化膿性屈筋腱鞘炎

化膿性屈筋腱鞘炎

化膿性屈筋腱鞘炎・ひょう疽について

化膿性屈筋腱鞘炎は、指を曲げる屈筋腱を包む「腱鞘」の中へ細菌が入り、急速に炎症や膿が広がる感染症です。
指全体の腫れ、強い痛み、指を伸ばした際の激痛などが現れます。
進行すると、屈筋腱や腱鞘が壊死したり、感染が手のひら、手首、前腕へ広がったりする可能性があります。
ひょう疽は一般に、指先の腹側にある柔らかな部分へ細菌が入り、膿瘍を形成する感染症を指します。
日本では、爪の周囲に起こる爪周囲炎などを含め、指先の化膿性疾患全般を「ひょう疽」と表現することもあります。
本ページでは、主に指先の腹側へ膿がたまる指尖部膿瘍について説明します。
化膿性屈筋腱鞘炎とひょう疽は、一般的な腱鞘炎や軽い皮膚炎とは異なります。
放置すると、腱、関節、骨などへ感染が広がり、指の機能が低下する可能性があります。
指全体が腫れている、指を伸ばすと激しく痛む、指先が拍動するように痛む、膿が出る、発熱を伴う場合には、できるだけ早く医療機関を受診してください。

屈筋腱と腱鞘の構造

指を曲げる筋肉の多くは前腕にあります。
筋肉から伸びる屈筋腱が手のひら側を通り、指の骨へ付着することで指が曲がります。
屈筋腱は、指の中で「腱鞘」と呼ばれる細長いトンネル状の組織に包まれています。
腱鞘の内側には少量の滑液があり、屈筋腱が滑らかに動けるようになっています。
健康な状態では、屈筋腱が腱鞘内を抵抗なく滑走します。
細菌が腱鞘内へ入ると、閉鎖された狭い空間に炎症と膿が広がります。
腱鞘内の圧力が上昇すると、屈筋腱へ送られる血流が低下し、短期間で腱が傷む可能性があります。
膿や壊死した組織によって腱の滑走が障害されると、治療後も指のこわばりや腱の癒着が残る場合があります。

指先の腹側の構造

指先の腹側には、物に触れた際の衝撃を吸収する柔らかな組織があります。
この組織は、骨と皮膚の間を走る多数の線維性の隔壁によって、小さな区画に分けられています。
ひょう疽で膿がたまると、この隔壁によって膿が外へ広がりにくく、狭い区画内の圧力が急速に高くなります。
そのため、指先が硬く張り、拍動するような強い痛みが現れます。
圧力が高い状態が続くと、皮膚や脂肪組織の壊死、末節骨の骨髄炎、DIP関節の化膿性関節炎、屈筋腱鞘への感染などへ進行する可能性があります。

化膿性屈筋腱鞘炎の原因

化膿性屈筋腱鞘炎の多くは、指の手のひら側にできた小さな傷から細菌が入ることで発症します。
傷が非常に小さく、受傷したことを覚えていない場合もあります。

刺し傷

次のような物による刺し傷が原因になることがあります。
・木片やトゲ
・針
・釣り針
・金属片
・ガラス片
・魚の骨やヒレ
・植物のトゲ
・工具
・注射針
傷口が小さく閉じても、皮膚の奥に細菌や異物が残っている場合があります。

切り傷・擦り傷

包丁、はさみ、紙、機械などによる傷から細菌が入ることがあります。
傷を放置した場合だけでなく、汚れた環境で作業を続けた場合にも感染の危険があります。

動物・人による咬み傷

犬、猫、そのほかの動物による咬み傷は、傷が小さく見えても深い部分へ細菌が入り込んでいる場合があります。
人の歯による傷にも注意が必要です。
けんかで握った拳が相手の歯へ当たり、手の甲や関節付近に小さな傷ができる「fight bite」では、関節や腱へ感染が広がることがあります。

指先の感染からの波及

治療されていないひょう疽、爪周囲炎、皮膚膿瘍などから、細菌が屈筋腱鞘へ広がる場合があります。

手術・注射・処置後

まれに、手術、注射、異物除去などの後に感染が起こることがあります。
処置後に赤み、腫れ、熱感、膿、急速に強くなる痛みがある場合には、早めの受診が必要です。

水や魚介類への曝露

水槽、水産業、釣り、海水・淡水などに関連した傷では、一般的な皮膚の細菌とは異なる病原体が原因となる場合があります。
受診時には、水槽、魚介類、海水、川、池などに触れたかを伝えてください。

