手根管症候群

手根管症候群

手根管症候群について

手根管症候群は、手首にある「手根管」という狭い通路の中で正中神経が圧迫され、親指から環指の一部にしびれや痛みが現れる病気です。
初期には、示指や中指のしびれ、夜間や明け方の手の痛みなどがみられます。
症状が進行すると、親指、示指、中指、環指の親指側にしびれが広がり、感覚が鈍くなることがあります。
さらに神経障害が進むと、親指の付け根にある母指球筋が痩せ、物をつまむ、ボタンを留める、硬貨を拾うといった細かな動作が難しくなる場合があります。
夜中に手のしびれや痛みで目が覚め、手を振ったり指を曲げ伸ばししたりすると一時的に楽になることが特徴です。
原因がはっきりしない場合も多く、妊娠・出産期や更年期の女性に多くみられます。
そのほか、手の使いすぎ、糖尿病、関節リウマチ、甲状腺疾患、透析、手首の骨折、ガングリオンなどが発症に関係することがあります。
軽症の場合には、手首をまっすぐに保つ装具や作業の調整などによって改善が期待できます。
一方、しびれが常に続く場合、手に力が入りにくい場合、母指球筋が痩せている場合には、正中神経への圧迫が強くなっている可能性があります。
神経障害が長期間続くと、圧迫を解除しても感覚や筋力が十分に戻らないことがあるため、進行した症状を放置しないことが重要です。

手根管の構造

手根管は、手首の手のひら側にあるトンネル状の通路です。
トンネルの底と両側は、手根骨と呼ばれる小さな骨によって構成されています。
天井部分は「横手根靱帯」または「屈筋支帯」と呼ばれる強い靱帯によって覆われています。
手根管の中には、次の組織が通っています。
・1本の正中神経
・親指や指を曲げる9本の屈筋腱
・屈筋腱を包む腱鞘
手根管は骨と強い靱帯に囲まれているため、内部が腫れても外側へ広がる余裕がほとんどありません。
腱鞘がむくむ、滑膜が厚くなる、骨折後に手根管が狭くなるなどの変化が起こると、内部の圧力が高まり、圧迫に弱い正中神経に症状が現れます。

正中神経の働き

正中神経は、首から腕、前腕を通り、手根管を通過して手や指へ向かう神経です。
主に次の範囲の感覚を担当しています。
・親指
・示指
・中指
・環指の親指側半分
一般的には、これらの指の手のひら側にしびれや感覚低下が現れます。
手根管症候群では、小指にしびれが出ることは通常ありません。
小指や環指の小指側に症状がある場合には、尺骨神経が圧迫される肘部管症候群やギヨン管症候群などを考える必要があります。
正中神経は感覚だけでなく、親指の付け根にある母指球筋の一部も動かしています。
母指球筋には、親指を手のひらから離す、ほかの指と向かい合わせるといった働きがあります。
手根管症候群が進行すると、親指を示指や小指へ近づける動作が弱くなり、細かな物をつまみにくくなります。

手根管症候群の原因

手根管症候群は、手根管内の圧力が高まり、正中神経が圧迫されることで発症します。
複数の要因が重なって起こることも多く、検査を行っても原因を一つに特定できない場合があります。

特発性手根管症候群

骨折や腫瘤などの明らかな原因が見つからないものを、特発性手根管症候群と呼びます。
手根管症候群の中では比較的多くみられ、妊娠・出産期や更年期の女性に発症しやすい傾向があります。
ホルモンバランスや体液量の変化によって腱鞘がむくみ、手根管内の圧力が高まることが関係すると考えられています。

妊娠・出産

妊娠中は体液量やホルモンバランスが変化し、手や手首がむくみやすくなります。
そのため、手根管内の圧力が高まり、両手にしびれが現れることがあります。
出産後にむくみが改善すると症状が軽くなる場合もあります。
ただし、しびれが常に続く、親指に力が入らないなどの症状がある場合には、妊娠中であっても医療機関での評価が必要です。

