橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折について

橈骨遠位端骨折は、前腕にある2本の骨のうち、親指側を通る「橈骨」が手首に近い部分で折れる骨折です。
転倒して手のひらを地面についたときに起こることが多く、一般に「手首の骨折」と呼ばれる代表的な外傷です。
特に、骨粗鬆症によって骨が弱くなっている閉経後の女性や高齢者では、立った高さからの軽い転倒でも骨折することがあります。
若い方では、自転車・オートバイでの転倒、スポーツ、高所からの転落、交通事故など、比較的強い力が加わった際に発症します。
骨折すると、手首に強い痛みや腫れが現れ、骨片のずれが大きい場合には手首が変形します。
骨折線が手関節内へ及ぶ場合や、骨が複数の骨片に分かれる場合、周囲の靱帯・神経・腱を損傷している場合もあります。
治療方法は、骨片のずれ、関節面の状態、骨折の安定性、年齢、生活状況などによって異なります。
骨片のずれが少なく安定している場合には、ギプスや装具による保存療法を行います。
ずれが大きい場合、整復しても再びずれる場合、関節面に段差が残る場合などには、プレートやスクリューを用いた手術が必要になることがあります。

橈骨遠位端の構造

前腕には、橈骨と尺骨という2本の骨があります。
橈骨は親指側、尺骨は小指側に位置しています。
橈骨の手首に近い部分を「橈骨遠位端」と呼びます。
橈骨遠位端は手根骨と接し、手首の関節面の大部分を構成しています。
橈骨遠位端には、手首を曲げ伸ばしする力だけでなく、手をついたときの衝撃や、物を持ったときの荷重が加わります。
また、橈骨と尺骨の手首側には「遠位橈尺関節」があります。
この関節は、手のひらを上へ向ける回外運動や、下へ向ける回内運動に関係します。
橈骨遠位端骨折によって骨の形や位置関係が変わると、手首の曲げ伸ばしだけでなく、前腕を回す動きにも影響することがあります。

橈骨遠位端骨折の主な種類

橈骨遠位端骨折は、骨片がずれる方向、関節面への広がり、骨片の数などによって分類されます。

コレス骨折

転倒して手のひらをついた際に起こりやすい骨折です。
手首側の骨片が手の甲側へずれます。
横から見ると、手首が食器のフォークを伏せたような形に変形することがあり、「フォーク状変形」と呼ばれます。
中高年以降の方に多い代表的な橈骨遠位端骨折です。

スミス骨折

手首を曲げた状態で手の甲側をついた場合や、手首の手の甲側へ強い力が加わった場合などに起こります。
手首側の骨片が手のひら側へずれます。
コレス骨折とは骨片がずれる方向が反対です。
手のひら側には正中神経や屈筋腱などがあるため、骨片のずれによる圧迫にも注意が必要です。

バートン骨折

骨折線が手首の関節面へ及び、橈骨の関節面の一部と手根骨が一緒にずれる骨折です。
手の甲側へずれる背側バートン骨折と、手のひら側へずれる掌側バートン骨折があります。
関節面のずれや手関節の不安定性を伴いやすく、手術が必要となることがあります。

関節外骨折

骨折線が手首の関節面まで及んでいない骨折です。
骨片のずれが少なく安定している場合には、保存療法で治療できることがあります。

関節内骨折

骨折線が手首の関節面まで及んでいる骨折です。
関節面に段差や隙間が残ると、手首の動かしにくさや、将来的な変形性手関節症につながる可能性があります。
関節面をできるだけ正確に戻すことが重要です。

粉砕骨折

骨が複数の細かい骨片に分かれた状態です。
骨粗鬆症がある場合や、交通事故・高所からの転落などで強い外力が加わった場合にみられます。
整復しても骨片が再びずれやすく、手術が必要となることがあります。

開放骨折

折れた骨が皮膚を突き破った場合や、皮膚の傷が骨折部までつながっている状態です。
感染の危険性が高いため、緊急の洗浄、抗菌薬投与、手術などが必要です。
傷が小さく見えても、骨折部まで達していることがあります。

