上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)について
上腕骨内側上顆炎は、肘の内側に付着する筋肉の腱に繰り返し負担がかかり、物を握る、手首を曲げる、腕をひねるといった動作で痛みを生じる病気です。
一般的には「ゴルフ肘」と呼ばれていますが、ゴルフをしていない方にも発症します。
パソコン作業、調理、育児、介護、工具の使用、荷物の持ち運びなど、手首や指を繰り返し使う仕事や日常動作が原因となることがあります。
肘の内側には、上腕骨内側上顆という骨の出っ張りがあります。この部分には、手首や指を曲げる筋肉、手のひらを下へ向けるように前腕をひねる筋肉などが、共通の腱となって付着しています。
これらの筋肉は「屈筋・回内筋群」と呼ばれます。
手首を曲げる、強く握る、前腕をひねるといった動作を繰り返すと、内側上顆に付着する腱へ小さな損傷が蓄積します。
病名には「炎」という字が含まれていますが、症状が長期間続いている場合には、単純な炎症だけではなく、腱の変性、腱線維の乱れ、微細損傷などが中心となっていることがあります。
治療では一時的に痛みを抑えるだけでなく、負担のかかる動作を見直し、前腕や肩周囲の筋力を段階的に回復させることが重要です。

上腕骨内側上顆炎の原因
上腕骨内側上顆炎は、手首や指を曲げる筋肉、前腕を内側へひねる筋肉を繰り返し使用し、腱の付着部へ負担が集中することで発症します。
一度の強い動作で発症する場合もありますが、多くは仕事、家事、スポーツなどによる負担が徐々に蓄積して症状が現れます。
手首や指の使いすぎ
次のような動作では、肘の内側に付着する腱へ負担がかかります。
・手首を曲げながら物を持つ
・強く握り続ける
・タオルや雑巾を絞る
・重い荷物を持ち上げる
・フライパンや鍋を片手で持つ
・ドライバーやレンチなどの工具を使う
・包丁やはさみを繰り返し使う
・子どもを抱き上げる
・手作業や製造作業を長時間続ける
・パソコンやスマートフォンを長時間操作する
特に、肘を伸ばしたまま手首を曲げたり、強く物を握ったりすると、内側上顆へ負担が集中します。
ゴルフのスイング
ゴルフでは、クラブを強く握る動作や、インパクト時の衝撃によって前腕の屈筋・回内筋群に負担がかかります。
地面を強くたたく、グリップを強く握りすぎる、手首だけでクラブを振るなどの動作によって症状が起こることがあります。
右打ちの場合は、左右どちらの肘にも発症する可能性があります。
ゴルフ以外にも、テニス、バドミントン、野球、ボウリング、重量挙げなどで発症することがあります。
投球動作
野球などの投球動作では、肘の内側に強い力が加わります。
屈筋・回内筋群の腱に負担がかかることで上腕骨内側上顆炎を生じることがありますが、投球選手の肘内側痛には、内側側副靱帯損傷、尺骨神経障害、成長期の骨・軟骨障害などが隠れている場合があります。
特に成長期の選手では、単純なゴルフ肘と判断せず、野球肘を含めた詳しい評価が必要です。
仕事による反復動作
大工、調理、美容、介護、清掃、運搬、製造業など、物を握る、ひねる、持ち上げる動作を繰り返す仕事で発症することがあります。
作業量だけでなく、道具の太さや重さ、作業台の高さ、手首の角度、休憩時間なども腱への負担に影響します。
加齢に伴う腱の変化
腱は年齢とともに弾力性や修復力が低下し、小さな負担でも傷つきやすくなることがあります。
中年以降に多くみられますが、スポーツや仕事で手や前腕を多く使う方では、若い年代にも発症します。
急激な負荷の増加
普段行っていない運動や作業を突然始めたり、仕事量やトレーニング量を急に増やしたりすると、腱が負荷に対応できず痛みが現れることがあります。
引っ越し、大掃除、庭仕事、育児、筋力トレーニングなどをきっかけとして発症する場合もあります。
肩・手首・体幹の機能低下
肩関節や肩甲骨、手首、体幹が十分に働かないと、その動きを補うために前腕へ負担が集中することがあります。
スポーツ動作では、肩や体幹、下半身から力をうまく伝えられず、肘や手首だけでスイングや投球を行っていることが症状に関係する場合があります。
上腕骨内側上顆炎の主な症状
肘の内側の痛み
