膝蓋骨脱臼・膝蓋大腿関節症
膝蓋骨脱臼・膝蓋大腿関節症について
膝蓋骨は、一般に「膝のお皿」と呼ばれる骨です。
膝の前側に位置し、太ももの前にある大腿四頭筋の力を、膝蓋腱を通してすねの骨である脛骨へ伝える役割があります。
膝蓋骨の裏側は、大腿骨の前方にある「滑車溝」と呼ばれる溝にはまり、膝の曲げ伸ばしに合わせて上下に動きます。
この膝蓋骨と大腿骨の間にある関節を「膝蓋大腿関節」と呼びます。
膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が滑車溝から完全に外れた状態です。完全には外れていないものの、正常な位置から大きくずれた状態は膝蓋骨亜脱臼と呼ばれます。
多くの場合、膝蓋骨は膝の外側へ外れます。
スポーツ中の方向転換やジャンプからの着地、転倒、膝への直接的な衝撃などをきっかけに起こります。
一方、膝蓋大腿関節症は、膝蓋骨の裏側や大腿骨の滑車部を覆っている関節軟骨が傷み、炎症や骨の変形が生じた状態です。
膝蓋骨脱臼や亜脱臼を繰り返している方では、膝蓋骨が正常な軌道から外れて動くことで関節軟骨へ負担が集中し、将来的に膝蓋大腿関節症へ進行することがあります。
ただし、すべての膝蓋骨脱臼が関節症へ進行するわけではありません。
また、膝蓋大腿関節症は、脱臼歴がなくても、加齢、膝の形、脚の並び、筋力低下、長年の負担などによって発症することがあります。

膝蓋骨と膝蓋大腿関節の構造
膝関節は、太ももの骨である大腿骨、すねの骨である脛骨、膝の前方にある膝蓋骨によって構成されています。
大腿骨と脛骨の間にある関節は「脛骨大腿関節」、大腿骨と膝蓋骨の間にある関節は「膝蓋大腿関節」と呼ばれます。
大腿骨の前方には、膝蓋骨が動くための滑車状の溝があります。
この溝は「大腿骨滑車」または「滑車溝」と呼ばれます。
膝を伸ばしているときには、膝蓋骨は滑車溝の上方にあります。
膝を曲げていくと、膝蓋骨は徐々に滑車溝へ入り込み、溝に沿って下方へ移動します。
正常な状態では、膝蓋骨の裏側と滑車溝の表面は関節軟骨で覆われています。
関節軟骨によって摩擦が少なくなり、膝蓋骨が滑らかに動くことができます。
膝蓋骨を安定させる組織
膝蓋骨は、骨の形、靱帯、筋肉、腱など、複数の組織によって安定しています。
主に次のような組織が関係します。
・大腿骨の滑車溝
・内側膝蓋大腿靱帯
・内側・外側膝蓋支帯
・大腿四頭筋
・大腿四頭筋腱
・膝蓋腱
・膝関節包
・股関節や体幹の筋肉
このうち、膝蓋骨が外側へ移動することを防ぐ重要な靱帯が「内側膝蓋大腿靱帯」です。
英語の「Medial Patellofemoral Ligament」の頭文字から、MPFLと呼ばれます。
膝蓋骨が外側へ脱臼すると、MPFLが引き伸ばされたり、部分的または完全に切れたりすることがあります。
膝蓋骨脱臼について
膝蓋骨脱臼は、膝蓋骨が大腿骨の滑車溝から完全に外れた状態です。
多くの場合、膝蓋骨は外側へ脱臼します。
受傷時には、膝の形が明らかに変わり、膝蓋骨が外側へ移動して見えることがあります。
膝を伸ばした際に自然に元の位置へ戻る場合もありますが、元に戻った後も靱帯、関節軟骨、骨などを損傷している可能性があります。
自然に整復されたからといって、そのまま様子を見てよいとは限りません。
脱臼後には膝が大きく腫れたり、関節内に血液がたまったりすることがあります。
また、脱臼の際に膝蓋骨の裏側や大腿骨の関節軟骨が削れ、骨や軟骨の破片が関節内に落ちることがあります。
そのため、膝蓋骨が自然に元へ戻った場合も、早めに整形外科を受診することが大切です。
膝蓋骨亜脱臼について
膝蓋骨亜脱臼は、膝蓋骨が滑車溝から完全には外れていないものの、一時的または持続的に正常な位置からずれた状態です。
患者さん自身が、膝蓋骨が外側へ動いた、ずれた後に戻った、膝が抜けたと感じることがあります。
完全な脱臼ほど明らかな変形がないため、膝の捻挫として扱われることもあります。
亜脱臼を繰り返すと、膝蓋骨の裏側や滑車溝の軟骨へ負担がかかり、膝蓋大腿関節症につながる可能性があります。
膝蓋骨脱臼の主な種類
初回膝蓋骨脱臼
初めて膝蓋骨が脱臼した状態です。
スポーツ中の着地や方向転換、転倒などをきっかけに発症します。
膝蓋骨の形や滑車溝に大きな異常がない方でも、強い外力によって脱臼することがあります。
初回脱臼では、MPFLなどの内側組織が損傷している可能性があります。
骨軟骨骨折や大きな関節内遊離体がなく、整復後の安定性が保たれている場合には、装具とリハビリテーションによる保存療法を行うことが多くあります。
反復性膝蓋骨脱臼
膝蓋骨脱臼を繰り返す状態です。
初回脱臼によってMPFLが十分に治癒しなかった場合や、もともと膝蓋骨が外れやすい骨格的な特徴がある場合に生じます。
脱臼を繰り返すたびに関節軟骨が傷つき、膝蓋大腿関節症のリスクが高くなる可能性があります。
