尺骨突き上げ症候群
尺骨突き上げ症候群について
尺骨(しゃっこつ)突き上げ症候群は、前腕の小指側にある「尺骨」の手首側が、三角線維軟骨複合体(TFCC)や月状骨、三角骨などへ繰り返し衝突し、手首の小指側に痛みを生じる病気です。
「尺骨インパクション症候群」「尺骨手根衝突症候群」「ulnar impaction syndrome」「ulnocarpal abutment syndrome」などと呼ばれることもあります。
前腕には、親指側の橈骨と小指側の尺骨という2本の骨があります。
手首へ加わる力の大部分は橈骨側へ伝わりますが、一部はTFCCを介して尺骨側へ伝わります。
尺骨が橈骨より相対的に長い場合や、手首を小指側へ曲げた状態で強く握る動作を繰り返す場合には、尺骨側へ伝わる圧力が増えます。
この状態が続くと、TFCCが徐々に摩耗・断裂し、月状骨や三角骨の関節軟骨、骨内部にも障害が起こります。
初期には、手首をひねる、強く握る、重い物を持つといった動作でのみ痛みます。
進行すると、軽い家事や事務作業でも痛みが現れ、握力低下、腫れ、クリック音などを伴うことがあります。
治療では、手首への負担を減らし、装具、薬物療法、リハビリテーションなどを行います。
保存療法で十分に改善しない場合には、尺骨を短くしてTFCCや手根骨への圧力を減らす尺骨短縮術や、尺骨頭の一部を削るWafer法などを検討します。
手首の小指側の構造
尺骨突き上げ症候群を理解するためには、橈骨、尺骨、TFCC、手根骨の関係が重要です。
橈骨
前腕の親指側にある骨です。
手首側では舟状骨や月状骨と関節をつくり、手首へ加わる力の多くを支えています。
尺骨
前腕の小指側にある骨です。
尺骨頭は手首の小指側に位置し、橈骨とともに遠位橈尺関節を構成しています。
尺骨頭と手根骨は直接広く接しているのではなく、その間にはTFCCがあります。
TFCC
TFCCは、三角線維軟骨、橈尺靱帯、尺骨手根靱帯、関節包などが組み合わさった構造です。
主に次の役割があります。
・手首の小指側へ加わる衝撃を吸収する
・尺骨頭と手根骨の間のクッションとなる
・遠位橈尺関節を安定させる
・前腕を回内・回外する動きを滑らかにする
尺骨からの圧力が繰り返し加わると、TFCC中央部の摩耗や穴が生じることがあります。
月状骨・三角骨
月状骨と三角骨は、尺骨頭やTFCCの手先側にある手根骨です。
尺骨突き上げ症候群が進行すると、月状骨や三角骨の軟骨が傷み、骨内部に浮腫、硬化、嚢胞などが生じることがあります。
尺骨バリアンスとは
橈骨と尺骨の手首側における、相対的な長さの違いを「尺骨バリアンス」と呼びます。
尺骨プラスバリアンス
尺骨が橈骨より相対的に長い状態です。
尺骨頭がTFCCや手根骨へ近づくため、手首の小指側へ加わる負担が増えやすくなります。
尺骨突き上げ症候群で多くみられる形態です。
尺骨ニュートラルバリアンス
橈骨と尺骨の長さがほぼ同じ状態です。
通常のX線で尺骨が長く見えなくても、前腕を回内して強く握った際に、尺骨が相対的に長くなる場合があります。
そのため、ニュートラルバリアンスでも尺骨突き上げ症候群を発症することがあります。
尺骨マイナスバリアンス
尺骨が橈骨より相対的に短い状態です。
一般的には尺骨突き上げ症候群を起こしにくい形態ですが、手首の動きや強い握り動作によって一時的に尺骨側への負担が増え、症状が生じる場合があります。
尺骨が短く見えることだけで、尺骨突き上げ症候群を完全に否定することはできません。
動的な尺骨突き上げ症候群
通常の手首X線では尺骨プラスバリアンスが認められなくても、特定の動作中に尺骨が相対的に長くなり、突き上げが起こる場合があります。
これを動的な尺骨突き上げ症候群と呼びます。
次の動作では、尺骨側への圧力が増加します。
・手のひらを下へ向ける
・手を強く握る
・手首を小指側へ曲げる
・手首を反らして荷重する
・重い物を持ちながら手首をひねる