橈骨遠位端骨折の原因

転倒して手をついた

最も多い受傷原因です。
つまずいた際などに、とっさに手のひらを地面へつくと、手首から橈骨へ強い力が伝わります。
骨粗鬆症がある方では、軽い転倒でも骨折することがあります。

自転車・オートバイでの転倒

走行中に転倒して手をつくと、立った状態での転倒よりも強い力が手首へ加わることがあります。
骨折が複数の骨片に分かれたり、関節面へ及んだりする場合があります。

スポーツ外傷

スキー、スノーボード、スケートボード、サッカー、ラグビー、柔道など、転倒や衝突を伴うスポーツで起こります。
若い方では、強い外力による関節内骨折や靱帯損傷を合併することがあります。

高所からの転落・交通事故

高所から転落した場合や交通事故では、手首へ非常に強い力が加わります。
橈骨遠位端骨折だけでなく、尺骨、手根骨、肘、肩などの骨折や、靱帯・神経・血管損傷を伴う可能性があります。

骨粗鬆症

骨粗鬆症では骨の強度が低下しているため、通常であれば骨折しないような軽い転倒でも橈骨遠位端骨折を起こします。
橈骨遠位端骨折をきっかけに、初めて骨粗鬆症が見つかる方もいます。
骨折部の治療だけでなく、将来の背骨や大腿骨近位部などの骨折を防ぐための評価と治療が重要です。

小児の橈骨遠位端骨折

子どもでは、骨そのものだけでなく、骨の成長に関係する「成長軟骨板」に骨折が起こることがあります。
また、骨が完全には折れずに曲がる若木骨折や、骨の一部がつぶれる隆起骨折がみられることがあります。
子どもの骨には成長に伴って形を修正する力がありますが、すべての変形を放置できるわけではありません。
成長軟骨板へ及ぶ骨折では、まれに骨の成長に影響することがあります。
骨折の位置、ずれ、年齢などに応じて、整復、固定、定期的なX線検査を行います。

主な症状

手首の強い痛み

受傷直後から手首に強い痛みが現れます。
手を動かす、指を動かす、手首をひねると痛みが強くなることがあります。
骨片のずれが少ない場合には、比較的軽い痛みで手首の捻挫と思われることもあります。

手首の腫れ

骨折部から出血し、短時間のうちに手首や手の甲が腫れてきます。
時間が経過すると、腫れが指や前腕まで広がる場合があります。
指輪や腕時計が外れなくなることがあるため、可能であれば早めに外してください。

皮下出血

手首から手のひら、手の甲、前腕にかけて紫色の皮下出血が現れることがあります。
受傷直後には目立たず、数日かけて広がる場合もあります。

手首の変形

骨片のずれが大きい場合には、手首が曲がったり、段差ができたりします。
コレス骨折では、手首がフォークを伏せたような形に見えることがあります。
変形した手首を自分で引っ張ったり、元の形へ戻そうとしたりしないでください。

手に力が入らない

痛みや骨折による不安定性のため、手を持ち上げられず、反対側の手で支えなければならないことがあります。
物を握ることも難しくなります。

指のしびれ

骨片や強い腫れによって、手根管内を通る正中神経が圧迫されることがあります。
親指、示指、中指、環指の親指側にしびれや感覚低下が現れます。
しびれが急速に強くなる場合や、親指・指を動かしにくい場合には、急性手根管症候群の可能性があります。

指が動かしにくい

腫れや痛みによって指を動かしにくくなります。
腱や神経の損傷を伴っている場合にも、指が動かせなくなることがあります。

手首を回せない

手のひらを上へ向ける、下へ向ける動作で痛みが現れます。
遠位橈尺関節や尺骨茎状突起、三角線維軟骨複合体などの損傷を伴うと、骨折後も前腕の回旋制限や小指側の痛みが残ることがあります。

合併する可能性がある損傷

尺骨茎状突起骨折

橈骨遠位端骨折と同時に、尺骨の手首側にある尺骨茎状突起が折れることがあります。
骨片の位置や遠位橈尺関節の安定性によって、治療の必要性を判断します。

三角線維軟骨複合体損傷

手首の小指側には、橈骨と尺骨、手根骨を安定させる三角線維軟骨複合体があります。
骨折時に損傷すると、骨が治った後も手首の小指側の痛みや不安定感が残ることがあります。