日常生活では脱臼しなくても、スポーツ、方向転換、階段、しゃがみ込みなどで膝蓋骨が外れそうな恐怖感を感じることがあります。
習慣性膝蓋骨脱臼
膝を曲げるたびに膝蓋骨が外側へ脱臼し、膝を伸ばすと元へ戻る状態です。
筋肉や腱のバランス、外側組織の拘縮、骨格的な異常などが関係します。
小児期から認められることもあり、通常の外傷性脱臼とは治療方法が異なる場合があります。
恒久性膝蓋骨脱臼
膝蓋骨が常に滑車溝から外れている状態です。
先天的または発育に伴う骨格・筋腱の異常が関係することがあります。
歩行や膝伸展機構へ影響する場合があり、小児整形外科などでの専門的な評価が必要です。
膝蓋骨脱臼と膝関節脱臼の違い
膝蓋骨脱臼は、膝のお皿である膝蓋骨が滑車溝から外れた状態です。
これに対し、膝関節脱臼は、大腿骨と脛骨の位置関係が大きく外れた状態です。
膝関節脱臼では、複数の靱帯だけでなく、膝の後方を通る血管や神経を損傷している可能性があります。
足が冷たい、皮膚の色が悪い、足の脈を触れない、しびれや麻痺がある場合には、緊急の処置が必要です。
両者は名前が似ていますが、緊急性や重症度が大きく異なります。
膝蓋骨脱臼の主な原因
方向転換・切り返し動作
足の裏が地面についている状態で、身体の向きを急に変えると、膝へねじれと外反方向の力が加わります。
膝が内側へ入り、太ももとすねの向きがずれることで、膝蓋骨が外側へ外れることがあります。
ジャンプからの着地
着地時に膝が内側へ入り込んだ場合や、片脚で不安定に着地した場合に脱臼することがあります。
バスケットボール、バレーボール、体操などでみられます。
スポーツ中の接触
膝蓋骨の内側へ直接的な衝撃を受けると、膝蓋骨が外側へ押し出されることがあります。
サッカー、ラグビー、格闘技などで起こることがあります。
転倒
足が地面に残った状態で身体をひねって転倒すると、膝蓋骨が脱臼することがあります。
交通事故
自動車や自転車の事故で膝へ強い力が加わると、膝蓋骨脱臼だけでなく、骨折、靱帯損傷、半月板損傷などを伴う可能性があります。
膝蓋骨が脱臼しやすくなる要因
大腿骨滑車形成不全
大腿骨の滑車溝が浅い、平らである、形が左右非対称であるなど、膝蓋骨を受け止める溝の形成が十分でない状態です。
滑車溝が浅いと、膝蓋骨が外側へ移動しやすくなります。
膝蓋骨高位
膝蓋骨が通常よりも高い位置にある状態です。
膝を曲げ始めた際に、膝蓋骨が滑車溝へ入るまでに時間がかかるため、不安定になりやすいことがあります。
X脚・下肢アライメントの異常
膝が内側へ入りやすい骨格では、膝蓋骨を外側へ引っ張る力が強くなることがあります。
大腿骨や脛骨のねじれ
太ももの骨やすねの骨の回旋が強い場合、膝蓋骨と滑車溝の位置関係が合いにくくなります。
膝蓋腱付着部の外側偏位
膝蓋腱が脛骨へ付着する脛骨粗面の位置が外側へ偏っていると、膝蓋骨を外側へ引っ張る力が強くなります。
関節弛緩性
全身の関節が柔らかい方では、膝蓋骨を支える靱帯も緩く、脱臼しやすいことがあります。
両側の膝に不安定性がみられる場合もあります。
筋力・動作の問題
大腿四頭筋、股関節周囲筋、体幹の筋力が不足していると、着地や方向転換時に膝を安定させにくくなります。
膝が内側へ入る動作を繰り返すと、膝蓋骨へ外側方向の力が加わります。
膝蓋骨脱臼の主な症状
膝の変形
脱臼した膝蓋骨が外側に移動し、膝の形が明らかに変わることがあります。
自分で押し戻したり、膝を強く動かしたりしないでください。
急激な痛み
受傷時に膝の前側や内側へ強い痛みが生じます。
膝蓋骨が元へ戻った後も痛みが続くことがあります。
断裂音・脱臼感
受傷時に「ゴキッ」「バキッ」という音や、膝のお皿が外れた感覚を覚えることがあります。
膝の腫れ
脱臼によって関節内や周囲組織から出血すると、短時間で膝全体が大きく腫れることがあります。
関節内血腫
関節内に血液がたまると、膝が張り、曲げ伸ばしが難しくなります。
急激な関節内血腫がある場合には、骨軟骨損傷などの合併を確認します。
膝の内側の痛み
外側脱臼では、膝蓋骨を内側から支えるMPFLなどが損傷するため、膝蓋骨内側に圧痛が生じます。
膝くずれ・不安定感
歩行、階段、方向転換などで膝ががくっとすることがあります。
膝蓋骨が再び外れそうに感じる場合もあります。
脱臼不安感
膝蓋骨を外側へ押されたときや、方向転換をするときに、脱臼しそうな強い恐怖感が現れます。
この症状は「アプリヘンション」と呼ばれます。
膝の曲げ伸ばし制限
痛み、腫れ、関節内遊離体などによって、膝を十分に曲げ伸ばしできないことがあります。
引っかかり・ロッキング
脱臼時に剥がれた骨や軟骨の破片が関節内に挟まると、膝が引っかかったり、途中から動かなくなったりすることがあります。
膝蓋骨脱臼に伴う可能性がある損傷
内側膝蓋大腿靱帯損傷
膝蓋骨が外側へ脱臼すると、MPFLが引き伸ばされたり切れたりします。