代表的な症状は、肘の内側にある上腕骨内側上顆周辺の痛みです。
内側上顆を指で押すと、普段感じている痛みが再現されます。
痛みは肘の内側だけでなく、前腕の手のひら側へ広がることがあります。
初期には特定の動作をしたときだけ痛みますが、症状が強くなると、作業後にも痛みが残るようになります。
物を握ったときの痛み
ゴルフクラブ、ラケット、工具、包丁などを強く握ったときに、肘の内側が痛みます。
ペットボトルのふたを開ける、買い物袋を持つ、ドアノブを回すといった日常動作でも症状が現れることがあります。
手首を曲げたときの痛み
手首を手のひら側へ曲げる動作や、その方向へ抵抗を加えた際に肘の内側が痛みます。
物を持った状態で手首が曲がると、腱への負担が大きくなります。
前腕をひねったときの痛み
手のひらを下へ向けるように前腕をひねる動作で、肘の内側が痛むことがあります。
ドライバーを回す、ドアノブを操作する、ゴルフクラブやラケットを振るなどの動作で症状が出る場合があります。
投球・スイング時の痛み
ゴルフスイングのインパクト前後や、野球の投球動作で肘内側が痛むことがあります。
投球時に強く痛む場合には、内側上顆炎だけでなく、内側側副靱帯損傷や尺骨神経障害なども確認する必要があります。
握力の低下
痛みによって十分に力を入れられず、握力が低下したように感じることがあります。
物を落としそうになる、重い物を持てない、スポーツでグリップが安定しないといった支障が現れることがあります。
安静時痛・夜間痛
軽度の場合は、肘を使わなければ痛みがないことが多くあります。
症状が強い場合や長期化している場合には、安静時にも肘がうずく、夜間に痛むといった症状が現れることがあります。
安静時や夜間の強い痛み、腫れ、熱感などがある場合には、関節炎や感染症など、ほかの病気も確認します。
小指・環指のしびれ
上腕骨内側上顆の後方には、尺骨神経が通っています。
内側上顆周辺の炎症や筋肉の緊張に伴って尺骨神経が刺激されると、小指と環指の一部にしびれやピリピリした感覚が現れることがあります。
ただし、明らかなしびれ、感覚低下、手の筋力低下がある場合には、肘部管症候群などの神経障害を合併している可能性があります。
上腕骨内側上顆炎の経過
上腕骨内側上顆炎は、腱にかかる負担を調整し、適切な治療を行うことで徐々に改善することが多い病気です。
ただし、腱は筋肉よりも血流が少なく、症状の改善には数週間から数か月かかることがあります。
痛みを我慢して同じ作業やスポーツを続けると、腱の微細損傷が繰り返され、症状が慢性化する場合があります。
一方、長期間まったく腕を使用しない状態が続くと、筋力や腱が負荷に耐える能力が低下し、活動を再開した際に痛みを繰り返すことがあります。
治療では、痛みを悪化させる負荷を一時的に減らしながら、症状に応じて筋力や柔軟性を回復させ、段階的に仕事やスポーツへ戻ることが大切です。
上腕骨外側上顆炎との違い
上腕骨外側上顆炎は「テニス肘」と呼ばれ、肘の外側に痛みが現れます。
手首や指を反らす筋肉の腱が障害され、物を手のひらを下にして持ち上げる動作などで痛みが出ます。
上腕骨内側上顆炎は「ゴルフ肘」と呼ばれ、肘の内側に痛みが現れます。
手首や指を曲げる筋肉、前腕をひねる筋肉の腱が障害され、強く握る、手首を曲げる、前腕を回内する動作などで痛みが出ます。
痛む側や負担がかかる筋肉は異なりますが、どちらも使いすぎによる腱の変性や微細損傷が関係します。
他の病気との違い
肘の内側の痛みは、上腕骨内側上顆炎以外の病気でも起こります。
肘部管症候群との違い
肘部管症候群は、肘の内側を通る尺骨神経が圧迫・牽引される病気です。
小指と環指の一部にしびれが現れ、進行すると手指を開く、閉じるといった動作がしにくくなることがあります。
上腕骨内側上顆炎では、肘内側の動作時痛が中心です。
両方を同時に発症する場合もあるため、しびれや筋力低下がある場合には神経の評価を行います。
肘内側側副靱帯損傷との違い
内側側副靱帯は、投球などで肘が外側へ開こうとする力に抵抗し、肘の内側を安定させる靱帯です。
損傷すると投球時の肘内側痛、球速の低下、肘の不安定感などが現れます。