通常のX線で異常が目立たない場合には、前腕を回内して強く握った状態で撮影する「pronated grip view」などを追加することがあります。

尺骨突き上げ症候群の原因
生まれつき尺骨が長い
もともと尺骨プラスバリアンスがあると、TFCCや月状骨へ加わる圧力が大きくなる場合があります。
ただし、尺骨が長い方すべてに症状が現れるわけではありません。
手の使い方、TFCCの状態、年齢など、複数の要因が関係します。
橈骨遠位端骨折後の変形
橈骨遠位端骨折後に橈骨が短くなった状態で治癒すると、相対的に尺骨が長くなります。
これにより、骨折から数か月から数年後に、手首の小指側の痛みが現れることがあります。
橈骨の傾きや関節面の変形も、手首へ加わる力の分布に影響します。
成長軟骨の障害
成長期に橈骨の成長軟骨を損傷し、橈骨の成長が早く止まると、尺骨が相対的に長くなることがあります。
小児期の骨折や感染などが原因になる場合があります。
Madelung変形
橈骨遠位部の成長障害によって手首が変形し、尺骨が目立って長くなる病気です。
尺骨頭の突出や小指側の痛み、手首の可動域制限などを生じることがあります。
繰り返す手首への負担
次のような動作を繰り返すことで、TFCCや手根骨へ負担が蓄積します。
・重い物を持つ
・手首をひねる
・工具を強く握る
・前腕を回内・回外する
・手首を小指側へ曲げる
・手をついて身体を支える
・ラケット、クラブ、バットを振る
スポーツ
次のようなスポーツで症状が現れることがあります。
・テニス
・バドミントン
・ゴルフ
・野球
・ソフトボール
・卓球
・体操
・ウエイトトレーニング
・ボクシング
・剣道
グリップを強く握り、手首をひねる・小指側へ曲げる競技で負担が増えます。
手首の外傷
転倒、捻挫、TFCC損傷などをきっかけに症状が現れることがあります。
一度の外傷だけでなく、外傷後に手首の動き方や骨の位置関係が変化し、徐々に突き上げが進行する場合もあります。
尺骨突き上げ症候群で起こる変化
TFCCの摩耗
尺骨頭と手根骨の間でTFCCが繰り返し挟まれ、表面がすり減ります。
初期にはTFCCが薄くなり、進行すると中央部に穴が開くことがあります。
TFCC断裂
TFCCの変性が進むと、中央部や周辺部に断裂が生じます。
中央部の変性断裂では、必ずしも遠位橈尺関節の不安定性を伴いません。
周辺部の靱帯まで傷んでいる場合には、遠位橈尺関節の不安定性を伴うことがあります。
月状骨・三角骨の軟骨損傷
尺骨からの圧力によって、月状骨や三角骨の軟骨が摩耗します。
進行すると、軟骨下骨に硬化や嚢胞が形成されることがあります。
骨髄浮腫
MRIでは、月状骨や三角骨の内部に骨髄浮腫が確認される場合があります。
これは、骨へ繰り返し強い負担が加わっていることを示す所見の一つです。
月状三角骨間靱帯損傷
病気が進行すると、月状骨と三角骨をつなぐ靱帯にも変性や断裂が及ぶことがあります。
主な症状
手首の小指側の痛み
最も代表的な症状です。
尺骨頭の周囲や、尺骨頭より少し手先側に痛みが現れます。
初期には、特定の動作をしたときだけ痛むことがあります。
進行すると、軽い作業でも痛むようになります。
強く握ると痛む
物を握ると、橈骨と尺骨の位置関係が変化し、手首の小指側への圧力が増えます。
次のような動作で痛みが出ることがあります。
・瓶やペットボトルのふたを開ける
・鍋やフライパンを持つ
・工具を握る
・ラケットやクラブを握る
・バッグを持ち上げる
・雑巾やタオルを絞る
前腕を回すと痛む
手のひらを上・下へ返す動作で痛みます。
ドアノブ、鍵、蛇口、ドライバーなどを回す動作に支障が出る場合があります。
手首を小指側へ曲げると痛む
手首を小指側へ曲げる尺屈動作で、尺骨頭と手根骨が近づきます。
さらに圧力を加えたり、前腕を回したりすると痛みが強くなることがあります。
手をつくと痛む
床や椅子から手をついて立ち上がる、腕立て伏せをするといった動作で、小指側の手首が痛みます。
握力低下
痛みのために強く握れなくなり、握力が低下します。