ひょう疽の原因

ひょう疽は、指先の皮膚へ細菌が入り、指腹部の深い部分に感染が起こることで発症します。
次のようなきっかけがあります。
・トゲや針による刺し傷
・魚の骨やヒレによる傷
・指先の切り傷
・ささくれをむしった
・爪をかむ、指先の皮膚をかむ
・深爪
・爪の周囲の感染
・動物による咬み傷
・指先を挟んだ、つぶした
・血糖測定や自己注射などによる穿刺
・異物が残っている
皮膚の表面に大きな傷が見えなくても、内部に感染が起きていることがあります。

原因となる細菌

一般的には、皮膚に存在する黄色ブドウ球菌やレンサ球菌などが原因になります。
ただし、次のような場合には、一般的な皮膚感染症とは異なる細菌を考慮する必要があります。
・猫や犬などの動物による咬み傷
・人による咬み傷
・海水や淡水に触れた傷
・水槽や魚介類に関連した傷
・土や植物に関連した刺し傷
・免疫機能が低下している
・症状がゆっくり進行している
・通常の抗菌薬で改善しない
感染源や受傷状況は、抗菌薬の選択や培養検査に影響します。

発症しやすい方・重症化しやすい方

健康な方にも発症しますが、次のような方では感染が進行しやすく、治りにくい場合があります。
・糖尿病がある
・透析治療を受けている
・免疫を抑える薬を使用している
・抗がん剤治療中である
・関節リウマチなどの基礎疾患がある
・末梢血流が悪い
・喫煙習慣がある
・高齢である
・低栄養状態である
・傷を負ってから受診まで時間が経過している
・異物が残っている
・動物や人の咬み傷である
これらに当てはまる場合には、軽い傷や腫れに見えても早めに受診してください。

化膿性屈筋腱鞘炎の主な症状

化膿性屈筋腱鞘炎では、代表的な4つの診察所見があります。
これらは「Kanavelの4徴候」と呼ばれます。

指全体が紡錘状に腫れる

関節の一部分だけではなく、指全体がソーセージのように腫れます。
指先から付け根まで、全体的に太く見えることがあります。

指を軽く曲げた状態に保つ

指を伸ばすと痛いため、無意識に指を軽く曲げた状態で保つようになります。
自分で伸ばそうとしても、痛みのため十分に伸ばせません。

屈筋腱鞘に沿った圧痛

指の手のひら側を、指先から付け根方向へ押すと強い痛みが現れます。
痛みが指の一部分ではなく、腱鞘に沿って広がることがあります。

他動的に指を伸ばすと激しく痛む

反対の手や診察者が指を伸ばそうとすると、強い痛みが現れます。
腫れた腱鞘が伸ばされ、内部の圧力が高まるためです。

4つすべてが揃うとは限りません。
発症初期や基礎疾患のある方では、症状が典型的でない場合もあります。
徴候が一つしかない場合でも、傷の後に症状が急速に進行している場合には注意が必要です。

そのほかの症状

強い安静時痛

手を使っていなくても、指がズキズキと痛みます。
時間の経過とともに痛みが急速に強くなることがあります。

赤み・熱感

指の手のひら側や指全体が赤くなり、熱を持つ場合があります。
ただし、深部の感染では皮膚の赤みが目立たない場合もあります。

指を動かせない

痛み、腫れ、腱の滑走障害などにより、指を曲げ伸ばしできなくなります。

膿や液体が出る

傷口から膿や濁った液体が出ることがあります。
傷が閉じていても内部に膿がたまっている場合があります。

発熱・悪寒

感染が進行すると、発熱、悪寒、だるさなどの全身症状が現れることがあります。
全身症状がなくても、化膿性屈筋腱鞘炎を否定することはできません。

手のひら・手首まで痛む

感染が腱鞘に沿って広がると、指の付け根、手のひら、手首などにも腫れや痛みが現れることがあります。

ひょう疽の主な症状

指先の腹側の激しい痛み

拍動に合わせてズキンズキンと痛むことがあります。
時間の経過とともに痛みが強くなり、夜眠れないほどになる場合があります。

指先が硬く張る

指先の腹側が腫れて、触ると硬く緊張しています。
軽く触れただけでも強く痛むことがあります。

赤み・熱感

指先が赤くなり、熱を持ちます。
感染が広がると、赤みが指の付け根方向へ拡大する場合があります。

膿がたまる

皮膚の下に黄色や白色の膿が見える場合があります。
深い部分に膿がある場合には、表面から見えないこともあります。

指先を使えない

物に触れる、スマートフォンを操作する、ボタンを押すなど、指先が接触する動作で強く痛みます。

骨や関節への波及

進行すると、末節骨の骨髄炎やDIP関節の化膿性関節炎を起こすことがあります。

爪周囲炎との違い

爪周囲炎は、爪の横や付け根にある皮膚へ感染が起こる病気です。
一般に「爪の横が赤い」「爪の周囲から膿が出る」といった症状が中心です。
ひょう疽では、爪の周囲よりも指先の腹側が硬く腫れ、強い拍動痛が現れます。
ただし、爪周囲炎から感染が深い部分へ広がり、ひょう疽になる場合があります。
次のような場合には、単純な爪周囲炎ではない可能性があります。
・指先の腹側まで硬く腫れている
・強い拍動痛がある
・指全体が腫れている
・指を伸ばすと激しく痛む
・赤みが手のひら側へ広がっている
・発熱がある