更年期

更年期の女性にも手根管症候群が多くみられます。
ホルモンバランスの変化に伴う腱鞘のむくみなどが関係すると考えられています。

手や手首の使いすぎ

手首を繰り返し曲げ伸ばしする作業、強く握る作業、振動する工具の使用などによって、屈筋腱や腱鞘へ負担がかかることがあります。
次のような動作で症状が強くなる場合があります。
・パソコンのキーボードやマウス操作
・スマートフォンの長時間使用
・包丁やはさみを繰り返し使う
・工具や振動機器を使用する
・自転車やオートバイのハンドルを握る
・編み物、裁縫、細かな手作業
・重い物を強く握る
・手首を曲げた状態での作業
手の使用だけが唯一の原因とは限りませんが、症状を悪化させる要因となることがあります。

手首の骨折・脱臼

橈骨遠位端骨折などによって手首が腫れたり、骨の位置関係が変化したりすると、手根管内の圧力が高まることがあります。
骨折直後に急速にしびれや痛みが悪化する「急性手根管症候群」が起こることもあります。
骨折後しばらく経過してから、変形や腱鞘炎によって手根管症候群が現れる場合もあります。

関節リウマチ

関節リウマチでは、腱鞘や関節の滑膜に炎症が起こり、手根管内の組織が腫れることがあります。
手首や手指の腫れ、朝のこわばり、複数の関節痛を伴う場合には、基礎疾患の治療も必要です。

糖尿病

糖尿病では末梢神経が傷つきやすくなるほか、腱や腱鞘の変化によって手根管症候群を発症しやすくなることがあります。
糖尿病性末梢神経障害と手根管症候群が同時に存在する場合もあります。

甲状腺疾患

甲状腺機能低下症などでは、身体のむくみや組織の変化によって手根管症候群を生じることがあります。

透析

長期間透析を受けている方では、アミロイドと呼ばれる物質が手根管周囲に沈着し、正中神経を圧迫することがあります。
両側に発症する場合や、手術後に再発する場合があります。

ガングリオン・腫瘍など

手根管内またはその周囲にガングリオン、腱鞘腫瘍、そのほかの腫瘤ができると、正中神経を圧迫することがあります。
片側だけ急速に悪化した場合や、手首にしこりがある場合には、超音波検査やMRI検査を行います。

手根管の形状

生まれつき手根管が狭いなど、手首の形状が発症しやすさに関係する場合があります。

手根管症候群の主な症状

親指から環指にかけてのしびれ

代表的な症状は、親指、示指、中指、環指の親指側に現れるしびれです。
最初は示指や中指に症状を感じることが多く、進行すると正中神経の支配領域全体へ広がります。
しびれは次のように表現されることがあります。
・ピリピリする
・ジンジンする
・電気が走る
・指先の感覚が鈍い
・薄い手袋をしているように感じる
・指先が腫れているように感じる

夜間・明け方のしびれや痛み

手根管症候群では、夜間や明け方に症状が強くなることが特徴です。
寝ている間に手首が曲がることで手根管内の圧力が高まり、しびれや痛みで目が覚めることがあります。
手を振る、手を布団から出す、指を曲げ伸ばしすると、一時的に楽になる場合があります。

手の痛み

手のひらや指先に、焼けるような痛み、うずくような痛みが現れることがあります。
痛みやしびれが手首から前腕、肘、肩方向へ広がる場合もあります。
ただし、首から腕全体に痛みがある場合には、頸椎疾患なども確認する必要があります。

日中のしびれ

初期には夜間だけだった症状が、進行すると日中にも現れるようになります。
次のような場面で症状が強くなることがあります。
・スマートフォンや電話を持っている
・自動車を運転している
・本や新聞を持っている
・ドライヤーを使用している
・自転車のハンドルを握っている
・包丁や工具を使っている
・手首を曲げた状態が続いている

手のこわばり

起床時に手や指がこわばり、指を動かしにくく感じることがあります。
関節リウマチやばね指などでもこわばりが現れるため、症状の範囲や持続時間を確認します。

感覚の低下

症状が進むと、指先の感覚が鈍くなります。
次のような変化が現れる場合があります。
・熱い物に触れても気づきにくい
・小銭を触って区別しにくい
・ボタンを留めにくい
・紙を1枚ずつめくりにくい
・指先の細かな感覚が分かりにくい
やけどやけがに気づきにくくなることがあるため、感覚低下がある場合には注意が必要です。