上腕骨内側上顆炎でも投球時に痛みが出ることがありますが、圧痛の位置やストレステスト、超音波検査、MRI検査などから鑑別します。
野球肘との違い
野球肘は、投球動作によって起こる肘の障害の総称です。
成長期では、内側上顆の成長軟骨や骨、外側の軟骨などが損傷する場合があります。
小児・成長期の選手が投球時の肘痛を訴えている場合には、成人の上腕骨内側上顆炎と同じものとして扱わず、X線検査や超音波検査などで成長軟骨の状態を確認します。
変形性肘関節症との違い
変形性肘関節症では、肘の曲げ伸ばしに伴う関節内の痛み、可動域制限、引っかかりなどが現れます。
上腕骨内側上顆炎では、肘の曲げ伸ばしそのものより、手首を曲げる、握る、ひねる動作で痛みが出る傾向があります。
頸椎疾患との違い
頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症性神経根症でも、肩から腕、肘、手にかけて痛みやしびれが現れることがあります。
首を動かすと症状が変化する、肘以外にも広く痛む、手指に感覚異常がある場合には、頸椎由来の症状も確認します。
骨折との違い
転倒や衝突後から急に肘が痛くなった場合には、上腕骨内側上顆骨折などが隠れている可能性があります。
強い腫れ、皮下出血、変形、肘を動かせないといった症状がある場合には、上腕骨内側上顆炎と自己判断せず、早めに受診してください。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査
問診・触診
肘のどの部分が痛むか、いつから症状があるか、どのような動作で痛みが強くなるかを確認します。
次のような点について詳しくお伺いします。
・物を握ると痛むか
・手首を曲げると痛むか
・前腕をひねると痛むか
・ゴルフや投球時に痛むか
・仕事や家事で工具、包丁などを使用するか
・急に作業量や運動量を増やしていないか
・小指や環指にしびれがあるか
・手に力が入りにくくないか
・転倒や外傷があったか
・安静時や夜間にも痛むか
・これまでに受けた注射や治療
上腕骨内側上顆、屈筋・回内筋群、尺骨神経周辺を触診し、圧痛、腫れ、熱感、筋肉の緊張などを確認します。
身体検査
肘、前腕、手首、手指の動く範囲と筋力を確認します。
手首を曲げる動作や、手のひらを下へ向ける回内動作に抵抗を加え、肘の内側に痛みが再現されるかを評価します。
肘を伸ばし、手首や指を反らす方向へゆっくり動かして、屈筋・回内筋群を伸ばした際に痛みが出るかを確認することもあります。
また、強く握る、物を持ち上げるなどの動作で症状が再現されるかを調べます。
投球選手では、内側側副靱帯へ負荷を加える検査を行い、不安定感や痛みがないかを確認します。
一つの徒手検査だけで診断するのではなく、痛みの位置、外傷歴、複数の検査所見を組み合わせて判断します。
神経学的検査
小指や環指にしびれがある場合には、尺骨神経の状態を確認します。
肘の内側にある尺骨神経を軽くたたき、指先にしびれが響くかを調べることがあります。
小指・環指の感覚、指を開閉する筋力、つまむ力、手の筋肉の萎縮なども確認します。
肘を曲げた際に尺骨神経が内側上顆を乗り越えてずれることがないかを確認する場合もあります。
X線検査
上腕骨内側上顆炎では、X線検査で明らかな異常がみられないことも多くあります。
X線検査では、次のような病気がないかを確認します。
・骨折
・変形性肘関節症
・関節内遊離体
・石灰沈着
・骨棘
・成長軟骨や骨端の障害
・そのほかの骨の異常
症状が長期間続いている場合には、腱の付着部に石灰化や骨の変化がみられることがあります。
成長期の投球選手では、内側上顆の成長軟骨や骨の状態を確認するため、反対側と比較して撮影することがあります。
超音波検査
超音波検査では、内側上顆に付着する屈筋・回内筋腱の状態を確認できます。
次のような変化を評価します。
・腱の腫れや肥厚
・腱線維の乱れ
・腱の変性
・部分的な断裂
・石灰沈着
・腱周囲の血流変化
・内側側副靱帯の損傷
・尺骨神経の腫れや位置
・肘関節内の液体貯留
診察室で肘や手首を動かしながら、腱、靱帯、尺骨神経などをリアルタイムに確認できる点が特徴です。
必要に応じて反対側と比較します。
