」という診断名について
筋筋膜性腰痛症は、腰痛に関係すると考えられる筋肉や筋膜の所見をまとめた臨床的な名称です。
一つの明確な病変だけを指すものではありません。
MRI、CT、X線、血液検査などで、筋筋膜性腰痛症だけに特有の異常が確認されるわけではありません。
診断では、次の点を総合します。
・痛みの始まり方
・痛みが出る姿勢や動作
・筋肉の圧痛や緊張
・腰椎、股関節などの動き
・神経学的な異常の有無
・発熱、外傷歴などの危険な徴候
・画像検査が必要な別の病気の可能性
骨折、感染症、腫瘍、神経圧迫、内臓疾患などの明確な原因が認められない腰痛は、「非特異的腰痛」に分類されることがあります。
筋筋膜性腰痛症は、非特異的腰痛の一部として説明される場合があります。
「筋肉が硬いから必ず痛い」「画像に異常がないから筋肉が原因」と単純に判断することはできません。
複数の組織や心理・社会的な要因が、同時に痛みへ影響している場合があります。
腰周囲の筋肉と筋膜
脊柱起立筋
背骨の両側を縦に走る筋肉群です。
姿勢を保ち、腰や背中を反らす動作に関係しています。
長時間の立位、中腰、重量物作業などで疲労しやすい筋肉です。
多裂筋
腰椎のすぐ近くにあり、複数の椎骨を細かくつないでいます。
腰椎の小さな動きを調整し、背骨の安定性を保つ役割があります。
腰痛が続くと多裂筋の働きが低下することがありますが、多裂筋だけを鍛えればすべての腰痛が改善するわけではありません。
腰方形筋
腰の左右にあり、骨盤と第12肋骨、腰椎をつないでいます。
身体を横へ傾ける、骨盤を安定させる、呼吸時に第12肋骨を支えるなどの役割があります。
片側で荷物を持つ動作や、身体を傾けた姿勢を続けることで負担が加わる場合があります。
腸腰筋
腰椎から骨盤・大腿骨へつながる深部の筋肉です。
股関節を曲げる動作や、姿勢の維持に関係しています。
長時間の座位などでこわばりを感じることがあります。
腸腰筋の緊張だけを、すべての反り腰や腰痛の原因と判断することはできません。
臀筋群
大臀筋、中臀筋、小臀筋など、臀部にある筋肉です。
立ち上がり、歩行、片脚立ち、階段、走行などで骨盤と股関節を安定させます。
臀筋群の痛みが、腰痛として感じられる場合があります。
胸腰筋膜
背中から腰に広がる強い結合組織の膜です。
脊柱起立筋や多裂筋などを包み、腹筋群、臀筋群などと力を伝え合っています。
「筋膜が癒着している」という説明が行われることがありますが、通常の診察だけで筋膜の癒着を正確に確認できるとは限りません。
マッサージで筋膜を物理的に剥がし、永久的に正常な位置へ戻すという単純な病態ではありません。
痛みが起こる仕組み
筋筋膜性腰痛症の痛みには、複数の仕組みが関係すると考えられます。
筋肉への過剰な負荷
急に重い物を持つ、長時間中腰で作業するなどによって、筋肉や筋膜に許容量を超える負担が加わる場合があります。
繰り返す小さな負荷
一度の強い外力ではなく、同じ作業、スポーツ動作、長時間の姿勢などが繰り返されることで、筋肉の疲労や痛みが蓄積することがあります。
筋肉の防御性収縮
腰へ痛みが生じると、身体は患部を守るために周囲の筋肉を緊張させます。
筋緊張が長く続くと、腰のこわばりや動かしにくさが強くなり、さらに痛みを感じやすくなる場合があります。
身体活動の低下
痛みを恐れて動かない状態が続くと、筋力、持久力、柔軟性などが低下します。
少ない活動でも疲れやすくなり、腰痛が続く悪循環につながることがあります。
痛みの感じ方の変化
腰痛が長期間続くと、末梢組織の状態だけではなく、脳や脊髄における痛みの処理が変化することがあります。
睡眠不足、不安、抑うつ、仕事上のストレス、痛みに対する強い恐怖などが、痛みの強さや回復へ影響する場合があります。
これは「気のせい」という意味ではありません。
痛みは、身体的な要因と心理・社会的な要因が相互に影響する実際の症状です。
トリガーポイントについて
