アキレス腱断裂/アキレス腱周囲炎
アキレス腱断裂/アキレス腱周囲炎について
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉とかかとの骨をつないでいる、人体の中でも特に太く強い腱です。歩く、走る、ジャンプする、つま先立ちをするといった動作で重要な役割を担っています。
アキレス腱断裂は、スポーツ中の踏み込みやジャンプ、急な方向転換などをきっかけに、アキレス腱が部分的または完全に切れてしまうけがです。一方、アキレス腱周囲炎は、ランニングやスポーツ、立ち仕事などによる繰り返しの負担によって、アキレス腱やその周囲に痛みが生じる状態です。
一般に「アキレス腱周囲炎」や「アキレス腱炎」と呼ばれる症状の中には、腱周囲の炎症だけでなく、繰り返す負荷によって腱の組織が変化した「アキレス腱症」が含まれていることがあります。治療方法は、断裂の有無、痛みの場所、症状の経過、スポーツや仕事の内容などによって異なるため、適切な診断を受けることが大切です。
アキレス腱断裂の症状と経過
受傷直後
スポーツ中などに突然、アキレス腱付近に強い衝撃や痛みを感じます。「後ろから蹴られた」「ボールが当たった」「ブチッと音がした」と表現されることもあります。
受傷後は歩きにくくなり、つま先立ちや地面を強く蹴る動作が難しくなります。腫れや皮下出血が現れることもありますが、完全に断裂していても、ほかの筋肉の働きによって歩ける場合があります。歩けるからといって断裂を否定することはできません。
アキレス腱断裂が疑われる場合は、無理に歩いたり、足首を強く伸ばしたりせず、早めに整形外科を受診することが大切です。
固定・治療期
アキレス腱断裂と診断された場合は、切れた腱の両端が近づくように、足首をつま先が下を向く位置で固定します。治療方法には、装具やギプスを使用して腱の自然な修復を促す保存療法と、断裂した腱を縫合する手術療法があります。
年齢、活動量、スポーツ種目、断裂の状態、受傷からの期間、基礎疾患などを確認し、一人ひとりに適した治療方法を検討します。
回復・リハビリ期
腱の修復状態を確認しながら、少しずつ足首の動きや歩行を改善していきます。固定期間中は、足首の可動域低下やふくらはぎの筋力低下が起こりやすいため、適切な時期から段階的にリハビリを行うことが重要です。
回復を急いで強いストレッチやつま先立ち運動を行うと、修復途中の腱が伸びたり、再断裂したりする可能性があります。自己判断で運動量を増やさず、医師や理学療法士の指示に従って進めます。
アキレス腱周囲炎の症状と経過
初期
運動を始めたときや歩き始めに、アキレス腱やかかとの後方に痛みを感じます。朝起きて最初の一歩が痛い、運動開始時は痛いものの体が温まると軽くなる、といった症状がみられることがあります。
アキレス腱を押したときの痛み、腫れ、熱感、腱の太さの変化などが現れることもあります。初期には運動を続けられることもありますが、痛みを我慢して負担をかけ続けると、症状が長引くことがあります。
慢性期
症状が進行すると、運動中だけでなく、歩行や階段、立ち仕事などの日常生活でも痛みを感じるようになります。腱の一部が太くなったり、硬くなったりすることもあります。
アキレス腱の中央部分に痛みが出るタイプと、かかとの骨に付着する部分に痛みが出るタイプがあり、痛みの場所によって適した運動やストレッチ方法が異なります。
慢性化した場合には、単に安静にするだけでは改善しにくいことがあります。負担の原因を確認し、運動量の調整、筋力訓練、柔軟性の改善、靴や動作の見直しなどを組み合わせて治療します。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査
問診・触診
痛みが始まった時期、けがをしたときの動作、音や衝撃を感じたか、スポーツ歴、練習量の変化、仕事での負担などを確認します。
アキレス腱の腫れ、熱感、圧痛、へこみ、腱の太さなどを確認します。また、痛みがアキレス腱の中央にあるのか、かかとの付着部にあるのか、腱周囲や滑液包にあるのかを確認します。