注射治療やPRP療法などを行う場合には、超音波で腱、神経、血管、針先を確認しながら行います。
ただし、超音波検査で腱の変化がみられても、それだけで症状の原因と断定することはできません。問診や身体検査の結果と合わせて判断します。
MRI検査
MRI検査では、屈筋・回内筋腱の変性や部分断裂、内側側副靱帯、関節軟骨などを詳しく確認できます。
次のような場合にMRI検査を検討します。
・保存療法を行っても痛みが改善しない
・腱の大きな損傷が疑われる
・内側側副靱帯損傷が疑われる
・投球時の痛みや不安定感が強い
・関節内病変との鑑別が必要である
・手術治療を検討している
・症状と診察所見が一致しない
すべての上腕骨内側上顆炎でMRI検査が必要となるわけではありません。
当院にはMRI装置は設置しておりません。MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内し、そちらで撮影を受けていただきます。
上腕骨内側上顆炎に対する治療
上腕骨内側上顆炎では、多くの場合、手術を行わない保存療法から治療を始めます。
治療では、痛みを抑えるだけでなく、腱にかかる負担を調整し、前腕の筋肉と腱が仕事やスポーツの負荷に耐えられる状態へ回復させることを目指します。
肘部管症候群や内側側副靱帯損傷などを伴っている場合には、それぞれの病気に合わせた治療が必要です。
高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックにおいては下記の治療を提案しています。
活動量・作業動作の調整
痛みを引き起こす動作を一時的に減らします。
日常生活で腕をまったく使用しないようにする必要はありませんが、痛みを強くする負荷を繰り返さないことが大切です。
次のような工夫によって、腱への負担を軽減できます。
・重い物を片手だけで持たない
・荷物を身体の近くで持つ
・肘を軽く曲げ、両手で持つ
・強く握り続ける作業を減らす
・手首を曲げたまま物を持たない
・太く握りやすい道具を使用する
・作業の途中で休憩を取る
・痛みを我慢してスイングや投球を続けない
・運動量や作業量を急に増やさない
仕事を完全に休むことが難しい場合には、道具、作業時間、手首の角度、持ち方などを調整します。
薬物療法
痛みに対して、消炎鎮痛薬や外用薬などを使用します。
薬物療法は痛みを軽減し、日常生活やリハビリテーションを行いやすくするための治療です。
慢性例では腱の変性が中心となっている場合があり、薬だけで腱の状態が元へ戻るわけではありません。
薬の効果や副作用、胃腸や腎臓の状態、ほかに服用している薬などを確認しながら処方します。
装具療法
前腕バンドを使用し、屈筋・回内筋群が収縮した際に内側上顆へ伝わる力を軽減することがあります。
手首を曲げる動作で強く痛む場合には、手首を軽く固定する装具を使用することもあります。
装具の位置や締め方が適切でないと、効果が得られにくいだけでなく、肘の内側にある尺骨神経や血流を圧迫する可能性があります。
しびれが出るほど強く締めないようにし、医師や理学療法士の指導を受けて使用してください。
ステロイド注射
痛みが強く、仕事や日常生活に大きな支障がある場合には、内側上顆周囲へのステロイド注射を検討することがあります。
短期的な痛みの軽減が期待できますが、変性した腱を修復する治療ではありません。
内側上顆のすぐ後方には尺骨神経が通っているため、注射を行う際には神経の位置に十分注意する必要があります。
必要に応じて、超音波で腱、尺骨神経、血管、針先を確認しながら行います。
ステロイド注射を繰り返すと、腱や皮下組織を傷める可能性があります。腱の部分断裂が疑われる場合や、将来的に手術を検討する可能性がある場合には、必要性や回数を慎重に判断します。
痛みが軽くなった直後に強い作業やスポーツへ戻ると、腱への負担が再び増えることがあります。注射後も負荷調整とリハビリテーションが必要です。
体外衝撃波治療
保存療法を行っても肘内側の痛みが長期間続いている場合には、体外衝撃波治療を検討することがあります。
体外から腱の付着部へ衝撃波を照射し、慢性的な痛みの軽減や組織の修復反応を促すことを目的とした治療です。