初回脱臼の多くで、程度の差はあるものの内側支持組織が損傷します。
骨軟骨骨折
脱臼時に膝蓋骨の裏側や大腿骨外側部が強くぶつかり、骨と軟骨の一部が剥がれることがあります。
剥がれた骨軟骨片が関節内に残る場合には、固定術や摘出術が必要になることがあります。
関節軟骨損傷
膝蓋骨が外れて元へ戻る際に、膝蓋骨裏面や滑車部の軟骨が傷つくことがあります。
脱臼を繰り返すと、軟骨損傷が広がる可能性があります。
関節内遊離体
剥がれた骨や軟骨が関節内を移動する状態です。
膝の引っかかり、ロッキング、腫れなどの原因になります。
半月板・靱帯損傷
受傷時に強い回旋力が加わった場合には、半月板、前十字靱帯、内側側副靱帯などを同時に損傷することがあります。
骨挫傷
膝蓋骨と大腿骨が衝突することで、骨の内部に微細な損傷や出血が生じることがあります。
骨挫傷はX線検査では分かりにくく、MRI検査で確認されます。
膝蓋骨脱臼の経過
急性期
受傷直後には、強い痛み、腫れ、可動域制限などが生じます。
膝蓋骨が脱臼したままの場合には、医療機関で整復する必要があります。
整復後も、骨軟骨骨折や靱帯損傷がないかを確認します。
修復期
痛みと腫れが落ち着いた後、装具で膝蓋骨を保護しながら、膝の曲げ伸ばしや筋力訓練を開始します。
長期間固定すると、膝が硬くなり、大腿四頭筋が低下することがあります。
一方、早い時期に無理な方向転換や深い屈伸を行うと、再脱臼する可能性があります。
回復期
膝の可動域、筋力、バランスが改善した後、ジョギング、ジャンプ、方向転換などへ段階的に進めます。
痛みがなくなっただけでなく、膝蓋骨の安定性と動作を確認することが大切です。
反復・慢性期
脱臼や亜脱臼を繰り返すと、わずかな動作でも膝蓋骨が外れるようになることがあります。
関節軟骨損傷が進み、膝蓋大腿関節症へ移行する可能性があります。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査:膝蓋骨脱臼
問診
受傷した状況、膝蓋骨が外れた方向、自然に戻ったかなどを確認します。
主に次のような点をお伺いします。
・いつ、どのように受傷したか
・方向転換や着地で受傷したか
・膝へ直接衝撃を受けたか
・膝蓋骨が外側へずれたことを確認したか
・膝蓋骨が自然に戻ったか
・自分や周囲の人が押し戻したか
・受傷時に音や脱臼感があったか
・受傷後どのくらいで膝が腫れたか
・膝を曲げ伸ばしできるか
・膝が引っかかる、動かなくなることがあるか
・膝くずれや脱臼不安感があるか
・以前にも脱臼や亜脱臼を起こしたことがあるか
・反対側の膝にも症状があるか
・家族に膝蓋骨脱臼の経験がある方がいるか
・スポーツの種目、競技レベル、復帰目標
・関節が全体的に柔らかいと指摘されたことがあるか
初回脱臼か反復性脱臼かによって、治療方針が異なることがあります。
視診・触診
膝蓋骨の位置、膝の腫れ、皮下出血、変形などを確認します。
膝蓋骨内側のMPFL付着部、膝蓋骨周囲、大腿骨外側部などを慎重に触診します。
O脚・X脚、膝蓋骨の高さ、左右差なども確認します。
身体検査
膝の曲げ伸ばし、膝蓋骨の動き、関節の安定性を評価します。
主に次の点を確認します。
・膝蓋骨が外側へ過度に動かないか
・膝蓋骨を外側へ動かした際に強い不安感がないか
・膝の曲げ伸ばしで膝蓋骨が外側へずれないか
・膝蓋骨が滑車溝へ正しく入っているか
・大腿四頭筋が低下していないか
・膝を完全に伸ばせるか
・関節液や血液がたまっていないか
・半月板や十字靱帯の損傷がないか
・股関節や足関節の動きに問題がないか
・片脚立ちやスクワットで膝が内側へ入らないか
受傷直後は痛みや腫れが強いため、無理に膝蓋骨を動かさず、経過に応じて再評価します。
X線検査
X線検査では、膝蓋骨の位置、骨折、骨格的な特徴などを確認します。
主に次の点を評価します。
・膝蓋骨が脱臼したままになっていないか
・膝蓋骨骨折の有無
・大腿骨や脛骨の骨折
・骨軟骨片の有無
・膝蓋骨の高さ
・大腿骨滑車溝の形
・膝蓋骨の傾き
・変形性関節症の有無
・骨の成長状態
正面・側面撮影に加えて、膝蓋骨と滑車溝を上方から見る軸位撮影を行うことがあります。
超音波検査
超音波検査では、膝蓋骨周囲の靱帯、腱、関節液などを確認できます。
主に次の状態を評価します。
・MPFLや内側膝蓋支帯の損傷
・靱帯周囲の血腫
・膝関節内の液体貯留
・膝蓋腱や大腿四頭筋腱の状態
・膝蓋骨周囲の軟部組織損傷
・骨表面の不整
・滑液包の腫れ
膝蓋骨を動かしながら、周囲組織の状態をリアルタイムに確認できることが特徴です。
ただし、関節軟骨、骨挫傷、関節内遊離体などの評価にはMRI検査が必要になることがあります。
MRI検査
MRI検査では、脱臼によって損傷した靱帯、関節軟骨、骨などを詳しく確認できます。
主に次の点を評価します。
・MPFL損傷
・膝蓋支帯損傷
・骨軟骨骨折
・関節内遊離体