筋筋膜性疼痛では、「トリガーポイント」という言葉が使用されることがあります。
一般には、筋肉内に触れる緊張した帯状部分の中にあり、押すと強く痛む場所を指します。
圧迫によって、普段感じている痛みや離れた部位への関連痛が再現されることがあります。
診察では次のような所見が参考にされます。
・筋肉内に緊張した帯状の部分を触れる
・その中に限局した強い圧痛がある
・押すと本人が普段感じている痛みが再現される
・臀部など離れた場所に関連痛が生じる
・圧迫や筋収縮で痛みが増す
ただし、トリガーポイントの診断には、検査者による違いが生じることがあります。
誰が触っても同じ場所を確実に特定できる、客観的な検査方法が確立しているわけではありません。
圧痛点があることだけで、痛みの原因をすべてトリガーポイントと判断することはできません。
圧痛点とトリガーポイントの違い
圧痛点
押すと局所的に痛む場所です。
打撲、筋肉痛、関節周囲の炎症など、さまざまな状態で認められます。
トリガーポイント
緊張した筋線維の帯の中にある圧痛部で、圧迫によって普段の痛みや関連痛が再現されると考えられる場所です。
実際の診療では両者を明確に区別しにくい場合があります。
「しこりがあるから必ずそこが原因」「押して痛い場所をすべて治療すれば治る」とは限りません。
主な原因・関連要因
重量物の運搬
荷物を身体から離して持つ、前かがみで持ち上げる、ひねりながら運ぶ動作では、腰の筋肉へ大きな負担が加わります。
長時間の中腰作業
介護、清掃、農作業、調理、工場作業などで、中腰姿勢を続けると腰の筋肉が疲労しやすくなります。
長時間の座位
デスクワークや運転では、同じ姿勢を長時間保つことによって腰周囲の疲労やこわばりが生じる場合があります。
座る姿勢が悪いことだけが腰痛の原因ではありません。
姿勢を完璧に固定するよりも、定期的に姿勢を変えることが重要です。
長時間の立位
立ち仕事で同じ位置に立ち続けると、腰や臀部の筋肉が疲労する場合があります。
スポーツ・筋力トレーニング
急に練習量を増やした、十分な休養を取らなかった、疲労した状態で高負荷の運動を続けた場合などに発症することがあります。
次のような運動で腰へ負担が加わることがあります。
・デッドリフト
・スクワット
・ゴルフ
・野球
・テニス
・バレーボール
・ダンス
・ランニング
・格闘技
・重量挙げ
運動そのものが悪いわけではなく、負荷量、フォーム、休養、体力とのバランスが重要です。
運動不足・体力低下
身体活動が少ない状態が続くと、腰や下肢の筋力・持久力が低下し、仕事や家事で疲れやすくなる場合があります。
睡眠不足
睡眠不足は、筋肉の回復だけでなく、痛みの感じ方にも影響することがあります。
精神的な緊張・ストレス
緊張状態が続くと、腰や肩の筋肉へ力が入り続ける場合があります。
また、不安やストレスが痛みの注意を強め、症状を長引かせることがあります。
ストレスだけが腰痛の原因という意味ではありません。
過去の腰痛
過去にぎっくり腰や椎間板ヘルニアなどを経験した後、痛みを恐れて身体をかばい続けることで、筋肉の使い方や活動量が変化する場合があります。
主な症状
腰の局所的な痛み
腰椎の両側、腰の片側、骨盤の上部などに痛みが現れます。
指で痛む範囲を比較的明確に示せる場合があります。
重だるさ・疲労感
鋭い痛みよりも、腰が重い、だるい、疲れるという症状が中心となる場合があります。
押したときの痛み
腰方形筋、脊柱起立筋、臀筋などを押すと痛みが再現されることがあります。
痛みを確認するために、患部を何度も強く押さないでください。
筋肉のこわばり
腰の筋肉が張っている、腰が伸びない、動き始めに硬いなどの症状が現れます。
動作時痛
次のような動作で症状が変化します。
・前かがみ
・腰を反らす
・身体をひねる
・寝返り
・立ち上がり
・長時間の座位
・長時間の立位
・荷物を持つ
・階段昇降
痛みが出る方向は患者さまによって異なります。