治療中や治療後に、一時的な痛み、赤み、皮下出血などが現れる場合があります。
内側上顆の周囲には尺骨神経があるため、照射部位を慎重に判断する必要があります。
すべての上腕骨内側上顆炎に同じ効果が得られるわけではなく、治療効果には個人差があります。
当院では、診察や超音波検査によって腱と神経の状態を確認し、これまでの治療経過などを踏まえて適応を判断します。
体外衝撃波治療は、上腕骨内側上顆炎に対して保険適用外の自費診療となります。
体外衝撃波治療について詳しくはコチラ
PRP療法
PRP療法は、患者さまご自身の血液から血小板を多く含む成分を抽出し、傷んだ腱の周囲へ注射する治療です。
血小板に含まれる成長因子などを利用し、腱の修復環境を整えることを目的とします。
慢性の上腕骨内側上顆炎に対して選択肢となることがありますが、治療効果に関する医学的根拠は十分に確立されておらず、すべての方に一律に推奨される治療ではありません。
PRPの調製方法、腱の状態、症状の期間などによって結果が異なる可能性があります。
注射後には一時的に痛みが強くなることがあり、効果が現れるまでに時間を要する場合があります。
当院では、症状、超音波所見、これまでの治療、仕事やスポーツへの影響などを確認し、期待できる効果や限界をご説明したうえで適応を判断します。
PRP療法は保険適用外の自費診療です。
PRP療法について詳しくはコチラ
理学療法・リハビリテーション
上腕骨内側上顆炎の治療では、前腕の柔軟性と筋力を整え、腱が日常生活やスポーツの負荷に耐えられる状態を目指します。
当院では、理学療法士が肘だけでなく、手首、肩関節、肩甲骨、体幹、実際の作業やスポーツ動作を評価し、一人ひとりに合わせたリハビリテーションを行います。
痛みを悪化させる動作の確認
物の持ち方、手首の角度、握る強さ、工具の使用方法、スイングや投球動作などを確認します。
肘や手首だけで力を出している場合には、肩甲骨や体幹を使えるように動作を調整します。
前腕屈筋・回内筋群のストレッチ
肘を伸ばし、手首や指をゆっくり反らすことで、前腕の手のひら側にある筋肉を伸ばします。
強く引っ張ったり、反動をつけたりする必要はありません。
肘内側の痛みや小指側のしびれが強くなる場合には、方法や角度を調整します。
等尺性運動
痛みが強い時期には、手首を大きく動かさず、軽く力を入れる運動から始めることがあります。
手首を曲げる方向へ軽い抵抗を加え、痛みが強くならない範囲で一定時間力を入れます。
筋力トレーニング
症状が落ち着いてきたら、手首を曲げる筋肉や前腕をひねる筋肉に対して、軽い重りやチューブを使用した運動を行います。
手首をゆっくり下ろす遠心性運動などを、状態に合わせて取り入れることがあります。
運動中の軽い違和感が許容される場合もありますが、運動後や翌日に強い痛みが残る場合には負荷が大きすぎる可能性があります。
握力トレーニング
痛みが落ち着いてきた段階で、柔らかいボールなどを軽く握る運動を行います。
最初から強く握り込まず、仕事やスポーツに必要な握力へ段階的に戻します。
肩・肩甲骨・体幹のトレーニング
ゴルフや投球競技では、下半身や体幹、肩甲骨から伝わる力を腕へ効率よく伝えることが重要です。
肩甲骨や体幹が十分に働かないと、手首や肘に負担が集中します。
競技や仕事の内容に応じて、腱板、肩甲骨周囲、体幹などの筋力と動きを整えます。
スポーツ・仕事への復帰支援
ゴルフでは、グリップの太さ、握る強さ、スイングフォーム、練習量などを確認します。
投球競技では、肘だけでなく肩、体幹、股関節、下肢を含めてフォームを評価します。
仕事では、道具の重量、柄の太さ、作業時間、手首の位置などを調整します。
痛みが軽くなった直後に以前と同じ量へ戻さず、時間、回数、重量、競技強度を少しずつ増やします。
手術治療・専門医療機関への紹介
上腕骨内側上顆炎の多くは、保存療法によって改善を目指します。
次のような場合には、MRI検査や肘関節・上肢専門医による評価を行い、手術治療を検討することがあります。
・十分な期間、保存療法を行っても強い痛みが続く
・仕事や日常生活に大きな支障がある
・スポーツへの復帰が困難である