ヘルペス性ひょう疽との違い

単純ヘルペスウイルスによって指先に感染が起こる病気を「ヘルペス性ひょう疽」と呼びます。
細菌性のひょう疽と同じように、指先の強い痛み、赤み、腫れが現れます。
数日後に、小さな水疱が集まって現れることがあります。
ヘルペス性ひょう疽では、細菌性膿瘍に対するような切開排膿を行うと、傷の治癒が遅れたり、感染が広がったりする可能性があります。
水疱がある、ヘルペスに接触する機会があった、同じ症状を繰り返している場合には、必ず医師へ伝えてください。
自分で水疱をつぶしたり、針を刺したりしないでください。

他の病気との違い

ばね指との違い

ばね指では、指の付け根に痛みやしこりがあり、曲げ伸ばしで引っかかりが生じます。
通常は急激な赤み、指全体の腫れ、発熱などを伴いません。
化膿性屈筋腱鞘炎では、急速に指全体が腫れ、他動的に伸ばすと激しく痛みます。

非感染性の腱鞘炎との違い

手の使いすぎなどによる腱鞘炎は、動作時痛が中心で、急速に指全体が腫れることは一般的ではありません。
傷、強い熱感、膿、発熱などがある場合には感染症を疑います。

化膿性関節炎との違い

化膿性関節炎では、特定の関節を中心に強い腫れと痛みが現れます。
関節を少し動かすだけでも痛みます。
化膿性屈筋腱鞘炎と同時に起こる場合もあります。

痛風・偽痛風との違い

結晶性関節炎でも、指関節が急に赤く腫れ、激しく痛むことがあります。
傷の有無、痛む場所、血液検査、関節液検査などから判断します。

蜂窩織炎との違い

蜂窩織炎は、皮膚と皮下組織へ広がる感染症です。
赤みと腫れが面状に広がります。
腱鞘に沿った強い圧痛や、他動伸展時の激痛がある場合には、化膿性屈筋腱鞘炎を考えます。

壊死性筋膜炎との違い

壊死性筋膜炎は、皮下の筋膜に沿って感染が急速に広がる重篤な病気です。
見た目の皮膚変化に比べて非常に強い痛みがある、短時間で腫れや赤みが広がる、水疱や皮膚の色の変化がある、全身状態が悪い場合には緊急治療が必要です。

感染が広がると起こり得る問題

屈筋腱の壊死・断裂

腱鞘内の圧力上昇や感染によって屈筋腱への血流が低下すると、腱が壊死したり切れたりする可能性があります。

腱の癒着

感染や手術後の瘢痕によって、腱が周囲の組織と癒着することがあります。
関節自体は動いても、自力では指を十分に曲げられない状態が残る場合があります。

指関節の拘縮

痛み、腫れ、固定、瘢痕などによって、指を曲げ伸ばししにくくなることがあります。

化膿性関節炎

感染が指の関節へ広がると、関節軟骨が短期間で傷む可能性があります。

骨髄炎

感染が末節骨などへ広がると、骨髄炎を起こすことがあります。
長期間の抗菌薬治療や、感染した骨の処置が必要になる場合があります。

手掌・手首・前腕への感染拡大

屈筋腱鞘は手のひらや手首側の組織と連続しています。
感染が深部へ広がると、手掌部膿瘍や前腕の深部感染などを起こす可能性があります。

敗血症

細菌が血液中へ広がると、発熱、血圧低下、意識障害などを伴う敗血症へ進行する可能性があります。

指の機能障害・切断

治療が遅れ、組織壊死や感染が広範囲に進んだ場合には、指の機能が大きく低下したり、まれに切断が必要になったりすることがあります。

高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査

問診

症状の始まり方、傷や感染源などを確認します。
主に次のような点を確認します。
・いつから腫れや痛みがあるか
・症状が急速に悪化しているか
・指を伸ばすと強く痛むか
・トゲ、針、魚の骨などが刺さったか
・切り傷や擦り傷があったか
・動物や人にかまれたか
・爪をかむ、ささくれをむしる習慣があるか
・水槽、魚介類、海水、川、池に触れたか
・膿や液体が出ているか
・発熱や悪寒があるか
・糖尿病、透析、免疫抑制などがあるか
・最近使用した抗菌薬があるか
・破傷風ワクチンをいつ接種したか
・異物が残っている可能性があるか