臀部・太ももへの関連痛
腰や臀部の筋肉から、臀部、股関節周辺、太ももなどへ痛みが広がる場合があります。
関連痛は、痛みの原因となる場所から離れて感じられる痛みです。
通常、はっきりした筋力低下や腱反射の変化は伴いません。
朝のこわばり
起床直後に腰が硬く感じ、動き始めると徐々に軽くなる場合があります。
朝のこわばりが長時間続く場合や、若い年齢から夜間・早朝の腰痛があり、運動すると改善する場合には、炎症性腰痛も考えます。
神経痛との違い
筋筋膜性腰痛症でも、臀部や太ももへ痛みが広がることがあります。
一方、腰椎神経根が障害されると、神経の支配範囲に沿って次のような症状が現れます。
・膝より下まで広がる痛み・しびれ
・足の甲や足裏の感覚低下
・足首や足趾の筋力低下
・つま先立ち、かかと歩きが難しい
・膝蓋腱反射やアキレス腱反射の低下
・咳やくしゃみで脚へ痛みが走る
これらがある場合には、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などを確認します。
ほかの病気との違い
急性腰痛症
ぎっくり腰は、急に生じた強い腰痛を表す通称です。
筋肉や筋膜が痛みに関係する場合がありますが、椎間板、椎間関節、靱帯などが関係する場合もあります。
腰椎椎間板ヘルニア
椎間板が後方へ突出し、神経根や馬尾神経を刺激・圧迫する病気です。
脚の痛み・しびれ、筋力低下などが目立つ場合があります。
腰部脊柱管狭窄症
立位や歩行を続けると、脚の痛み・しびれが強くなり、座る、前かがみになると軽くなる間欠性跛行が特徴です。
腰椎分離症
主に成長期のスポーツ選手に起こる関節突起間部の疲労骨折です。
腰を反らす、ひねる動作で痛みが強くなる場合があります。
骨粗鬆症性椎体骨折
骨粗鬆症のある方では、軽い転倒や物を持ち上げる動作で腰椎を骨折することがあります。
寝返り、起き上がり、立ち上がりで急激に痛む場合には注意が必要です。
椎間関節性腰痛
腰椎後方の椎間関節が痛みに関係する場合があります。
腰を反らす、ひねる、長時間立つ動作で強くなる傾向があります。
筋筋膜性腰痛と同時に存在することもあります。
仙腸関節障害
骨盤後方の仙腸関節周囲に痛みが生じます。
臀部の片側が痛み、立ち上がり、寝返り、片脚荷重などで悪化することがあります。
股関節疾患
変形性股関節症などでは、鼠径部、臀部、太ももへ痛みが現れます。
靴下を履きにくい、股関節を動かしにくいなどの症状を伴う場合があります。
線維筋痛症
腰だけではなく、身体の広い範囲に慢性的な痛みが現れます。
疲労感、睡眠障害、頭痛、認知機能の不調などを伴う場合があります。
局所的な筋筋膜性疼痛とは異なりますが、両方の特徴が重なることもあります。
炎症性腰痛
脊椎関節炎などでは、安静にすると痛み、運動すると軽くなる傾向があります。
夜間痛、長く続く朝のこわばり、臀部痛の左右交代などがみられる場合があります。
化膿性脊椎炎・硬膜外膿瘍
細菌感染によって、腰椎や椎間板、脊柱管周囲に炎症が生じます。
発熱、安静時痛、夜間痛、進行する神経症状などが現れる場合があります。
脊椎腫瘍・骨転移
安静時や夜間にも強く痛む、体重が減っている、がんの既往がある場合には、腫瘍を除外します。
腎臓・尿路疾患
尿路結石や腎盂腎炎でも、腰や脇腹に痛みが生じます。
血尿、発熱、排尿時痛、吐き気などを伴う場合があります。
婦人科・消化器疾患
子宮、卵巣、膵臓、消化管などの病気が、腰痛として感じられる場合があります。
大動脈疾患
腹部大動脈瘤や大動脈解離では、突然の激しい腰痛・背部痛・腹痛が現れることがあります。
冷汗、めまい、意識障害などを伴う場合には緊急対応が必要です。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックでは、痛みの経過、痛む場所、動作との関係、神経症状の有無などを確認し、必要に応じて画像検査などを組み合わせて評価します。