遠位橈尺関節損傷

橈骨と尺骨の手首側の関節が不安定になると、手のひらを上・下へ返す動きに支障が出ます。

手根骨・靱帯損傷

強い外力による骨折では、舟状骨骨折、月状骨周囲脱臼、舟状月状骨間靱帯損傷などを伴うことがあります。

正中神経障害

骨片のずれや腫れによって正中神経が圧迫されると、親指から環指にかけてしびれや感覚低下が現れます。
症状が急速に進行する場合には、緊急の整復や手根管開放術が必要になることがあります。

腱損傷

骨折した骨の角や手術で使用したプレートなどが腱へ刺激を与え、腱が傷つくことがあります。
骨折後しばらく経過してから、親指を伸ばせなくなる場合には、長母指伸筋腱断裂などを確認します。

高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査

問診

受傷時の状況、症状、基礎疾患などを確認します。
主に次のような点をお伺いします。
・転倒して手のひらをついたか
・手の甲側をついたか
・交通事故や高所からの転落があったか
・受傷した時刻
・痛みや腫れがどのように変化しているか
・指にしびれや感覚低下があるか
・指を動かせるか
・手首以外に肘や肩も痛くないか
・傷や出血がないか
・骨粗鬆症を指摘されたことがあるか
・過去にも骨折したことがあるか
・糖尿病、関節リウマチなどがあるか
・抗凝固薬やステロイド薬を使用しているか
・喫煙習慣があるか

視診・触診

手首の腫れ、皮下出血、変形、傷などを確認します。
傷がある場合には、開放骨折の可能性を考えます。
橈骨遠位端、尺骨、舟状骨、手根骨などを慎重に触診し、痛みの場所を確認します。
明らかな骨折が疑われる場合には、無理に手首を動かしたり、強く押したりしません。

神経・血流の確認

骨折の診察では、手や指の神経と血流を確認することが重要です。
次のような点を評価します。
・親指から小指までの感覚
・親指や指を曲げ伸ばしできるか
・指先の色
・手の温度
・手首の脈拍
・爪を押した後に色が戻るまでの時間
固定前だけでなく、整復・固定後にも神経と血流を確認します。

X線検査

X線検査は、橈骨遠位端骨折の診断において中心となる検査です。
正面、側面など複数の方向から撮影し、次の点を確認します。
・骨折線の位置
・骨片がずれている方向
・骨片の傾き
・橈骨の長さ
・関節面への広がり
・関節面の段差や隙間
・粉砕の程度
・尺骨茎状突起骨折
・手関節や遠位橈尺関節の位置関係
・そのほかの骨折や脱臼
整復後には再度X線検査を行い、骨片が適切な位置へ戻っているかを確認します。
保存療法中も、骨片が再びずれていないかを確認するため、定期的にX線撮影を行います。

CT検査

CT検査では、骨折の形や関節面の状態をX線より詳しく確認できます。
次のような場合に検討します。
・骨折線が関節面へ及んでいる
・関節面の骨片が複数に分かれている
・X線だけでは骨片の位置を判断しにくい
・手根骨損傷を伴っている可能性がある
・手術方法を検討している
・整復後も関節面の状態が分かりにくい
三次元CTを用いて、骨片の位置や形を確認する場合もあります。
CT検査が必要と判断した場合には、対応可能な提携医療機関をご案内します。

超音波検査

超音波検査では、骨の表面、腱、神経、血管などを観察できます。
次のような状態の評価に役立つ場合があります。
・骨表面の段差
・関節内や腱周囲の液体貯留
・正中神経の腫れ
・手根管内の状態
・指を動かす腱の連続性
・皮下の血腫
・骨折後に生じた腱鞘炎
・プレート周囲の腱への刺激
ただし、骨折の全体像や関節面のずれを評価する中心的な検査はX線とCTです。
超音波検査だけで橈骨遠位端骨折を完全に評価することはできません。