物を落とす

しびれや感覚低下、親指の筋力低下によって、コップ、食器、スマートフォンなどを落とすことがあります。
「握力が落ちた」と感じる場合でも、実際には感覚が鈍く、握っている力を調整しにくいことが原因となっている場合があります。

細かな作業がしにくい

次のような動作に支障が現れることがあります。
・ボタンを留める
・硬貨をつまむ
・針を持つ
・箸を使う
・字を書く
・化粧をする
・アクセサリーを着ける
・鍵を回す
・ペットボトルのふたを開ける

親指に力が入りにくい

正中神経の障害が進むと、親指をほかの指と向かい合わせる動作が弱くなります。
親指と示指で丸を作りにくい、親指を手のひらから離しにくい、物をしっかりつまめないといった症状が現れます。

母指球筋の萎縮

手根管症候群が重症化すると、親指の付け根にある母指球筋が痩せて平らに見えるようになります。
左右の手を比べると、親指の付け根の膨らみに差がみられる場合があります。
母指球筋萎縮は、正中神経の運動神経障害が進んでいるサインです。
筋萎縮が長期間続いた場合には、手術で圧迫を解除しても筋力が十分に戻らない可能性があります。

小指がしびれる場合について

手根管症候群では、小指は正中神経の支配領域ではないため、通常、小指にしびれは現れません。
小指と環指の小指側にしびれがある場合には、次のような病気を考えます。
・肘部管症候群
・ギヨン管症候群
・頸椎症性神経根症
・胸郭出口症候群
・末梢神経障害
ただし、患者さまがしびれの範囲を正確に区別できない場合や、複数の神経障害が同時に存在する場合もあります。
しびれる指だけで自己判断せず、感覚検査や神経伝導検査などを行って判断します。

手根管症候群の経過

手根管症候群は、初期には症状が出たり消えたりします。
夜間や手を長く使ったときだけしびれ、手を振ると楽になる状態から始まることがあります。
神経への圧迫が続くと、しびれが現れる回数や時間が増え、日中にも症状を感じるようになります。
さらに進行すると、しびれが常に残り、感覚低下や親指の筋力低下が現れます。
重症例では、母指球筋萎縮が生じます。
神経障害が軽いうちに圧迫を減らすことができれば、保存療法や手術によって症状の改善が期待できます。
一方、感覚神経や運動神経の障害が長期間続いている場合には、治療後も指先のしびれ、感覚低下、母指球筋萎縮などが残ることがあります。
妊娠に伴う手根管症候群では、出産後にむくみが軽減することで改善する場合があります。
ただし、症状が強い場合や筋力低下がある場合には、出産後まで自己判断で放置せず、医師へ相談してください。

他の病気との違い

頸椎症性神経根症との違い

首の神経根が圧迫されると、肩から腕、手指にかけて痛みやしびれが現れます。
首を後ろへ反らすと症状が強くなる、肩や上腕まで痛む、手根管症候群とは異なる筋肉にも力が入りにくい場合には、頸椎由来の症状を考えます。
手根管症候群と頸椎疾患が同時に存在する場合もあります。

円回内筋症候群との違い

円回内筋症候群は、正中神経が肘から前腕の部分で圧迫される病気です。
前腕の痛みや、親指から環指にかけてのしびれが現れます。
手根管症候群と異なり、手のひらの母指球周辺にも感覚異常が現れる場合があります。
夜間症状は手根管症候群ほど典型的ではありません。
圧痛の場所、感覚の範囲、神経伝導検査などから障害部位を判断します。

前骨間神経麻痺との違い

前骨間神経は正中神経から分かれる運動神経です。
障害されると、親指と示指の先端を曲げにくくなり、きれいな丸を作れなくなることがあります。
通常、皮膚のしびれは現れません。
しびれを伴う手根管症候群とは症状が異なります。

肘部管症候群との違い

肘部管症候群では、肘の内側で尺骨神経が圧迫され、小指と環指の一部にしびれが現れます。
進行すると指を開閉する力やつまむ力が低下します。
手根管症候群とはしびれる指と筋力低下の範囲が異なります。