物を落とす、片手で荷物を持てないなど、日常生活へ影響することがあります。
腫れ
手を使った後に、尺骨頭周囲が腫れることがあります。
関節液の増加や滑膜炎を伴っている場合があります。
クリック音・引っかかり
手首を回した際にクリック音、ゴリゴリした感覚、引っかかりなどが現れる場合があります。
TFCC断裂、月状三角骨間靱帯損傷、遠位橈尺関節障害などを伴っている可能性があります。
手首の不安定感
遠位橈尺関節を支えるTFCCまで傷んでいる場合には、前腕を回した際に尺骨頭がずれる、ぐらつくように感じることがあります。
安静時痛
初期には安静時の痛みが少ないことが一般的です。
関節軟骨の損傷や滑膜炎が進行すると、手を使っていないときにも痛む場合があります。
しびれについて
尺骨突き上げ症候群では、通常、指のしびれは中心的な症状ではありません。
小指や環指にしびれがある場合には、ギヨン管症候群、肘部管症候群、頸椎疾患などを確認します。
尺骨プラスバリアンスがあれば必ず発症するのか
尺骨プラスバリアンスがあっても、痛みがなく日常生活に支障がない方はいます。
X線で尺骨が長いというだけで、尺骨突き上げ症候群と診断することはできません。
反対に、通常のX線で尺骨が長くなくても、強く握る、前腕を回内するなどの動作中だけ突き上げが起こる場合があります。
診断では、次の点を総合的に確認します。
・痛みの場所
・症状が出る動作
・診察で痛みが再現されるか
・尺骨バリアンス
・TFCCの変性・断裂
・月状骨、三角骨の軟骨・骨変化
・遠位橈尺関節の安定性
・保存療法に対する反応
ほかの病気との違い
外傷性TFCC損傷との違い
外傷性TFCC損傷は、転倒や手首を強くひねったことをきっかけに発症します。
TFCCの周辺部が断裂すると、遠位橈尺関節が不安定になることがあります。
尺骨突き上げ症候群では、尺骨からの繰り返す圧力によってTFCC中央部が変性・摩耗することが特徴です。
ただし、両方を同時に認めることも多く、明確に分けられない場合があります。
尺骨茎状突起衝突症候群との違い
尺骨茎状突起が長い場合などに、尺骨茎状突起と三角骨が衝突して痛みを生じる病気です。
尺骨頭全体がTFCCや月状骨へ突き上げる尺骨突き上げ症候群とは、衝突する場所が異なります。
痛みの位置、X線、CT、MRIなどから判断します。
尺側手根伸筋腱障害との違い
尺側手根伸筋腱の腱鞘炎や亜脱臼では、手首の小指側から手の甲側に痛みが現れます。
手首を反らす、ひねる動作で痛み、腱が弾けるような感覚を伴うことがあります。
超音波検査では、手首を動かしながら腱の状態を確認できます。
尺側手根屈筋腱炎との違い
尺側手根屈筋腱炎では、手首の小指側の手のひら側に痛みが現れます。
手首を曲げる、小指側へ曲げる動作に抵抗を加えると痛みが出ます。
遠位橈尺関節障害との違い
遠位橈尺関節の関節炎、不安定症、骨折後変形でも、小指側の痛みや前腕回旋時痛が現れます。
尺骨突き上げ症候群と合併する場合もあります。
月状三角骨間靱帯損傷との違い
月状骨と三角骨の間の靱帯が損傷すると、手首の小指側に痛み、クリック、不安定感が現れます。
尺骨突き上げ症候群が進行した結果、靱帯が傷む場合もあります。
豆状三角骨関節症との違い
手のひら側にある豆状骨と三角骨の関節に炎症や変形があると、手首の小指側・手のひら側が痛みます。
豆状骨を押したり動かしたりすると痛みが再現されます。
有鉤骨鉤骨折との違い
ゴルフ、野球、ラケット競技などで、グリップが手のひらの小指側へ当たり続けると、有鉤骨鉤骨折を起こすことがあります。
手のひらの小指側に圧痛があり、強く握ると痛むことが特徴です。
通常のX線で分かりにくく、CTが必要になることがあります。
ギヨン管症候群との違い
ギヨン管症候群では、手首の小指側で尺骨神経が圧迫され、小指・環指のしびれや手指の筋力低下が現れます。
尺骨突き上げ症候群では、荷重や回旋による痛みが中心です。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査