筋筋膜性腰痛症は、画像検査だけで確定する病気ではありません。骨折、神経圧迫、感染症、腫瘍、内臓疾患などを示す所見がないかを確認しながら診断します。
MRI検査やCT検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。
問診
主に次の内容を確認します。
・いつから痛むか
・急に始まったか、徐々に始まったか
・仕事、運動、外傷などのきっかけ
・腰のどの部分が痛むか
・脚まで痛みやしびれが広がるか
・押すと同じ痛みが出るか
・どの姿勢や動作で悪化するか
・休むと軽くなるか
・夜間や安静時にも痛むか
・発熱や体重減少があるか
・脚へ力が入りにくいか
・排尿・排便に変化があるか
・仕事、睡眠、家庭生活への影響
・過去の腰痛や治療歴
視診
立位や歩行時の姿勢を確認します。
痛みを避けるために、身体が左右へ傾いたり、腰を曲げた姿勢になったりすることがあります。
姿勢の左右差があっても、それだけで腰痛の原因とは判断しません。
腰椎・股関節の動き
前屈、後屈、側屈、回旋などで痛みが変化するかを確認します。
股関節や胸椎の動きが小さく、腰椎へ負担が集中していないかも評価します。
触診
脊柱起立筋、腰方形筋、臀筋などを触り、次の所見を確認します。
・局所的な圧痛
・筋肉の緊張
・普段の痛みの再現
・関連痛の有無
・腫れ、熱感、皮膚変化
触診所見だけで診断を確定することはできません。
神経学的検査
脚の症状がある場合には、次の項目を確認します。
・脚の筋力
・皮膚感覚
・膝蓋腱反射
・アキレス腱反射
・つま先歩き
・かかと歩き
・下肢伸展挙上テスト
・歩行状態
筋筋膜性腰痛症では、一般に明確な神経学的異常を認めません。
腹部・血流の評価
内臓や血管の病気が疑われる場合には、腹部の圧痛、拍動、足の脈、血圧などを確認します。
画像検査
筋筋膜性腰痛症をX線、MRI、CTだけで確定することはできません。
危険な徴候がなく、典型的な腰痛で改善傾向にある場合には、直ちに画像検査を行わないことがあります。
X線検査
次のような状態を確認できます。
・腰椎の配列
・変形性腰椎症
・腰椎すべり症
・腰椎分離症
・椎体骨折
・側弯
・骨腫瘍を疑う変化
筋肉や筋膜は、通常のX線では詳しく評価できません。
MRI検査
MRIでは椎間板、神経、骨髄、筋肉、脊柱管などを評価できます。
次のような場合に検討します。
・脚の筋力低下がある
・神経症状が進行している
・馬尾症候群が疑われる
・感染症や腫瘍が疑われる
・骨折が疑われる
・強い症状が長期間改善しない
・手術などの治療を検討している
MRIで筋肉の左右差や信号変化がみられることはありますが、それだけで筋筋膜性腰痛症を確定することはできません。
治療の基本方針
治療の目的は、「硬い筋肉をすべて柔らかくする」「画像上の異常をなくす」ことではありません。
主に次のことを目標とします。
・痛みを軽減する
・日常生活を維持する
・仕事やスポーツへ復帰する
・筋力と持久力を回復させる
・過度な不安や活動回避を減らす
・再発しにくい負荷のかけ方を身につける
一つの治療だけで改善させるのではなく、活動量の調整、運動、薬物療法、睡眠や作業環境の改善などを組み合わせます。
活動量の調整
痛みが強い時期には、症状を悪化させる重量物作業や高負荷の運動を一時的に減らします。
ただし、長期間寝たままになることは避けます。
可能な範囲で、トイレ、食事、短い歩行などの日常活動を続けます。
痛みが完全になくなるまで一切動かない状態が続くと、筋力や体力が低下する可能性があります。
反対に、激痛を我慢して重労働や運動を続ける必要もありません。
症状を大きく悪化させない範囲で、活動を段階的に増やします。
薬物療法
消炎鎮痛薬
痛みを軽減する目的で、内服薬や外用薬を使用することがあります。
胃腸障害、腎機能障害、血圧上昇、むくみ、喘息、出血傾向などに注意します。