・膝蓋骨裏面の軟骨損傷
・大腿骨滑車部の軟骨損傷
・骨挫傷
・半月板損傷
・前十字靱帯などの合併損傷
・滑車形成不全などの形態
・膝蓋骨の位置や傾き
膝蓋骨が自然に整復されていても、関節内血腫が強い場合、引っかかりがある場合、骨軟骨損傷が疑われる場合には、MRI検査が重要です。
当院にはMRI装置は設置しておりません。MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内し、そちらで撮影を受けていただきます。
CT検査
CT検査では、骨の形、膝蓋骨と滑車溝の位置関係、下肢の回旋などを詳しく評価できます。
次のような場合に検討します。
・滑車形成不全が疑われる
・膝蓋骨高位がある
・脛骨粗面の位置を詳しく確認したい
・大腿骨や脛骨のねじれを評価したい
・骨軟骨骨折の骨片を確認したい
・反復性脱臼の手術方法を検討している
CT検査が必要と判断した場合には、対応可能な提携医療機関をご案内します。
受傷直後・受診までの対応
自分で整復しない
膝蓋骨が外側へ脱臼している場合、自分で強く押し戻したり、膝を無理に伸ばしたりしないでください。
骨折や骨軟骨損傷を悪化させる可能性があります。
膝を痛みの少ない位置で支える
膝を無理に曲げ伸ばしせず、クッションやタオルなどを使用して支えます。
体重をかけない
歩行が難しい場合には、患側の脚へ無理に体重をかけないでください。
冷却する
タオルで包んだ保冷剤などを短時間当てると、痛みや腫れが軽減することがあります。
皮膚へ直接当てたり、長時間冷やし続けたりしないでください。
自然に戻っても受診する
膝蓋骨が自然に元へ戻った場合も、靱帯や関節軟骨を損傷している可能性があります。
受傷時の状況を記憶または記録し、早めに受診してください。
膝蓋骨脱臼に対する治療
治療方法は、次のような点を考慮して決定します。
・初回脱臼か反復性脱臼か
・膝蓋骨が整復されているか
・骨軟骨骨折の有無
・関節内遊離体の有無
・MPFL損傷の部位と程度
・膝蓋骨の不安定性
・滑車形成不全などの骨格的要因
・年齢と骨の成長状態
・スポーツや仕事の内容
・日常生活への影響
徒手整復
膝蓋骨が脱臼したままの場合には、痛み止めなどを使用し、筋肉の緊張を和らげたうえで膝蓋骨を元の位置へ戻します。
この処置を徒手整復と呼びます。
整復後には、X線検査などを行い、膝蓋骨の位置や骨折の有無を確認します。
保存療法
初回脱臼で、修復が必要な大きな骨軟骨骨折や関節内遊離体がなく、膝蓋骨の安定性が保たれている場合には、保存療法を行うことが多くあります。
保存療法には、装具、薬物療法、松葉杖、リハビリテーションなどがあります。
装具療法
膝蓋骨が外側へ移動しにくいように支える装具を使用します。
受傷直後には、膝の曲げ伸ばしを一定範囲に制限する装具を使用することがあります。
痛みや腫れが落ち着いた後は、膝蓋骨を安定させながら動かせる装具へ変更する場合があります。
長期間完全に固定すると、膝関節拘縮や大腿四頭筋の低下につながるため、治癒状況を確認しながら動かします。
松葉杖
歩行時の痛みが強い場合には、松葉杖を使用します。
痛みや安定性を確認しながら、部分的な荷重から通常歩行へ進めます。
薬物療法
痛みや炎症に対して、消炎鎮痛薬、アセトアミノフェン、外用薬などを使用します。
薬物療法は痛みを軽減するためのものであり、切れた靱帯や骨格的な不安定性を直接治すものではありません。
関節液・関節内血腫の穿刺
膝関節内に多量の血液や関節液がたまり、強い張りや痛みがある場合には、穿刺して液体を抜くことがあります。
関節内血腫が強い場合には、骨軟骨骨折などが隠れていないかを確認します。
注射・自費診療について
膝蓋骨脱臼の急性期では、整復、装具による保護、合併損傷の評価、リハビリテーションが治療の中心です。
ハイドロリリース、体外衝撃波治療、PRP療法などによって、外れやすい膝蓋骨の骨格や切れたMPFLが必ず元へ戻るわけではありません。
慢性期に周囲組織の滑走不良や疼痛が残っている場合には、痛みの原因を確認したうえで補助的に検討することがあります。
反復性の不安定性がある場合には、注射治療を繰り返すだけでなく、骨格や靱帯の状態を評価することが重要です。
理学療法・リハビリテーション
膝蓋骨脱臼後は、膝の腫れと痛みを管理しながら、可動域、筋力、バランス、動作を段階的に改善します。
・腫れと痛みの管理
急性期には、活動量の調整、冷却、圧迫、挙上などを行います。
膝が大きく腫れた状態で無理に運動すると、大腿四頭筋が働きにくくなります。
・関節可動域訓練
膝の状態に合わせて、少しずつ曲げ伸ばしを行います。
無理に深く曲げると膝蓋骨が不安定になる場合があるため、装具の設定や医師の指示に従います。
・大腿四頭筋の筋力訓練
膝蓋骨を安定させるため、太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛えます。
初期には膝を大きく動かさず、太ももへ力を入れる運動から開始します。
・股関節・体幹の筋力訓練
お尻や体幹の筋肉を鍛え、片脚立ちや着地時に膝が内側へ入りにくい状態を目指します。
・バランス訓練
両脚立ち、片脚立ち、重心移動などを行い、膝の位置を安定させる能力を高めます。
・スクワット動作の指導
膝とつま先の向きをそろえ、膝が内側へ入りすぎないようにします。
最初は浅い角度から開始します。
・ランニング訓練
歩行、筋力、片脚立ちが安定した後、直線での軽いジョギングから始めます。
痛みや不安定感がなければ、速度や距離を段階的に増やします。
・ジャンプ・着地訓練
両脚での小さなジャンプから始め、片脚着地、連続ジャンプへ進めます。
着地時に膝が内側へ入らないように練習します。
・方向転換訓練
直線走行が安定した後、緩やかな方向転換から始めます。
急な切り返しや接触プレーは、膝蓋骨の安定性を確認してから行います。
手術療法:膝蓋骨脱臼
次のような場合には、手術を検討します。
・大きな骨軟骨骨折がある
・関節内に修復または摘出が必要な遊離体がある
・膝蓋骨脱臼を繰り返している
・保存療法後も強い不安定性が残る
・スポーツや日常生活で脱臼不安感が強い
・滑車形成不全などの骨格的要因が強い
・膝蓋骨の軌道が大きく外れている
・関節軟骨損傷が進行している
手術が必要と判断した場合には、膝蓋大腿関節やスポーツ整形外科に対応する医療機関へご紹介します。
骨軟骨片固定術・摘出術
脱臼によって骨や軟骨が剥がれた場合には、骨片の大きさや位置によって、元の位置へ固定する手術や、遊離片を摘出する手術を行います。
内側膝蓋大腿靱帯再建術
反復性脱臼でMPFLが機能していない場合に、患者さん自身の腱などを用いてMPFLを再建する手術です。
膝蓋骨が外側へ移動しすぎることを防ぎます。
成長期の方では、骨端線を傷つけないように手術方法を慎重に選択します。
脛骨粗面移行術
膝蓋腱が付着する脛骨粗面の位置を移動させ、膝蓋骨を引っ張る方向や関節面へかかる圧力を調整する手術です。
骨の成長が終了している方で、骨格的な問題や軟骨損傷の位置などを考慮して検討します。
滑車形成術
大腿骨滑車溝が非常に浅い場合に、滑車溝の形を整える手術です。
すべての反復性脱臼に行うものではなく、重度の滑車形成不全がある場合に専門的な評価を行って検討します。
外側組織に対する手術
膝蓋骨外側の組織が強く拘縮している場合には、外側組織を調整することがあります。
外側組織を切離する手術だけで、すべての膝蓋骨不安定症を治療できるわけではありません。
骨格や内側支持組織を含めて手術方法を決定します。
スポーツ復帰:膝蓋骨脱臼
復帰は、一定期間が過ぎたことだけで決めません。
主に次の点を確認します。
・膝に痛みや腫れがない
・膝を十分に曲げ伸ばしできる
・膝蓋骨の強い不安定感がない
・脱臼不安感が改善している
・大腿四頭筋の筋力が回復している
・左右の筋力差が改善している
・片脚立ちが安定している
・片脚スクワットで膝が内側へ入らない
・ジャンプと着地を安全に行える
・方向転換で膝が抜けない
・競技練習後に痛みや腫れが増えない
・医師や理学療法士から復帰を許可されている
最初は練習量や接触動作を制限し、段階的に復帰します。
膝蓋大腿関節症について
膝蓋大腿関節症は、膝蓋骨の裏側と大腿骨滑車部の関節軟骨がすり減り、炎症や骨の変形が生じる病気です。
主に膝の前側や膝蓋骨周囲に痛みが現れます。
階段の昇り降り、椅子からの立ち上がり、しゃがみ込み、正座など、膝を曲げた状態で力を入れる動作で痛みが強くなります。
膝を曲げる角度が大きくなるほど、膝蓋骨は大腿骨へ強く押しつけられます。
そのため、深いスクワットや階段昇降などで膝蓋大腿関節へ大きな負担がかかります。
膝蓋骨脱臼や亜脱臼を繰り返した方では、膝蓋骨の軌道が乱れ、関節軟骨の一部分へ負担が集中することがあります。
また、脱臼歴がなくても、加齢、筋力低下、脚の並び、膝蓋骨の形、長年の膝への負担などによって発症します。
膝蓋大腿関節症と変形性膝関節症の違い
一般に変形性膝関節症と呼ばれる病気では、大腿骨と脛骨の間にある脛骨大腿関節の内側または外側が主に傷みます。
膝蓋大腿関節症では、膝蓋骨と大腿骨滑車部の間が主に傷みます。
両方の関節に変形がある場合もあります。
膝蓋大腿関節だけに変形が限局している場合と、膝全体の変形性関節症の一部として膝蓋大腿関節が傷んでいる場合では、手術を含む治療方法が異なります。
膝蓋大腿関節症の主な原因
加齢・長年の負担
年齢とともに関節軟骨の弾力性や修復力が低下し、長年の負担によって軟骨がすり減ります。
膝蓋骨脱臼・亜脱臼
膝蓋骨が滑車溝から外れたり、正常な軌道からずれたりすると、軟骨へ偏った負担が加わります。
脱臼時に直接軟骨を損傷することもあります。
大腿骨滑車形成不全