MRI検査

急性の橈骨遠位端骨折では、通常はX線と必要に応じたCTを中心に評価します。
MRI検査は、次のような場合に検討します。
・痛みが続いているがX線で骨折が明らかでない
・舟状骨などの不顕性骨折が疑われる
・手根骨や靱帯の損傷が疑われる
・三角線維軟骨複合体損傷が疑われる
・腱・神経などの軟部組織を詳しく確認したい
・骨折後も原因不明の痛みが続いている
当院にはMRI装置は設置しておりません。
MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。

骨粗鬆症の検査

軽い転倒で橈骨遠位端骨折を起こした中高年以降の方では、骨粗鬆症の評価が重要です。
必要に応じて、次のような検査を検討します。
・骨密度検査
・背骨のX線検査
・カルシウムやビタミンDなどの血液検査
・骨代謝に関する血液検査
・過去の骨折歴や転倒歴の確認
検査や治療が必要な場合には、対応可能な医療機関と連携します。

受傷後・受診までの対応

手首を動かさない

変形した手首を自分で引っ張ったり、元へ戻そうとしたりしないでください。
板、厚紙、雑誌、タオルなどを利用し、痛みの少ない位置で手首を固定します。

腕を高くする

手を心臓より高い位置に保つと、腫れの軽減につながります。
横になる場合には、枕やクッションの上へ腕を置きます。

冷却する

タオルで包んだ保冷剤などを短時間当てると、痛みや腫れが軽くなることがあります。
皮膚へ直接当てたり、長時間冷やし続けたりしないでください。

指輪・腕時計を外す

受傷後は手や指の腫れが強くなることがあります。
可能であれば、早めに指輪、腕時計、ブレスレットなどを外します。
無理に引っ張らなければ外せない場合には、そのまま医療機関を受診してください。

傷を清潔な布で覆う

傷や出血がある場合には、清潔なガーゼや布で軽く覆います。
飛び出している骨を押し戻したり、傷の奥を洗ったりしないでください。

橈骨遠位端骨折に対する治療

治療方法は、骨折の形、骨片のずれ、関節面の状態、骨の強さ、年齢、利き手、仕事、生活状況などを踏まえて決定します。

徒手整復

骨片がずれている場合には、麻酔などで痛みを軽減したうえで、手や手首を引っ張りながら骨片を適切な位置へ戻します。
この処置を徒手整復と呼びます。
整復後にX線検査を行い、骨片の位置を確認します。
整復によって骨片が良い位置へ戻っても、骨折が不安定な場合には、時間の経過とともに再びずれることがあります。

保存療法

次のような場合には、ギプスや装具による保存療法を選択できることがあります。
・骨片のずれが少ない
・整復後に良い位置が保たれている
・関節面の段差が少ない
・骨折が比較的安定している
・手術による身体的負担が大きい
・生活状況などから保存療法が適している
受傷直後は腫れが強くなるため、手首全周を完全に覆うギプスではなく、ギプスシーネなどで固定する場合があります。
腫れが落ち着いた後に、固定を変更することがあります。
固定中も定期的にX線検査を行い、骨片がずれていないかを確認します。
骨折が不安定で再びずれた場合には、途中から手術へ治療方針を変更することがあります。

ギプス・装具使用中の注意点

固定後は、次のような点を確認します。
・指が強く腫れていないか
・指の色が白い、青紫色、赤黒くなっていないか
・指が冷たくないか
・しびれが強くなっていないか
・指を動かせるか
・痛み止めを使用しても激痛が続いていないか
・ギプスの端が皮膚へ食い込んでいないか
・異臭や液体のにじみがないか
ギプスの中へ物を入れて皮膚をかいたり、自分で切ったり、ゆるめたりしないでください。
固定が濡れた場合や、破損した場合には医療機関へ相談してください。

薬物療法

骨折による痛みに対して、消炎鎮痛薬などを使用します。
薬の種類は、年齢、胃腸・腎臓の状態、服用中の薬などを考慮して決定します。
薬物療法は痛みを軽減するためのものであり、骨片のずれを治すものではありません。