高齢者や基礎疾患のある方では、できるだけ少ない有効量を短期間使用します。
アセトアミノフェン
患者さまの状態に応じて使用することがあります。
肝機能障害や、風邪薬などに含まれる同一成分との重複に注意します。
筋緊張を和らげる薬
筋肉の緊張が強い場合に使用することがあります。
眠気、ふらつきなどに注意が必要です。
神経障害性疼痛に対する薬
単純な局所性筋筋膜痛に 通常 使用するものではありません。
神経障害性疼痛の特徴がある場合に、ほかの疾患を評価したうえで検討します。
オピオイド鎮痛薬
一般的な筋筋膜性腰痛に対して、日常的に長期間使用するものではありません。
眠気、便秘、吐き気、依存、呼吸抑制などのリスクがあります。
温熱・冷却
筋肉のこわばりがあり、温めると楽になる場合には、入浴、蒸しタオル、温熱器具などを利用できます。
低温やけどを避けるため、同じ場所へ長時間当てないでください。
急な運動後などで熱感があり、冷やすと楽になる場合には、タオルで包んだ保冷剤を短時間使用できます。
温熱と冷却のどちらが必ず優れているわけではありません。
本人が心地よく、症状を悪化させない方法を選びます。
発熱、皮膚の赤み・腫れ、感染症、強い外傷などが疑われる場合には、セルフケアだけで経過をみないでください。
リハビリテーション・運動療法
筋筋膜性腰痛症では、運動療法が治療の中心となる場合があります。
特定の筋肉だけを鍛えるのではなく、体幹、股関節、下肢、全身持久力などを総合的に改善します。
主な内容には次のようなものがあります。
・痛みを悪化させにくい動作の練習
・体幹筋の持久力訓練
・臀筋・股関節周囲筋の筋力訓練
・股関節や胸椎の柔軟性改善
・歩行や自転車などの有酸素運動
・持ち上げ動作の練習
・仕事・家事動作の調整
・競技動作の段階的な再開
腹筋だけを強くすれば腰痛が治るわけではありません。
また、体幹を常に固め続けると、動作が不自然になり、かえって疲れやすくなる場合があります。
動作に合わせて必要な筋肉を適切に使うことが重要です。
ストレッチ
腰、臀部、股関節、太ももなどの軽いストレッチが、こわばりの軽減に役立つ場合があります。
ストレッチは次の点に注意して行います。
・反動をつけない
・呼吸を止めない
・鋭い痛みが出るところまで伸ばさない
・しびれが脚へ広がる場合は中止する
・一方向だけを繰り返さない
・骨折や神経障害が疑われる場合は先に受診する
筋肉を強く伸ばせば、硬さが永久に取れるわけではありません。
ストレッチだけでなく、日常の活動量や筋力も整える必要があります。
マッサージ・徒手療法
マッサージや軟部組織への徒手療法によって、短期的に痛みやこわばりが軽減する場合があります。
ただし、マッサージだけで長期的な改善が得られるとは限りません。
運動、活動量の調整、患者教育などと組み合わせて行うことが基本です。
強い圧迫であざができる、痛みを我慢して筋肉を押し続けるなどの施術は避けます。
筋肉を押して痛みが強いことは、「老廃物がたまっている」「毒素が出ている」という意味ではありません。
トリガーポイント注射
圧痛が強く、ほかの治療で十分に改善しない場合には、局所麻酔薬などを圧痛部周辺へ注射することがあります。
注射によって痛みが一時的に軽くなり、身体を動かしやすくなる場合があります。
ただし、注射だけを繰り返しても、負荷のかけ方や活動量が変わらなければ症状が再発することがあります。
注射のリスクには次のものがあります。
・出血、皮下出血
・感染
・薬剤アレルギー
・一時的な痛みの悪化
・神経損傷
・針が深く入りすぎることによる周囲組織の損傷
注射後に、発熱、強い腫れ、急な脚の麻痺などが現れた場合には、速やかに医療機関へ連絡してください。
体外衝撃波治療・PRP療法について
筋筋膜性腰痛症では、まず危険な病気や神経障害がないかを確認し、活動量の調整、運動療法、薬物療法、必要に応じた注射治療などを組み合わせます。