滑車溝が浅い場合、膝蓋骨が安定せず、接触する位置や圧力が偏ることがあります。
膝蓋骨の傾き・軌道異常
膝蓋骨が外側へ傾いている、外側へずれて動くなどの状態では、一部の軟骨に負担が集中します。
膝蓋骨骨折
膝蓋骨骨折が関節面へ及んだ場合、骨が治った後も関節面に段差が残ることがあります。
関節面が滑らかでなくなると、将来的に膝蓋大腿関節症を生じることがあります。
関節軟骨損傷
スポーツや転倒によって、膝蓋骨裏面や滑車部の軟骨が局所的に傷つくことがあります。
X脚・下肢アライメント
脚の並びや大腿骨・脛骨の回旋によって、膝蓋骨を外側へ引っ張る力が強くなることがあります。
筋力低下・筋力バランス
大腿四頭筋、股関節周囲筋、体幹筋の機能が低下すると、膝蓋骨の動きや下肢の安定性に影響します。
体重増加
体重が増えると、階段、立ち上がり、しゃがみ込みなどで膝蓋大腿関節へ加わる負担が大きくなります。
膝蓋大腿関節症の進行と経過
初期
階段、立ち上がり、長時間座った後などに、膝蓋骨周囲の違和感や軽い痛みが生じます。
動き始めると痛みが軽くなることがあります。
膝を動かしたときに、軽い音やざらつきを感じることもあります。
中期
階段昇降、しゃがみ込み、正座などで痛みが強くなります。
膝蓋骨の裏側にゴリゴリした感覚があり、膝に水がたまることもあります。
痛みによって活動量が低下し、大腿四頭筋が弱くなる場合があります。
進行期
歩行や日常生活でも痛みが続き、安静時痛や夜間痛が出ることがあります。
膝蓋骨が引っかかる、膝を伸ばす途中で動きにくいなどの症状が現れることがあります。
膝蓋骨と大腿骨の間の関節裂隙が失われ、骨棘や骨の変形が目立つようになります。
膝蓋大腿関節症の主な症状
膝前面痛
膝蓋骨の周囲や裏側に、鈍い痛みや重い痛みが出ます。
痛みの場所を指一本で示しにくく、膝蓋骨全体が痛いと感じることもあります。
階段昇降時の痛み
階段では膝蓋大腿関節へ強い圧力が加わります。
特に階段を下りる際に痛みが強くなることがあります。
立ち上がり時の痛み
椅子や床から立ち上がる際に膝蓋骨周囲が痛みます。
しゃがみ込み・正座の痛み
膝を深く曲げると、膝蓋骨が大腿骨へ強く押しつけられるため、痛みが出やすくなります。
長時間座った後の痛み
映画館、自動車、飛行機などで膝を曲げたまま長時間座っていると、膝前面が痛くなることがあります。
立ち上がって膝を伸ばしたくなる場合があります。
ゴリゴリ音・轢音
膝を曲げ伸ばししたときに、ゴリゴリ、ザラザラ、パキパキといった音や感覚が生じます。
音だけで痛みがない場合には、必ずしも治療が必要とは限りません。
引っかかり感
関節軟骨の不整や骨棘、関節内遊離体などによって、膝蓋骨が引っかかることがあります。
膝の腫れ・水がたまる
関節内に炎症が起こると、関節液が増えて膝が腫れることがあります。
膝のこわばり
長時間座った後や朝起きた際に、膝が動かしにくいことがあります。
筋力低下
痛みで膝を使わなくなると、大腿四頭筋が細くなり、立ち上がりや階段がさらに難しくなることがあります。
膝蓋大腿関節症と区別が必要な病気
膝の前側の痛みは、膝蓋大腿関節症以外でも起こります。
主に次の病気との鑑別が必要です。
・膝蓋大腿疼痛症候群
・膝蓋骨脱臼・亜脱臼
・膝蓋腱炎
・大腿四頭筋腱炎
・膝蓋下脂肪体障害
・膝蓋前滑液包炎
・内側滑膜ひだ障害
・半月板損傷
・変形性膝関節症
・離断性骨軟骨炎
・膝蓋骨骨折
・有痛性分裂膝蓋骨
・オスグッド・シュラッター病
・シンディング・ラーセン・ヨハンソン病
・関節リウマチ
・痛風・偽痛風
・感染性関節炎
・腰や股関節から生じる関連痛
膝蓋大腿疼痛症候群との違い
膝蓋大腿疼痛症候群は、膝蓋骨周囲に痛みがあるものの、必ずしも明らかな軟骨のすり減りや骨の変形を伴わない状態です。
スポーツによる使いすぎ、運動量の急な増加、筋力や動作の問題などが関係します。
膝蓋大腿関節症では、画像検査で関節裂隙の狭小化、骨棘、軟骨損傷などが確認されます。
ただし、両者を明確に分けにくい場合や、連続した病態として考えられる場合もあります。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査:膝蓋大腿関節症
問診
痛みの場所や動作、脱臼歴などを確認します。
主に次のような点をお伺いします。
・いつから膝が痛むか
・膝蓋骨の周囲や裏側が痛むか
・階段の上りと下りのどちらが痛むか
・椅子からの立ち上がりで痛むか
・正座やしゃがみ込みができるか
・長時間座った後に痛むか
・膝を動かすと音がするか
・膝に水がたまることがあるか
・膝が引っかかることがあるか
・膝蓋骨脱臼や亜脱臼の経験があるか
・膝蓋骨や膝周囲の骨折歴があるか
・スポーツや仕事で膝に負担がかかるか
・過去に膝の手術を受けたことがあるか
・日常生活で困っている動作
・治療によってできるようになりたいこと