問診
痛みが始まった時期、症状が出る動作、過去の外傷などを確認します。
主に次のような点についてお伺いします。
・いつから痛みがあるか
・手首のどの部分が痛むか
・転倒や捻挫をしたことがあるか
・手首の骨折歴があるか
・強く握ると痛むか
・手のひらを上・下へ返すと痛むか
・手首を小指側へ曲げると痛むか
・手をついて立ち上がると痛むか
・クリック音や引っかかりがあるか
・手首がぐらつく感覚があるか
・仕事で重量物や工具を扱うか
・スポーツでラケット、クラブ、バットなどを使うか
・小指や環指にしびれがあるか
・これまでに固定、注射、手術を受けたか
視診・触診
手首の腫れ、変形、尺骨頭の突出、皮膚の状態などを確認します。
尺骨頭、TFCC付着部、月状骨・三角骨周囲、尺側手根伸筋腱、尺側手根屈筋腱などを触診します。
痛みの位置がわずかに異なるだけでも、原因となる組織が異なる場合があります。
Ulnocarpal stress test
手首を小指側へ曲げ、尺骨側へ圧力を加えながら前腕や手首を回し、普段と同じ痛みが再現されるかを確認します。
尺骨突き上げ症候群で陽性となることがあります。
TFCC損傷、月状三角骨間靱帯損傷、関節炎などでも痛みが出ることがあるため、この検査だけで診断はできません。
急性期や強い痛みがある場合には、無理に繰り返し行いません。
TFCC部の圧痛
尺骨茎状突起と尺側手根屈筋腱の間にある、TFCC付着部付近を押して痛みが出るかを確認します。
強い圧痛がある場合には、TFCC損傷を疑います。
遠位橈尺関節の安定性検査
橈骨を支えながら尺骨頭を手のひら側・手の甲側へ動かし、反対側と比較します。
動きが大きい、痛みがある、終末感が弱い場合には、TFCC周辺部の損傷や遠位橈尺関節不安定症を疑います。
腱・神経の検査
尺側手根伸筋腱や尺側手根屈筋腱へ抵抗を加え、痛みが再現されるかを確認します。
小指・環指にしびれがある場合には、尺骨神経の感覚や筋力も評価します。
X線検査
TFCCや関節軟骨は通常のX線には直接写りません。
X線検査では、主に次の点を確認します。
・橈骨と尺骨の相対的な長さ
・尺骨プラスバリアンス
・橈骨遠位端骨折後の短縮・変形
・尺骨茎状突起骨折や偽関節
・遠位橈尺関節の変形
・月状骨・三角骨の硬化や骨嚢胞
・変形性手関節症
・そのほかの骨折や脱臼
尺骨バリアンスは、前腕の向きや握り方によって変化します。
通常の撮影に加え、前腕を回内して強く握った状態でのX線撮影を行うことがあります。
反対側の手首と比較する場合もあります。
超音波検査
超音波検査では、TFCCのすべてを詳細に評価することは困難ですが、周囲の組織を動かしながら観察できます。
次のような状態の評価に役立ちます。
・尺側手根伸筋腱の腱鞘炎・亜脱臼
・尺側手根屈筋腱炎
・遠位橈尺関節の動的な不安定性
・手関節内や腱周囲の液体貯留
・滑膜炎
・ガングリオン
・尺骨神経周囲の異常
・注射時の神経、腱、血管の位置
尺骨突き上げ症候群の診断では、X線とMRIを中心に評価し、超音波検査を補助的に用います。
MRI検査
MRI検査では、TFCC、関節軟骨、月状骨、三角骨、靱帯などを評価できます。
次のような所見を確認します。
・TFCCの変性・菲薄化
・TFCC中央部の断裂・穿孔
・月状骨、三角骨の骨髄浮腫
・軟骨下骨嚢胞
・軟骨損傷
・月状三角骨間靱帯の変性・断裂
・滑膜炎
・尺側手根伸筋腱障害
・そのほかの小指側手関節痛の原因
通常のX線で尺骨プラスバリアンスが明らかでなくても、MRIで典型的な骨・軟骨変化が確認される場合があります。
MRIでTFCC断裂が見つかっても、それだけで尺骨突き上げ症候群と確定することはできません。
症状、診察所見、尺骨バリアンス、骨・軟骨変化などを合わせて判断します。
当院にはMRI装置は設置しておりません。
MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。