体外衝撃波治療やPRP療法は、すべての筋筋膜性腰痛症に行う標準治療ではありません。慢性的な痛みが続く場合などに、症状や診察所見を確認して適応を慎重に判断します。
体外衝撃波治療
慢性的な筋筋膜性の痛みが続く場合には、状態に応じて体外衝撃波治療を検討することがあります。
ただし、すべての方に同じ効果が得られるわけではなく、治療中や治療後に一時的な痛み、赤み、皮下出血などが生じることがあります。
体外衝撃波治療は、保険適用外の自費診療となります。
体外衝撃波治療について詳しくはコチラをご覧ください。
PRP療法
PRP療法は、患者さんご自身の血液を採取し、血小板を多く含む成分を抽出して注入する自費診療の治療です。
筋筋膜性腰痛症に対する標準的な第一選択治療ではありません。痛みの場所、症状の経過、ほかの疾患の有無を確認したうえで、適応を慎重に判断します。
効果には個人差があり、すべての方に同じ効果が得られるわけではありません。注射後には、一時的に痛みや腫れが強くなることがあります。
PRP療法は保険適用外の自費診療です。
PRP療法について詳しくはコチラをご覧ください。
コルセット
急性期に動作時の痛みが強い場合には、腰部コルセットを一時的に使用することがあります。
コルセットは腰を支え、動作時の不安を軽減する目的で使用します。
筋肉や筋膜を直接治すものではありません。
長期間常に装着すると、体幹筋を使う機会が減る場合があります。
使用期間や装着する場面を確認してください。
整体・強い矯正について
筋筋膜性腰痛症と考えられる場合でも、腰を強くひねる、反らす、勢いをつけて押す施術には注意が必要です。
骨折、椎間板ヘルニア、感染症などが隠れている状態で強い矯正を受けると、症状が悪化する可能性があります。
特に次の症状がある場合には、先に整形外科を受診してください。
・転倒や事故後から痛む
・高齢者で急に強い腰痛が出た
・骨粗鬆症がある
・脚の筋力低下がある
・会陰部の感覚が低下している
・排尿・排便障害がある
・発熱、夜間痛がある
・がんの既往がある
「骨盤がずれている」「筋膜が癒着している」という説明だけで、強い矯正を繰り返さないようにしてください。
手術治療
筋筋膜性腰痛症そのものに対して、手術を行うことは通常ありません。
手術は、次のような別の病気が明確に確認された場合に検討します。
・進行する麻痺を伴う椎間板ヘルニア
・馬尾症候群
・不安定な脊椎骨折
・神経を圧迫する脊柱管狭窄症
・脊椎感染症
・腫瘍
・そのほかの構造的病変
筋肉の圧痛や慢性的な腰痛だけを理由に、脊椎固定術などを行うものではありません。
慢性化を防ぐために
腰痛が長引く場合には、痛む筋肉だけではなく、生活全体を見直す必要があります。
活動を過度に避けない
痛みを恐れてすべての動作を避けると、体力低下や痛みに対する不安につながる場合があります。
睡眠を整える
睡眠時間だけでなく、就寝・起床時間、夜間の中途覚醒なども確認します。
仕事上の負担を調整する
中腰作業、重量物運搬、長時間座位など、症状を悪化させる要因を確認します。
完全に休むだけでなく、作業時間、姿勢、荷物の重さ、休憩頻度などを調整します。
痛みへの不安を整理する
「動くと腰が壊れる」「痛みがある限り一切動いてはいけない」と考えると、活動量が低下する場合があります。
危険な病気が否定されていれば、安全な範囲で徐々に身体を動かします。
心理的な負担を確認する
痛みが長引くと、気分の落ち込み、不安、仕事や家庭でのストレスなどが強くなる場合があります。
必要に応じて、心理的な支援や認知行動的な方法を運動療法と組み合わせます。
日常生活での注意点
座位
「正しい姿勢」を一つに固定する必要はありません。
背もたれを利用し、30~60分程度を目安に立ち上がる、姿勢を変えるなどの工夫をします。
立位
長時間同じ場所に立ち続けず、体重を左右へ移動させたり、片足を低い台へ乗せたりします。
荷物の持ち上げ
荷物へ身体を近づけ、膝と股関節を曲げて持ちます。