視診・触診
膝の腫れ、膝蓋骨の位置、脚の並び、大腿四頭筋の萎縮などを確認します。
膝蓋骨周囲、関節裂隙、膝蓋腱、脂肪体などを触り、痛みの場所を確認します。
身体検査
主に次の点を評価します。
・膝の曲げ伸ばしができる範囲
・膝蓋骨の動きと傾き
・膝蓋骨が外側へずれていないか
・曲げ伸ばしで痛みや轢音が出るか
・大腿四頭筋の筋力
・股関節周囲筋の筋力
・片脚立ちの安定性
・スクワット時に膝が内側へ入らないか
・半月板や靱帯の異常がないか
・歩行時の膝蓋骨と下肢の動き
X線検査
X線検査では、膝蓋骨と大腿骨滑車部の状態を確認します。
主に次の点を評価します。
・膝蓋大腿関節の隙間
・関節裂隙の狭小化
・骨棘
・軟骨下骨の硬化
・膝蓋骨の傾き
・膝蓋骨の外側偏位
・膝蓋骨高位
・滑車形成不全
・脛骨大腿関節の変形
・膝蓋骨骨折後の変形
正面・側面撮影だけでなく、膝蓋大腿関節を上方から見る軸位撮影が重要です。
超音波検査
超音波検査では、関節液、滑膜、膝蓋腱、膝蓋骨周囲の軟部組織などを評価します。
主に次の状態を確認します。
・関節液の貯留
・滑膜炎
・膝蓋腱や大腿四頭筋腱の状態
・膝蓋下脂肪体
・滑液包の腫れ
・膝蓋支帯やMPFL周囲の状態
・骨表面の不整
関節軟骨全体や骨の内部を超音波だけで評価することはできません。
MRI検査
MRI検査では、膝蓋骨裏面や滑車部の軟骨を詳しく確認できます。
次のような場合に検討します。
・X線上の変形が軽いのに痛みが強い
・関節軟骨損傷を詳しく確認したい
・骨軟骨損傷が疑われる
・関節内遊離体が疑われる
・膝蓋骨不安定症を伴っている
・半月板や靱帯の損傷が疑われる
・手術方法を検討している
当院にはMRI装置は設置しておりません。必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。
CT検査
CT検査では、膝蓋骨と滑車溝の位置関係、骨の形、下肢の回旋などを詳しく評価します。
膝蓋骨不安定症を伴う場合や、骨切り術などの手術を検討する場合に行うことがあります。
膝蓋大腿関節症に対する治療
治療では、痛みを軽減するとともに、膝蓋大腿関節へ集中している負担を減らし、日常生活を行いやすくすることを目指します。
活動量・生活動作の調整
痛みが強い時期には、次のような動作を調整します。
・深いしゃがみ込み
・正座
・深いスクワット
・階段の反復
・坂道の下り
・低い椅子からの立ち上がり
・膝を曲げたまま長時間座る
・ジャンプや着地
・高負荷のレッグプレス
・膝を深く曲げた自転車運動
膝をまったく動かさないのではなく、症状に合わせて負荷の少ない運動を継続します。
体重管理
体重が多い方では、無理のない減量によって膝へかかる負担を軽減できる可能性があります。
薬物療法
痛みや炎症に対して、消炎鎮痛薬、アセトアミノフェン、外用薬などを使用します。
年齢、胃腸・腎臓・心臓の状態、服用中の薬などを確認して処方します。
関節液の穿刺・排液
膝に多くの水がたまり、腫れや張りが強い場合には、関節液を抜くことがあります。
必要に応じて関節液の検査を行い、感染症、痛風、偽痛風などを除外します。
ヒアルロン酸注射
膝関節内へヒアルロン酸を注射し、関節の動きを滑らかにすることや、痛み・炎症を軽減することを目指します。
効果には個人差があります。
すり減った軟骨や骨の変形を完全に元へ戻す治療ではありません。
体外衝撃波治療
膝蓋腱や大腿四頭筋腱など、膝蓋大腿関節周囲の腱付着部に慢性的な痛みがある場合には、体外衝撃波治療を検討することがあります。
膝蓋大腿関節症そのものに対する標準的な治療ではなく、すり減った関節軟骨を再生させる治療でもありません。
痛みの原因を診察と画像検査で確認したうえで適応を判断します。
体外衝撃波治療は、保険適用外の自費診療となります。
PRP療法
患者さんご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、膝関節内などへ注入する治療です。
膝関節の痛みや炎症の軽減を目的として検討することがあります。
効果には個人差があり、進行した骨の変形を元へ戻す治療ではありません。
PRP療法は保険適用外の自費診療です。
症状、年齢、変形の程度、これまでの治療内容などを確認して適応を判断します。
テーピング・装具療法
膝蓋骨の位置や動きを補助するテーピング、サポーター、装具などを使用することがあります。
一時的に痛みが軽くなる場合がありますが、装具だけで関節軟骨の損傷が治るわけではありません。
足底板
脚や足部のアライメントが膝への負担に関係している場合には、足底板やインソールを検討することがあります。
理学療法・リハビリテーション
膝蓋大腿関節症では、膝だけでなく、股関節、足関節、体幹を含めて評価します。
・関節可動域訓練
膝が伸びにくい、曲がりにくい場合には、痛みのない範囲で動きを整えます。