CT検査
CT検査では、橈骨・尺骨・手根骨の形や関節面を詳しく確認できます。
次のような場合に検討します。
・橈骨遠位端骨折後の変形がある
・遠位橈尺関節の適合性を評価したい
・月状骨、三角骨の骨嚢胞を確認したい
・尺骨茎状突起衝突症候群との区別が必要である
・有鉤骨鉤骨折などが疑われる
・骨切り術や短縮術を検討している
必要に応じて、反対側と比較して撮影します。
尺骨突き上げ症候群に対する治療
治療方法は、症状の強さ、尺骨バリアンス、TFCC・軟骨の状態、遠位橈尺関節の安定性、骨折後変形の有無などによって決定します。
軽症では保存療法から開始します。
構造的な突き上げが強く、十分な保存療法で改善しない場合には手術を検討します。
保存療法
負担となる動作の調整
TFCCや手根骨への圧力を増やす動作を一時的に減らします。
次のような動作を控えます。
・強く握りながら手首をひねる
・重い物を片手で持つ
・手首を小指側へ曲げて力を入れる
・タオルや雑巾を強く絞る
・手をついて立ち上がる
・腕立て伏せやプランク
・ラケット、クラブ、バットを強く振る
・振動工具を長時間使用する
重い物は両手で持ち、手首をできるだけまっすぐに保ちます。
装具療法
手首を中間位で安定させるサポーターや装具を使用します。
症状や不安定性によっては、手首だけでなく前腕の回旋を制限する装具が必要です。
装具によって痛みが軽くなっても、長時間固定し続けると手首のこわばりや筋力低下を起こす場合があります。
装着時間と運動開始時期は、症状に合わせて調整します。
薬物療法
痛みや滑膜炎に対して、消炎鎮痛薬や外用薬を使用します。
薬物療法は症状を抑えるための治療であり、尺骨の長さやTFCCの摩耗を元へ戻すものではありません。
痛み止めで症状を隠して、負担の大きい作業やスポーツを続けることは避けます。
関節内ステロイド注射
装具や薬物療法で十分に改善しない場合には、手関節内へステロイドと局所麻酔薬などを注射することがあります。
滑膜炎を抑え、一時的に痛みを軽減することを目的とします。
注射によって尺骨が短くなったり、摩耗したTFCCや軟骨が修復されたりするわけではありません。
効果が一時的で、再発する場合があります。
注射には感染、出血、皮膚や皮下脂肪の萎縮、腱・神経損傷などのリスクがあります。
必要に応じて、超音波で関節、腱、神経、血管、針先を確認しながら行います。
PRP療法について
PRP療法は、尺骨突き上げ症候群に対する標準的な治療として確立されていませんが、効果を認めることがあります。
PRP注射によって、尺骨プラスバリアンス、骨折後変形、進行したTFCC・関節軟骨の摩耗を元へ戻すことはできません。
PRP療法について詳しくはコチラ
体外衝撃波治療について
体外衝撃波治療は、尺骨突き上げ症候群に対して有効な事があります。実際に筆者である私が尺骨突き上げ症候群であり、時折、体外衝撃波治療を行っております。
体外衝撃波治療について詳しくはコチラ
リハビリテーション
リハビリテーションでは、症状を悪化させる荷重を避けながら、手首や前腕の可動域と筋力を段階的に回復させます。
急性期の保護
痛みや腫れが強い時期には、強い握り、前腕の回旋、手首の尺屈、手をつく動作を避けます。
装具を使用し、患部への繰り返す圧力を減らします。
手首の可動域訓練
痛みが落ち着いた後に、手首の曲げ伸ばしを痛みのない範囲から始めます。
最初から手首を強く小指側へ曲げたり、反対の手で強く押したりしません。
前腕の回旋訓練
手のひらを上・下へ返す運動を、症状の出ない範囲で行います。
遠位橈尺関節の不安定性がある場合には、医師の許可が出るまで回旋が制限されることがあります。
握力・前腕筋力訓練
痛みが改善してから、柔らかいボールや軽い抵抗を用いて握力を回復させます。
尺側手根伸筋、尺側手根屈筋、回内・回外筋群などを、軽い負荷から段階的に鍛えます。
運動中だけでなく、運動後や翌日に痛みが増えていないかを確認します。