持ち上げながら腰だけをひねらず、足の向きを変えて方向転換します。
家事
掃除機や調理台の高さを調整し、中腰の時間を短くします。
作業をまとめて行わず、途中で休憩を入れます。
デスクワーク
モニター、椅子、机の高さを調整し、前腕を机や肘掛けで支えます。
運転
背もたれを利用し、ハンドルへ身体を近づけます。
長距離運転では定期的に休憩して歩きます。
仕事・スポーツへの復帰
痛みが完全になくなるまで、すべての活動を休む必要はありません。
次の状態を確認しながら、段階的に復帰します。
・日常生活を行える
・歩行で大きく悪化しない
・腰と股関節を必要な範囲まで動かせる
・明らかな脚の筋力低下がない
・軽い作業や運動の翌日に大きく悪化しない
・負荷を調整する方法を理解している
スポーツでは、軽い有酸素運動、基礎的な筋力訓練、競技動作、通常練習の順に進めます。
鎮痛薬で痛みを隠したまま、急に高負荷へ戻さないでください。
自宅でできる対策
・長期間寝たままにならない
・短時間の歩行から始める
・同じ姿勢を続けない
・温めて楽であれば適度に温める
・痛みのない範囲で股関節や脚を動かす
・急に重い物を持たない
・強いストレッチやマッサージを行わない
・処方薬と市販薬を重複して使用しない
・睡眠と休養を確保する
・痛みが出た作業や運動量を記録する
・脚の筋力や排尿状態の変化を確認する
早めに受診すべき症状
次のような場合には、整形外科を受診してください。
・腰痛が数日から数週間たっても改善しない
・日ごとに痛みが強くなっている
・仕事や睡眠への支障が大きい
・臀部や脚へ痛み・しびれが広がる
・足首や足趾へ力が入りにくい
・つまずきや転倒が増えた
・転倒や打撲後から痛む
・発熱、悪寒がある
・安静時や夜間にも強く痛む
・原因不明の体重減少がある
・骨粗鬆症がある
・がんや感染症の既往がある
・ステロイド薬を長期間使用している
・血尿、排尿時痛、腹痛などを伴う
直ちに救急受診すべき症状
次の症状がある場合には、筋筋膜性腰痛症として様子をみず、直ちに救急受診してください。
・尿を出せない
・急に尿や便を漏らすようになった
・尿意や便意が分からなくなった
・肛門、陰部、太ももの内側がしびれる
・両脚へ急に力が入らなくなった
・脚の麻痺が急速に進行している
・急に立てない、歩けない
・高熱と激しい腰痛がある
・大きな事故や高所転落後である
・突然の激しい腰痛や腹痛に冷汗・めまいを伴う
・意識がもうろうとしている
筋筋膜性腰痛症は、画像検査で一つの異常を見つけて確定する病気ではありません。
診察では、筋肉の圧痛や動作時痛だけでなく、神経障害、骨折、感染症、腫瘍、内臓疾患などを示す徴候がないかを確認します。
危険な徴候がない場合には、薬物療法、活動量の調整、運動療法、必要に応じた温熱・徒手療法などを組み合わせます。
マッサージや注射で圧痛点だけを治療するのではなく、体力、睡眠、仕事内容、運動量、痛みに対する不安などを含めて治療を進めることが重要です。
筋筋膜性腰痛症でお悩みの方へ
筋筋膜性腰痛症は、腰や骨盤周囲の筋肉・筋膜に負担が加わり、腰痛やこわばりが出る状態です。
一方で、腰痛の中には腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、圧迫骨折、感染症、腫瘍、内臓疾患などが隠れていることがあります。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックでは、痛みの経過、動作との関係、神経症状の有無を確認し、必要に応じてX線検査や提携医療機関でのMRI・CT検査をご案内します。
危険な所見がない場合には、薬物療法、リハビリテーション、活動量の調整、必要に応じた注射治療などを組み合わせて、日常生活や仕事・スポーツへの復帰を目指します。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