ギヨン管症候群との違い

ギヨン管症候群は、手首の小指側で尺骨神経が圧迫される病気です。
小指、環指の小指側にしびれや筋力低下が現れます。
自転車のハンドルによる圧迫や、ガングリオンなどが原因となることがあります。

糖尿病性末梢神経障害との違い

糖尿病性末梢神経障害では、両足から症状が始まり、両手にも広がることがあります。
手根管症候群は特定の指に症状が現れますが、糖尿病性末梢神経障害ではより広い範囲に左右対称のしびれが生じる場合があります。
両方を合併することもあります。

腱鞘炎・ばね指との違い

腱鞘炎やばね指では、指を動かしたときの痛み、引っかかり、曲げ伸ばしのしにくさが中心です。
手根管症候群では、しびれや感覚低下が中心となります。
腱鞘炎による腱鞘の腫れが手根管内の圧力に影響する場合や、手根管症候群とばね指を同時に発症する場合もあります。

高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査

問診

しびれの範囲、症状が現れる時間、日常生活への影響などを確認します。
主に次のような点についてお伺いします。
・どの指がしびれるか
・小指にもしびれがあるか
・夜間や明け方に症状が強くなるか
・しびれで目が覚めるか
・手を振ると楽になるか
・日中も常にしびれているか
・物を落とすことが増えたか
・ボタンや硬貨を扱いにくいか
・親指に力が入りにくいか
・仕事や家事で手首をよく使うか
・妊娠中または出産後であるか
・糖尿病、関節リウマチ、甲状腺疾患があるか
・透析を受けているか
・手首の骨折や手術歴があるか
・首や肩にも痛みやしびれがあるか
・これまでに装具や注射治療を受けたか
片手だけか両手か、利き手との関係なども確認します。

視診・触診

手の腫れ、皮膚の状態、傷、手首の変形などを確認します。
親指の付け根にある母指球筋を左右で比較し、筋肉が痩せていないかを評価します。
手首の手のひら側を触診し、圧痛、腫瘤、ガングリオンなどがないかを確認します。

感覚検査

親指、示指、中指、環指、小指の感覚を比較します。
軽く触れた感覚、鋭い・鈍い感覚、指先で物を区別する能力などを確認することがあります。
両手や隣り合う指を比較することも重要です。

筋力検査

親指を手のひらから離す力や、ほかの指と向かい合わせる力を確認します。
親指と示指で物をつまむ力、握力、細かな物を扱う能力なども評価します。
母指球筋萎縮がある場合には、運動神経障害が進行している可能性があります。

Tinel様徴候

手首の手のひら側で正中神経が通る部分を軽くたたきます。
親指、示指、中指、環指へ電気が走るようなしびれが響く場合には、Tinel様徴候陽性と判断します。
健康な方でも刺激を感じることがあるため、この検査だけで診断することはできません。

Phalenテスト

両手首を曲げ、手の甲を合わせた状態を一定時間保ちます。
親指から環指にかけて、普段と同じしびれや痛みが再現されるかを確認します。

手根管圧迫テスト

手根管部分を一定時間圧迫し、正中神経領域のしびれが再現されるかを確認します。
問診やほかの検査所見と組み合わせて判断します。

X線検査

手根管症候群では、正中神経や腱はX線には直接写りません。
次のような場合にX線検査を行います。
・手首の骨折歴がある
・転倒や外傷後に発症した
・手首に変形がある
・手首の動きが悪い
・関節炎や変形性関節症が疑われる
・骨の腫瘍や異常が疑われる
骨折後の変形、関節症、骨の配列などが手根管を狭くしていないかを確認します。

超音波検査

超音波検査では、手根管内を通る正中神経を直接観察できます。
次のような状態を評価します。
・正中神経の腫れ
・手根管内での神経の扁平化
・神経内部の変化
・屈筋腱や腱鞘の腫れ
・滑膜炎
・ガングリオンなどの腫瘤
・手首を動かした際の神経や腱の動き
・骨折後の周囲組織の状態
左右の手首を比較することもできます。
超音波検査は痛みや放射線被ばくを伴わず、診察室で神経の状態を確認できる点が特徴です。
ただし、超音波所見だけで重症度や治療方法を決定するのではなく、症状、筋力、神経伝導検査などを合わせて判断します。
注射治療や神経周囲への処置を行う場合には、正中神経、腱、血管、針先などを確認しながら行います。