強い痛みを我慢して深く曲げる必要はありません。
・大腿四頭筋の筋力訓練
膝蓋骨を安定させる大腿四頭筋を鍛えます。
痛みの少ない膝の角度と負荷から開始します。
・股関節・体幹の筋力訓練
お尻や体幹の筋肉を鍛え、歩行、階段、スクワット時に膝が内側へ入りにくい状態を目指します。
・足関節可動域訓練
足首の動きを整え、しゃがみ込みや階段で膝だけに負担が集中しないようにします。
・スクワット動作の指導
股関節、膝、足関節をバランスよく使います。
痛みが出る場合には、膝を曲げる深さや回数を調整します。
・階段昇降の指導
手すりを使用する、一段ずつ昇降するなど、症状に合わせて膝への負担を減らします。
・有酸素運動
ウォーキング、水中歩行、水泳、低負荷の自転車などを症状に合わせて行います。
自転車ではサドルの高さや膝を曲げる角度を調整します。
自宅での注意点・セルフケア
膝蓋骨脱臼後に無理な方向転換をしない
痛みが軽くなっても、靱帯や筋力が十分に回復していないことがあります。
急な切り返しやジャンプを自己判断で再開しないでください。
膝を長期間動かさなさすぎない
必要以上に長く固定すると、膝の拘縮や筋力低下が起こります。
医師や理学療法士から許可された範囲で動かします。
深い屈伸を繰り返さない
膝蓋大腿関節症では、深いスクワットや正座によって症状が悪化することがあります。
膝が内側へ入る動きを避ける
立ち上がり、階段、スクワットでは、膝とつま先の向きをそろえます。
長時間膝を曲げたままにしない
定期的に膝を伸ばし、姿勢を変えます。
痛みや腫れを確認する
運動後や翌日に痛みや腫れが強くなる場合には、運動量が多すぎる可能性があります。
強く膝蓋骨を動かさない
脱臼歴がある方が、自分で膝蓋骨を外側へ強く動かすことは避けてください。
次のような症状がある場合には早めに受診してください
・膝蓋骨が外れた、または外れかけた
・膝蓋骨が自然に戻ったが痛みや腫れがある
・膝蓋骨が外れそうな不安感がある
・膝くずれを繰り返す
・膝蓋骨脱臼を繰り返している
・膝を曲げ伸ばしすると引っかかる
・膝に繰り返し水がたまる
・階段の昇り降りで膝の前側が痛む
・椅子から立ち上がると痛む
・しゃがみ込みや正座が難しい
・膝を動かすとゴリゴリ音がして痛む
・長時間座った後に膝前面が痛む
・運動量を調整しても改善しない
・仕事やスポーツへ支障が出ている
速やかな受診が必要な症状
・膝蓋骨が脱臼したまま戻らない
・膝が明らかに変形している
・強い痛みで膝を動かせない
・体重をかけて歩けない
・受傷後、短時間で膝が大きく腫れた
・膝が途中から動かない
・膝蓋骨が外れた後に強い引っかかりがある
・足がしびれる
・足首や足趾を動かしにくい
・足が冷たい
・皮膚の色が白い、青紫色になっている
・膝が赤く腫れ、発熱を伴っている
膝蓋骨が脱臼したままの場合には、自分で強く押し戻さず、膝を痛みの少ない位置で支えて速やかに医療機関を受診してください。
膝蓋骨の不安定感・膝前面の痛みでお悩みの方へ
膝蓋骨脱臼は、スポーツ中の方向転換、ジャンプからの着地、転倒、膝への直接的な衝撃などによって起こります。
膝蓋骨が自然に元へ戻った場合でも、MPFL、関節軟骨、骨などを損傷していることがあります。
特に、受傷後に膝が短時間で大きく腫れた、引っかかりがある、膝を完全に伸ばせない場合には、骨軟骨骨折や関節内遊離体が隠れている可能性があります。
また、膝蓋骨脱臼や亜脱臼を繰り返すと、膝蓋骨裏面と大腿骨滑車部の関節軟骨へ負担がかかり、膝蓋大腿関節症につながることがあります。
膝蓋大腿関節症では、階段昇降、立ち上がり、しゃがみ込み、正座、長時間座った後などに膝の前側が痛みます。
膝前面痛があるからといって、すべてが膝蓋大腿関節症とは限りません。
膝蓋大腿疼痛症候群、膝蓋腱炎、脂肪体障害、半月板損傷など、別の病気との区別が必要です。
当院では、問診、触診、身体検査、膝蓋骨の安定性評価、動作評価、X線検査、超音波検査などを行います。
超音波検査では、MPFL、膝蓋支帯、膝蓋腱、関節液、膝蓋骨周囲の軟部組織などをリアルタイムに確認します。
症状に応じて、薬物療法、装具療法、関節液の穿刺、注射療法、自費診療、リハビリテーション、スポーツ復帰指導、セルフケア指導などを行います。
MRI検査やCT検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。
骨軟骨骨折、関節内遊離体、反復性膝蓋骨脱臼、高度な膝蓋大腿関節症などにより手術が必要と判断した場合には、膝蓋大腿関節や膝関節手術に対応している医療機関へご紹介します。
膝蓋骨が外れそうで不安がある、脱臼を繰り返している、階段や立ち上がりで膝の前側が痛むなどの症状がある場合には、早めにご相談ください。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