身体検査
足首の可動域、ふくらはぎの筋力、歩き方、つま先立ちができるかなどを評価します。
アキレス腱断裂が疑われる場合には、ふくらはぎを圧迫した際に足首が動くかを確認するトンプソンテストなどを行います。断裂している場合には、ふくらはぎを圧迫しても足首が十分に動かないことがあります。
アキレス腱周囲炎では、片脚でのつま先立ち、足首を動かしたときの痛み、下腿や足部の柔軟性、足のアーチ、膝や股関節の使い方なども確認します。
X線検査
アキレス腱そのものはX線には明確に写りませんが、かかとの骨の形、骨棘、石灰化、剥離骨折、足関節の変形などを確認できます。
特に、アキレス腱がかかとの骨に付着する部分に痛みがある場合は、骨の突出や石灰化、滑液包炎などが症状に関係していないかを確認します。
超音波検査
アキレス腱の連続性、断裂の有無、部分断裂、腱の太さ、腱内部の状態、腱周囲の炎症や血流などを確認します。
超音波検査は、診察室で足首を動かしながらリアルタイムに評価できる点が特徴です。断裂部分の状態や治療後の修復経過を確認する際にも使用します。
MRI検査
部分断裂、陳旧性断裂、腱内部の変化、周囲組織の炎症などを詳しく確認するために、MRI検査が必要となることがあります。
当院にはMRI装置は設置しておりません。MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内し、そちらで撮影を受けていただきます。
アキレス腱断裂/アキレス腱周囲炎に対する治療
アキレス腱の治療は、断裂の有無や症状の時期によって大きく異なります。当院では、画像検査や身体所見をもとに状態を評価し、日常生活やスポーツへの復帰を見据えた治療を行います。
アキレス腱断裂の初期治療
断裂が疑われる場合には、腱に負担がかからないように足首を固定します。必要に応じて松葉杖などを使用し、患部への負担を減らします。
固定をせずに歩き続けたり、足首を強く反らしたりすると、断裂部分が離れて治療が難しくなる可能性があります。受傷直後は患部を安静にし、できるだけ早く診断を受けることが重要です。
保存療法
保存療法では、ギプスや専用の装具を使用し、切れた腱が近づく位置で固定します。腱の修復状態に合わせて、装具の角度や荷重の程度を段階的に調整します。
保存療法でも良好な回復を目指すことができますが、決められた期間の固定と、その後の計画的なリハビリが必要です。装具を自己判断で外したり、早い時期に強いストレッチを行ったりしないよう注意します。
手術療法
断裂の状態、年齢、スポーツ活動、職業、受傷からの期間などによっては、手術療法が検討されます。
手術が必要と判断した場合には、対応可能な提携医療機関をご案内します。手術後も固定や装具療法、段階的なリハビリが必要となるため、医療機関と連携して経過を確認します。
薬物療法
アキレス腱周囲炎の痛みが強い場合には、消炎鎮痛薬や外用薬などを使用することがあります。薬によって痛みを軽減しながら、日常生活やリハビリの負担を調整します。
薬で痛みが軽くなっても、腱の状態がすぐに回復したわけではありません。痛みが少ないからといって急に運動量を増やすと、症状が再発することがあります。
装具・インソール療法
症状に応じて、かかとを少し高くするヒールパッドやインソール、足首を保護する装具などを使用します。
靴のかかと部分がアキレス腱に当たっている場合や、足のアーチ、歩き方、足首の硬さが負担の原因となっている場合には、靴やインソールの調整も行います。
体外衝撃波治療
十分な保存療法やリハビリを行っても改善しにくい慢性的なアキレス腱周囲炎・アキレス腱症に対して、体外衝撃波治療を検討することがあります。
患部に衝撃波を照射し、痛みの軽減や組織の修復を促すことを目的とした治療です。保険適用外の自費診療となります。
急性のアキレス腱断裂や、断裂が疑われる状態には行いません。適応については、診察や超音波検査などで腱の状態を確認したうえで判断します。
体外衝撃波治療について詳しくはコチラ