MRI検査

MRI検査は、典型的な手根管症候群のすべての方に必要な検査ではありません。
次のような場合に検討します。
・ガングリオンや腫瘍が疑われる
・片側だけ急速に症状が進行した
・外傷後の瘢痕や腱損傷が疑われる
・超音波だけでは原因を判断しにくい
・症状と神経伝導検査の結果が一致しない
・手術前に特殊な原因を確認する必要がある
当院にはMRI装置は設置しておりません。
MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内し、そちらで撮影を受けていただきます。

手根管症候群に対する治療

治療方法は、しびれの強さ、症状が続いている期間、筋力低下・筋萎縮の有無、神経伝導検査の結果、原因などによって決定します。
軽症で、症状が一時的に現れる場合には、保存療法から開始します。
一方、しびれが常に続く場合、親指に力が入らない場合、母指球筋が痩せている場合には、早めに手外科専門医への紹介や手術を検討します。

保存療法

手首の使い方・活動量の調整

症状を悪化させる手首の姿勢や作業を確認し、可能な範囲で調整します。
次のような点を意識します。
・手首を深く曲げた状態を長く続けない
・手首を強く反らした状態を避ける
・スマートフォンを長時間同じ手で持たない
・工具を強く握り続けない
・作業の途中で休憩を取る
・マウスやキーボードの位置を調整する
・手首を机の角へ押しつけない
・自転車のハンドルへ体重をかけすぎない
・振動工具の使用時間を調整する
手をまったく使わないようにする必要はありません。
症状を悪化させる姿勢を減らしながら、無理のない範囲で日常生活を続けます。

夜間装具療法

手根管症候群の保存療法では、手首をまっすぐに近い位置で保つ装具を、就寝中に使用することがあります。
睡眠中に手首が深く曲がると、手根管内の圧力が高まりやすくなります。
装具によって手首を中間位に保つことで、夜間や明け方のしびれを軽減します。
手首を強く反らした状態や曲げた状態で固定しないことが重要です。
装具がきつすぎると、手の腫れ、しびれ、皮膚障害を悪化させる可能性があります。
症状や手首の形に合った装具を使用してください。
日中も症状を悪化させる作業時に使用することがありますが、長時間常に固定すると手首や手指がこわばる場合があります。
医師やリハビリテーション担当者の指導を受けて使用します。

薬物療法

痛みや腱鞘周囲の炎症に対して、消炎鎮痛薬や外用薬などを使用することがあります。
神経症状に対して、ビタミンB12製剤などを検討する場合もあります。
薬物療法は痛みやしびれを軽減するための治療であり、狭くなった手根管を広げるものではありません。
筋力低下や筋萎縮が進んでいる場合には、薬だけで経過をみることはできません。

手根管内ステロイド注射

夜間のしびれや痛みが強い場合、装具などで十分に改善しない場合には、手根管内へのステロイド注射を検討することがあります。
ステロイドによって腱鞘周囲の炎症や腫れを抑え、正中神経への圧力を軽減することを目的とします。
症状が一定期間軽くなることがありますが、効果は一時的で、再発する場合があります。
注射によって狭い手根管そのものが恒久的に広がるわけではありません。
手根管内には正中神経と多数の屈筋腱が通っているため、注射には神経損傷、腱損傷、感染、皮膚の色調変化などのリスクがあります。
当院では必要に応じて、超音波で正中神経、腱、血管、針先を確認しながら行います。
感染が疑われる場合や、注射による危険性が高い場合には実施しません。
注射を繰り返して一時的に症状を抑えるよりも、神経障害の程度に応じて手術を検討した方がよい場合があります。

神経周囲ハイドロリリース

正中神経と周囲組織との滑走不良が症状に関係していると考えられる場合には、超音波ガイド下で神経周囲ハイドロリリースを検討することがあります。
超音波で正中神経、屈筋腱、血管、針先を確認しながら、生理食塩水などを神経周囲へ注入し、周囲組織との滑走改善や圧迫の軽減を目指す治療です。
すべての手根管症候群に行う標準的な治療ではなく、治療効果や持続期間には個人差があります。
ハイドロリリースによって横手根靱帯が切開されるわけではなく、狭い手根管が手術と同じように開放されるものではありません。
次のような場合には、ハイドロリリースを繰り返すのではなく、手術を含めた専門的な治療を優先します。
・しびれが常に続いている
・母指球筋が痩せている
・親指の筋力が低下している
・神経伝導検査で重い障害がある
・腫瘤や骨折後変形が神経を圧迫している
・保存療法で症状が進行している