仕事・スポーツ動作の調整
仕事では、工具の持ち方、重量、作業台の高さ、連続作業時間などを見直します。
スポーツでは、グリップの太さ、握る強さ、手首の角度、フォーム、練習量などを調整します。
痛みが軽くなった直後に元の強度へ戻さず、段階的に負荷を増やします。
手術治療・専門医療機関への紹介
次のような場合には手術を検討します。
・一定期間の保存療法で改善しない
・強い小指側手関節痛が続いている
・仕事、家事、スポーツへの支障が大きい
・尺骨プラスバリアンスがあり、画像上の突き上げ所見を伴う
・TFCCの変性・穿孔がある
・月状骨や三角骨に軟骨・骨変化がある
・握力や可動域が低下している
・橈骨遠位端骨折後の変形を伴っている
・症状が進行している
自宅でのセルフケア
手首の小指側が痛む場合には、強い握り、回旋、尺屈、荷重を減らします。
日常生活では、次の点を意識しましょう。
・重い物は両手で持つ
・荷物を身体へ近づけて持つ
・鍋やフライパンを片手で振らない
・ペットボトルの開栓補助具を使用する
・タオルや雑巾を強く絞らない
・工具を強く握り続けない
・手首を小指側へ曲げたまま力を入れない
・床や椅子から手をついて立たない
・腕立て伏せやプランクを控える
・ラケット、クラブ、バットの使用を一時的に減らす
・クリック音を確認するため何度も手首を回さない
・痛む部分を強く揉まない
・市販のサポーターを締めすぎない
装具を使用して、指のしびれ、冷たさ、皮膚の色の変化、強い腫れなどが現れた場合には、使用を中止して医療機関へ相談してください。
尺骨突き上げ症候群でお悩みの方へ
次のような症状がある場合には、尺骨突き上げ症候群の可能性があります。
・手首の小指側が痛む
・物を強く握ると痛む
・手のひらを上・下へ返すと痛む
・ペットボトルや瓶のふたを開けると痛む
・タオルや雑巾を絞ると痛む
・鍋やフライパンを持つと痛む
・手をついて立ち上がると痛む
・ゴルフ、テニス、野球などで痛む
・手首を回すとクリック音や引っかかりがある
・握力が低下した
・以前に橈骨遠位端骨折をしたことがある
・TFCC損傷の治療を受けたが痛みが続いている
・装具や市販薬で十分に改善しない
次のような症状がある場合には、骨折、脱臼、感染、神経・血管損傷などの可能性があります。
・転倒後に手首が大きく腫れている
・手首が明らかに変形している
・皮下出血が広がっている
・手首をほとんど動かせない
・指に強いしびれや感覚低下がある
・指を動かせない
・手や指が冷たい
・手が白い、青紫色になっている
・傷や出血がある
・手首が赤く熱を持っている
・安静時にも激しく痛む
・発熱や悪寒を伴っている
外傷後の変形、強い腫れ、指の感覚・血流異常がある場合には、手首を無理に動かさず、速やかに医療機関を受診してください。
当院では、問診、触診、疼痛誘発検査、遠位橈尺関節の安定性評価、X線検査、超音波検査などによって、小指側手関節痛の原因を調べます。
X線検査では、橈骨と尺骨の長さ、骨折後変形、遠位橈尺関節、月状骨・三角骨の骨変化などを確認します。
通常のX線で尺骨プラスバリアンスが明らかでない場合には、症状に応じて、前腕を回内して強く握った状態での追加撮影を検討します。
超音波検査では、尺側手根伸筋腱、遠位橈尺関節、滑膜炎、ガングリオンなど、TFCC周囲の状態を評価します。
TFCC、関節軟骨、月状骨・三角骨の詳しい評価が必要な場合には、提携医療機関でのMRI検査をご案内します。
CT検査、手関節鏡、尺骨短縮術、Wafer法、TFCC修復術などの専門的な治療が必要と判断した場合には、手外科・上肢外科を専門とする医療機関と連携して対応します。
装具療法、薬物療法、必要に応じた超音波ガイド下注射、生活・仕事動作の指導、リハビリテーションなど、症状と画像所見に合わせた治療をご提案します。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