PRP療法
保存療法やリハビリを一定期間行っても改善しにくい慢性的なアキレス腱症に対して、PRP療法を検討することがあります。
PRP療法は、患者さんご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、患部に注入する自費診療です。効果には個人差があり、すべての症例に対して有効性が確立している治療ではありません。診察や画像評価を行い、腱の状態やこれまでの治療経過を確認したうえで適応を判断します。
PRP療法について詳しくはコチラ
ステロイド注射について
アキレス腱やその周囲へのステロイド注射は、腱の組織を弱くし、断裂の危険性を高める可能性があるため、慎重な判断が必要です。
特にアキレス腱内部へのステロイド注射は避け、痛みの原因や腱の状態を十分に確認したうえで治療方法を選択します。
理学療法・リハビリテーション
アキレス腱の症状には、足首だけでなく、ふくらはぎの筋力、足部のアーチ、膝や股関節の動き、歩き方や走り方などが関係していることがあります。
当院では、理学療法士が一人ひとりの状態を確認し、症状や治療段階に合わせたリハビリを行います。
関節可動域訓練
固定や痛みによって硬くなった足首の動きを改善します。アキレス腱断裂後は、腱を伸ばしすぎないように、修復段階に合わせて慎重に進めます。
ストレッチ
ふくらはぎや足首周囲の柔軟性を改善します。ただし、かかとの付着部に痛みがある場合や、断裂後の早い時期に強いストレッチを行うと、症状が悪化することがあります。痛みの場所と時期に合わせて方法を調整します。
筋力トレーニング
ふくらはぎの筋肉や足部の筋肉を段階的に鍛え、アキレス腱が負荷に耐えられる状態を目指します。
両脚でのかかと上げから開始し、状態に応じて片脚でのかかと上げや、スポーツ動作に近いトレーニングへ進めます。アキレス腱周囲炎では、腱に適切な負荷をかける運動療法が治療の中心となります。
歩行・動作指導
歩き方、走り方、ジャンプや着地、切り返し動作などを確認します。足首だけでなく、膝や股関節、体幹の使い方を改善することで、アキレス腱にかかる負担を減らします。
スポーツ復帰支援
ジョギング、ジャンプ、ダッシュ、方向転換などを段階的に行い、再発や再断裂を予防しながらスポーツ復帰を目指します。
痛みの有無だけでなく、足首の可動域、ふくらはぎの筋力、片脚でのつま先立ち、ジャンプや着地の安定性などを確認して復帰時期を判断します。
自宅でのセルフケア
アキレス腱周囲炎では、痛みを我慢して同じ運動を続けるのではなく、運動量や負荷を一時的に調整することが大切です。ただし、長期間まったく動かさないと、筋力や腱が負荷に耐える能力が低下することがあります。
症状に合わせて、適切な強さの筋力訓練やストレッチを継続します。練習量を急に増やさないこと、硬い路面や坂道での運動を調整すること、クッション性とかかとの形が合った靴を使用することも重要です。
アキレス腱断裂後は、自己判断によるストレッチやトレーニングを行わず、医師や理学療法士から指示された範囲で運動を進めてください。
アキレス腱の痛みでお悩みの方へ
アキレス腱の痛みは、単なる使いすぎと思っていても、部分断裂や完全断裂、かかとの骨の異常、滑液包炎などが隠れていることがあります。
突然強い痛みが出た、後ろから蹴られたような感覚があった、つま先立ちができない、腫れや皮下出血がある場合には、アキレス腱断裂の可能性があります。歩ける場合でも断裂していることがあるため、早めにご相談ください。
また、運動開始時や朝の一歩目に痛みがある、アキレス腱の腫れや太さが気になる、痛みを繰り返している、スポーツや仕事に支障が出ている場合にも、適切な検査と治療が必要です。
当院では、画像検査、装具療法、リハビリテーション、体外衝撃波治療、PRP療法、セルフケア指導などを組み合わせ、日常生活やスポーツへの復帰を目指した治療を行います。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