手術治療

次のような場合には、手術を検討します。
・骨片のずれが大きい
・整復しても骨片が良い位置に保たれない
・関節面に大きな段差や隙間がある
・骨が複数の骨片に分かれている
・関節が不安定である
・開放骨折である
・正中神経などの神経障害が進行している
・ほかの手根骨骨折や靱帯損傷を伴っている
・若く活動性が高く、良好な手関節機能が必要である
手術を含めた治療が必要と判断した場合には、手外科・上肢外科や骨折治療が可能な提携医療機関へご紹介します。

急性手根管症候群

橈骨遠位端骨折では、骨片のずれや手首の腫れによって手根管内の圧力が急激に高まり、正中神経が強く圧迫されることがあります。
次のような症状が急速に悪化する場合には、急性手根管症候群が疑われます。
・親指、示指、中指、環指のしびれが強くなる
・指先の感覚が鈍くなる
・手のひらや指に激しい痛みがある
・親指や指を動かしにくい
・整復や固定後もしびれが進行する
・夜間も強い痛みが続く
骨折の整復によって神経への圧迫が軽減する場合があります。
症状が改善しない場合や進行している場合には、手根管開放術が必要になることがあります。
固定後にしびれや激痛が強くなった場合には、次の診察日まで待たず、速やかに医療機関へ連絡してください。

リハビリテーション

橈骨遠位端骨折後は、手首だけでなく、指、肘、肩もこわばりやすくなります。
骨折の安定性と治癒状態を確認しながら、段階的にリハビリテーションを行います。

腫れの管理

手を心臓より高い位置に保ち、指を動かすことで腫れを軽減します。
腕を長時間下げたままにすると、手や指の腫れが強くなることがあります。

指の運動

固定中も、医師から禁止されていなければ、指をゆっくり曲げ伸ばしします。
指先が手のひらへ近づくように動かし、こわばりや腱の癒着を予防します。
痛みが強い場合や、腫れが急に増える場合には無理をしません。

肘・肩の運動

手首が固定されていても、肘や肩まで動かさなくなる必要はありません。
固定されていない関節を動かし、腕全体の拘縮を予防します。

手首の可動域訓練

骨折部の安定性が確認され、医師から許可が出た後に、手首の曲げ伸ばしを開始します。
最初は痛みの少ない範囲でゆっくり動かします。
反対の手で強く押す、体重をかける、反動をつけるといった方法は避けます。

前腕の回旋訓練

手のひらを上へ向ける回外運動と、下へ向ける回内運動を行います。
遠位橈尺関節や周囲組織の硬さによって、回旋が制限されることがあります。
肘を身体の横につけ、痛みが出ない範囲で動かします。

筋力トレーニング

骨癒合が進み、医師から許可された後に、握力や手首・前腕の筋力訓練を開始します。
柔らかいボールや軽い負荷から始め、徐々に負荷を増やします。
骨折が十分に治る前に、重い物を持つ、腕立て伏せをするといった動作は避けます。

日常生活・仕事への復帰

食事、洗顔、着替えなどの軽い動作から段階的に再開します。
重い物を持つ仕事、介護、工具を使う仕事、スポーツなどへの復帰時期は、骨の治り方や仕事内容によって異なります。
自己判断で負荷を増やさず、医師やリハビリテーション担当者の指示に従います。

骨折後に起こる可能性がある問題

手関節拘縮

手首を長期間固定したことや、骨折周囲の腫れ・癒着によって、手首の動きが悪くなることがあります。
指、肘、肩にもこわばりが生じることがあります。

変形癒合

骨片がずれた状態で治ると、手首の形が変わり、動かしにくさ、握力低下、痛みなどが残ることがあります。
遠位橈尺関節の位置関係が変化すると、前腕を回しにくくなる場合があります。

関節面の変形・変形性手関節症

関節内骨折で関節面に段差が残ると、将来的に軟骨がすり減り、痛みや可動域制限が生じることがあります。

正中神経障害・手根管症候群

骨折直後だけでなく、骨折後の変形や腱鞘の腫れなどによって、時間が経過してから手根管症候群が現れる場合もあります。

腱断裂

骨折部の骨の突出や、手術に用いたプレート・スクリューによる摩擦によって、指を動かす腱が損傷することがあります。
特に、骨折後しばらくして親指を伸ばせなくなった場合には、長母指伸筋腱断裂を確認します。