・腱の大きな変性や断裂が疑われる
・肘部管症候群を合併している
・内側側副靱帯損傷など別の病気が疑われる
・注射やリハビリテーションを行っても改善しない
手術では、変性した腱組織を切除し、必要に応じて健康な腱を骨へ修復します。
尺骨神経の圧迫や不安定性を伴う場合には、尺骨神経に対する処置を同時に行うことがあります。
手術方法は、腱、神経、靱帯の状態などによって異なります。
手術を含めた専門的な治療が必要と判断した場合には、肘関節や上肢を専門とする医療機関へご紹介します。
手術後のリハビリテーション
手術後は、処置した腱を保護するため、一時的に装具やシーネを使用することがあります。
手術を行った医療機関の指示に従い、肘、前腕、手首の可動域訓練、筋力トレーニングへ段階的に進みます。腱が十分に回復する前に、重い物を持つ、工具を強く握る、ゴルフや投球を再開すると、修復部へ負担がかかります。
仕事やスポーツへの復帰時期は、痛み、可動域、筋力、実際の動作などを確認して判断します。
自宅でのセルフケア
肘が痛む間は、痛みを引き起こす動作を我慢して繰り返さないことが大切です。
日常生活では、次のような工夫を行いましょう。
・重い物は両手で持つ
・荷物を身体の近くで持つ
・手首を曲げた状態で持ち上げない
・強く握り続ける作業を減らす
・工具や包丁の柄を握り込みすぎない
・同じ作業を長時間続けない
・ゴルフや投球の回数を一時的に減らす
・作業や運動の前に前腕を軽く動かす
・痛みが強くなる負荷を避ける
運動や作業後に熱感や痛みが強い場合には、タオルで包んだ保冷剤などを短時間当てると、症状が軽くなることがあります。
皮膚へ直接当てたり、長時間冷やし続けたりしないよう注意してください。
前腕バンドを使用する場合は、内側上顆の骨の出っ張りの上ではなく、少し手側の筋肉部分へ装着します。
肘の内側には尺骨神経があるため、しびれが出るほど強く締めないでください。
痛みを我慢して強いストレッチを行ったり、重いダンベルで手首を鍛えたりすると、症状が悪化することがあります。
医師や理学療法士の指導を受け、現在の状態に合った運動を行うことをおすすめします。
上腕骨内側上顆炎でお悩みの方へ
肘の内側の痛みは、上腕骨内側上顆炎だけでなく、肘部管症候群、内側側副靱帯損傷、野球肘、骨折、変形性肘関節症、頸椎疾患などによっても起こります。
次のような症状がある場合は、早めにご相談ください。
・物を握ると肘の内側が痛む
・手首を曲げると痛む
・前腕をひねると痛む
・ゴルフのスイングで肘が痛む
・投球時に肘の内側が痛む
・工具や包丁の使用で痛みが強くなる
・握力が低下している
・痛みが数週間以上続いている
・仕事や家事に支障が出ている
・スポーツへ復帰できない
また、次のような症状がある場合には、神経、靱帯、骨などの病気が隠れている可能性があります。
・小指や環指にしびれがある
・指を開閉しにくい
・つまむ力が低下している
・手の筋肉が痩せてきた
・投球時に鋭い痛みや不安定感がある
・転倒や事故後から強く痛む
・肘が大きく腫れている
・肘をほとんど動かせない
・夜間や安静時にも強く痛む
・肘が赤く熱を持っている
・発熱や悪寒を伴っている
成長期の野球選手や投球選手が肘内側の痛みを訴えている場合には、成長軟骨や骨、靱帯の障害を早期に確認する必要があります。痛みを我慢して投球を続けず、早めに受診してください。
転倒後の強い痛みや変形、手が冷たい・白い、指を動かせないといった症状がある場合には、骨折や神経・血管損傷の可能性があります。速やかに医療機関を受診してください。
当院では、問診、身体検査、神経学的検査、X線検査、超音波検査などによって、屈筋・回内筋腱、尺骨神経、内側側副靱帯などの状態を評価します。
MRI検査、神経伝導検査、手術を含めた専門的な治療が必要な場合には、提携医療機関や肘関節・上肢を専門とする医療機関と連携して対応します。
薬物療法、装具療法、注射治療、体外衝撃波治療、PRP療法、リハビリテーション、セルフケア指導まで含め、症状や生活状況に合わせた治療をご提案します。
監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