PRP療法について

PRP療法は、患者さまご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、注射する治療です。
手根管症候群に対して効果を示した報告はあります。

PRP療法について詳しくはコチラ

体外衝撃波治療について

体外衝撃波治療は、手根管症候群に対する標準的な治療ではありませんが、有効な場合があります。

体外衝撃波治療について詳しくはコチラ

リハビリテーション

手根管症候群のリハビリテーションでは、正中神経に強い圧迫や牽引を加えず、手首や指の使い方を整えます。

作業姿勢の調整

パソコン作業では、手首が曲がった状態や反った状態で固定されないようにします。
キーボード、マウス、椅子、机の高さを調整し、前腕を支えられる姿勢を整えます。
手首の手のひら側を机の硬い縁へ押しつけないようにします。
工具や調理器具を使用する場合には、柄の太さ、握る力、使用時間などを見直します。

正中神経滑走運動

正中神経を周囲組織に対して無理なく動かす、神経滑走運動を行うことがあります。
神経滑走運動は、神経を強く引き伸ばすストレッチではありません。
運動中にしびれが強くなる場合や、運動後まで症状が残る場合には、方法や回数を調整します。
自己判断で強い神経ストレッチを繰り返すと、症状が悪化することがあります。

屈筋腱滑走運動

手根管内を通る指の屈筋腱を、無理のない範囲で動かす運動を行うことがあります。
指を伸ばした状態、軽く曲げた状態、握った状態などをゆっくり切り替えます。
腱の滑走を維持し、手指のこわばりを防ぐことを目的とします。
強く握り込むことでしびれが悪化する場合には、負荷を調整します。

手首・指の可動域訓練

長期間装具を使用した場合には、手首や指が固くならないよう、痛みのない範囲で動かします。
手首を限界まで曲げる、強く反らすといった運動は、手根管内の圧力を高める可能性があります。
症状が出ない範囲で行います。

筋力・巧緻動作訓練

軽度の筋力低下がある場合には、正中神経への圧迫を減らしたうえで、親指や手指の運動を行います。
ボタン、硬貨、洗濯ばさみなどを使った細かな動作訓練を行う場合もあります。
母指球筋萎縮が進んでいる場合には、筋力訓練だけで改善しないことがあります。
手術による神経圧迫の解除が必要かを確認することが優先されます。

手術治療・専門医療機関への紹介

次のような場合には、手根管開放術を検討します。
・装具や注射などの保存療法で改善しない
・治療後も短期間で症状を繰り返す
・しびれが常に続いている
・感覚が明らかに低下している
・物を落とすことが増えている
・親指に力が入りにくい
・母指球筋が痩せている
・神経伝導検査で強い障害が確認された
・腫瘤などが正中神経を圧迫している
・症状が急速に進行している
・日常生活や仕事に大きな支障がある

急性手根管症候群について

手首の骨折、脱臼、強い打撲、出血などによって、手根管内の圧力が急激に高くなることがあります。
これを急性手根管症候群と呼びます。
次のような症状が短時間で悪化する場合には、緊急の評価が必要です。
・転倒後から親指から環指のしびれが急速に強くなる
・手や手首の激痛が続く
・感覚が急に鈍くなる
・親指や指を動かしにくい
・手が大きく腫れている
・固定やギプス後にしびれと痛みが増している
急性手根管症候群では、神経への強い圧迫が続くと短時間でも障害が進行する可能性があります。
ギプスや固定具を自分で完全に外すのではなく、速やかに治療を受けた医療機関や救急医療機関へ連絡してください。
状態によっては、緊急の手根管開放術が必要になります。

手術後の経過とリハビリテーション

手術後は、傷を保護しながら指を動かします。
医師の許可がある範囲で、指の曲げ伸ばしを行い、腫れやこわばりを予防します。
手を心臓より高い位置に保つことで、腫れの軽減につながる場合があります。