複合性局所疼痛症候群

骨折後に、通常の経過を超える強い痛み、腫れ、皮膚の色や温度の変化、発汗、関節拘縮などが続くことがあります。
早期から適切な痛みの管理とリハビリテーションを行うことが重要です。

遠位橈尺関節不安定症

橈骨と尺骨の位置関係や三角線維軟骨複合体が損傷すると、手首の小指側の痛みや、前腕を回した際の不安定感が残ることがあります。

感染

開放骨折や手術後には感染が起こる可能性があります。
傷の赤み、腫れ、熱感、膿、発熱などがある場合には早めに受診してください。

金属による刺激

プレートやスクリューによって腱や皮下組織が刺激される場合があります。
骨が十分に癒合した後、症状やプレートの位置によっては金属の抜去を検討することがあります。

骨粗鬆症の治療と再骨折予防

橈骨遠位端骨折は、骨粗鬆症によって起こる代表的な骨折の一つです。
特に、立った高さからの転倒など軽い外力で骨折した中高年以降の方では、骨粗鬆症が隠れている可能性があります。
橈骨遠位端骨折を起こした方は、今後、背骨や大腿骨近位部などを骨折するリスクが高くなっている可能性があります。
骨折を治すだけでなく、次の骨折を予防することが大切です。
必要に応じて、次のような対策を行います。
・骨密度検査
・骨粗鬆症治療薬
・カルシウム、ビタミンD、たんぱく質を意識した食事
・安全な範囲での運動
・筋力・バランス訓練
・室内の段差や敷物の見直し
・滑りにくい履物の使用
・視力や服用薬の確認
・禁煙
・過度な飲酒を控える

自宅での注意点

治療中は、次の点に注意してください。
・手を長時間下げたままにしない
・許可されている範囲で指を動かす
・指輪を着けない
・ギプスの中へ物を入れない
・固定を自分で切ったり外したりしない
・重い物を持たない
・手をついて身体を支えない
・痛みを我慢して手首を強く動かさない
・喫煙を控える
・指定された診察日とX線検査を守る
次のような症状がある場合には、早めに医療機関へ連絡してください。
・固定後に痛みが急激に強くなった
・指のしびれが強くなった
・指が冷たい
・指が白い、青紫色、赤黒くなった
・指を動かせなくなった
・指の腫れが急激に増えた
・ギプスが強く食い込んでいる
・傷から液体や膿が出ている
・発熱がある

橈骨遠位端骨折でお悩みの方へ

次のような場合には、橈骨遠位端骨折の可能性があります。
・転倒して手をついた後から手首が痛む
・手首が短時間で腫れてきた
・手首に皮下出血がある
・手首の形が反対側と違う
・手に力が入らない
・物を持てない
・手首を曲げ伸ばしできない
・手のひらを上や下へ返せない
・数日経過しても痛みが改善しない
・軽い転倒だったが、骨を押すと強く痛む
特に、次のような場合には速やかな受診が必要です。
・手首が明らかに変形している
・骨が見えている
・骨折部付近に傷や出血がある
・親指から環指のしびれが急速に強くなっている
・指の感覚がない
・指を動かせない
・手や指が冷たい
・指が白い、青紫色になっている
・痛みや腫れが急激に悪化している
・固定後に強い痛みやしびれが出ている
手首が変形していても、自分で引っ張ったり元へ戻そうとしたりしないでください。
腕を痛みの少ない位置で支え、速やかに医療機関を受診してください。
当院では、問診、身体検査、神経・血流の確認、X線検査などによって、骨折の位置、骨片のずれ、関節面の状態を評価します。
超音波検査では、正中神経、腱、血腫などの周囲組織を確認します。
CT検査、MRI検査、緊急整復、手術、入院治療が必要と判断した場合には、手外科・上肢外科や骨折治療が可能な提携医療機関へ速やかにご紹介します。
保存療法を行う場合には、定期的なX線検査、固定管理、薬物療法、骨癒合後のリハビリテーションまで継続して対応します。
軽い転倒で骨折した中高年以降の方には、再骨折予防のため、骨粗鬆症の評価と治療についてもご案内します。

監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