夜間のしびれ

夜間のしびれや痛みは、手術後比較的早い時期に改善することがあります。
ただし、神経障害が強い場合には、症状の改善に時間がかかります。

感覚の回復

神経の圧迫が長期間続いていた場合には、指先の感覚が回復するまで数か月以上かかることがあります。
重症例では、しびれや感覚低下が完全には戻らない可能性があります。

筋力の回復

握力やつまむ力は徐々に回復します。
母指球筋萎縮が進行していた場合には、筋力の回復に長期間を要したり、十分に回復しなかったりすることがあります。

傷周囲の痛み

手のひらの傷周囲や手根管の両側に、押したときの痛みや違和感が残る場合があります。
手を強くつく、重い物を持つなどの動作は、医師の指示に従って段階的に再開します。

仕事への復帰

仕事への復帰時期は、手術方法、利き手、仕事内容、傷の状態などによって異なります。
事務作業と、重量物を扱う仕事や振動工具を使用する仕事では、復帰時期や制限が異なります。
手術を行った医療機関の指示に従ってください。

自宅でのセルフケア

手根管症候群では、夜間に手首を深く曲げないことと、日中に手首へ強い圧迫を加えないことが重要です。
日常生活では、次の点を意識しましょう。
・就寝時に手首を曲げ込まない
・手首をまっすぐに保つ夜間装具を使用する
・スマートフォンを長時間同じ手で持たない
・手首を机の角へ押しつけない
・強く握り続ける作業を減らす
・作業の途中で手を休ませる
・マウスやキーボードの位置を調整する
・自転車のハンドルへ手首の体重をかけすぎない
・手首を強く揉まない
・しびれを確認するために何度も手首を曲げない
手の感覚が鈍い場合には、調理器具、湯たんぽ、カイロ、入浴時のお湯などによるやけどに注意してください。
夜間装具を使用しても症状が改善しない場合や、日中もしびれが続く場合には、医療機関を受診してください。
市販のサポーターは、手首を強く締めるものではなく、手首を中間位に保てるものを選びます。
装具を装着してしびれや腫れが強くなった場合には使用を中止し、医師へ相談してください。

手根管症候群でお悩みの方へ

次のような症状がある場合には、手根管症候群の可能性があります。
・親指、示指、中指がしびれる
・環指の親指側がしびれる
・夜中や明け方に手がしびれる
・しびれや痛みで目が覚める
・手を振ると一時的に楽になる
・スマートフォンや運転中にしびれる
・指先の感覚が鈍い
・ボタンや硬貨を扱いにくい
・物を落とすことが増えた
・親指に力が入りにくい
・市販の装具を使用しても改善しない
・症状が数週間以上続いている
特に、次のような症状がある場合には、正中神経障害が進行している可能性があります。
・しびれが一日中続いている
・指先の感覚がほとんど分からない
・親指の付け根が痩せてきた
・親指と示指で物をつまめない
・親指を手のひらから離しにくい
・ボタンや箸の操作が急に難しくなった
・物を頻繁に落とす
・症状が急速に悪化している
また、転倒や手首の骨折後に、しびれや激痛が急速に強くなっている場合には、急性手根管症候群の可能性があります。
手や指が冷たい、白い、青紫色になっている、指を動かせない、固定後に激痛や腫れが増している場合には、神経・血管障害やコンパートメント症候群などの可能性もあります。
速やかに救急医療機関を受診してください。
突然片側の手足が動かしにくくなった、顔のゆがみ、ろれつの回りにくさなどを伴う場合には、脳血管障害の可能性があります。救急車を要請してください。
当院では、問診、感覚・筋力検査、Tinel様徴候、Phalenテスト、X線検査、超音波検査などによって、正中神経の状態と症状の原因を評価します。
MRI検査、手術を含めた専門的な治療が必要な場合には、提携医療機関や手外科・上肢外科を専門とする医療機関と連携して対応します。
夜間装具、薬物療法、超音波ガイド下注射、生活・作業指導、リハビリテーションなど、症状の程度と生活状況に合わせた治療をご提案します。

監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