視診・触診

次のような所見を確認します。
・指全体の腫れ
・指を軽く曲げた姿勢
・赤み、熱感
・傷、刺し口、咬み傷
・膿や水疱
・指先の緊張した腫れ
・腱鞘に沿った圧痛
・赤い線が手や腕へ伸びていないか

指の動きの確認

患者さま自身で指を曲げ伸ばしできるかを確認します。
他動的に指を伸ばした際の痛みも評価します。
感染が疑われる場合には、痛みを確認するために何度も強く伸ばすことはしません。

神経・血流の確認

指先の感覚、色、温度、毛細血管再充満などを確認します。
強い腫れや感染によって、指先への血流や神経機能が障害されていないかを評価します。

X線検査

X線検査では、腱鞘内の膿そのものが明確に写るとは限りません。
主に次の状態を確認します。
・皮膚の奥に残った異物
・骨折
・関節の損傷
・骨髄炎を疑う骨の変化
・軟部組織内のガス
・過去の手術材料
・咬み傷による歯の破片
発症早期の骨髄炎では、X線で異常が確認できない場合があります。

超音波検査

超音波検査では、次のような状態を確認できる場合があります。
・腱鞘内の液体貯留
・屈筋腱周囲の腫れ
・皮下膿瘍
・指先の膿瘍
・残存異物
・関節液の増加
・周囲組織への感染の広がり
超音波で明らかな膿が見えない場合でも、化膿性屈筋腱鞘炎を完全には否定できません。
診察所見や症状の経過を合わせて判断します。

血液検査

血液検査では、白血球数やCRPなどの炎症反応を確認します。
重症例では、腎機能、肝機能、血糖値、凝固機能なども調べます。
発症初期や局所に限局した感染では、血液検査の異常が軽いこともあります。
血液検査が正常だからといって、深部感染を完全には否定できません。

細菌培養検査

膿、傷からの排液、手術で採取した組織などを培養し、原因となる細菌を調べます。
培養結果と薬剤感受性をもとに、抗菌薬を変更することがあります。
水や魚介類への曝露、土、動物・人の咬み傷、免疫機能低下などがある場合には、受傷状況を検査室へ伝えることが重要です。

MRI検査

MRIでは、腱鞘、軟部組織、関節、骨髄などへの感染の広がりを詳しく確認できる場合があります。
ただし、化膿性屈筋腱鞘炎が強く疑われる場合に、MRIのために治療開始が遅れないよう注意が必要です。
当院にはMRI装置は設置しておりません。MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。

CT検査

深い異物、骨の破壊、軟部組織内のガス、手掌や前腕への感染拡大などを評価するために検討することがあります。
当院にはCT装置は設置しておりません。CT検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内します。

化膿性屈筋腱鞘炎や深いひょう疽が疑われる場合には、画像検査の完了を待つことで治療が遅れないようにすることが重要です。点滴抗菌薬、緊急手術、入院治療などが必要と判断した場合には、手外科や救急診療に対応する医療機関へ速やかにご紹介します。

化膿性屈筋腱鞘炎の治療

化膿性屈筋腱鞘炎は、原則として早期に手外科・整形外科で評価する必要がある感染症です。
感染の程度によっては、入院治療が必要です。

抗菌薬治療

原因菌が判明する前に、想定される細菌に対する抗菌薬を開始します。
重症例や深部感染では、点滴による抗菌薬治療が行われます。
咬み傷、水に関連した傷、免疫機能低下などがある場合には、受傷状況に応じた細菌も考慮します。
培養検査で原因菌が判明した後は、結果に合わせて抗菌薬を調整します。
症状が軽くなっても、自己判断で抗菌薬を中止しないでください。

切開・洗浄・排膿

腱鞘内に膿がたまっている場合や、感染が進行している場合には、手術によって腱鞘を洗浄し、膿や壊死した組織を取り除きます。
感染の程度に応じて、次のような方法があります。
・小さな切開から管を入れて腱鞘内を洗浄する
・複数の切開から腱鞘を洗浄する
・広く切開して感染組織を直接確認する
・壊死した腱鞘や組織を切除する
・ドレーンを留置する
・複数回の洗浄手術を行う
感染が強い場合には、一度の手術だけでなく、追加の洗浄や組織切除が必要になることがあります。

ごく早期の症例について

発症からの時間が短く、膿瘍形成や組織壊死が明らかでない一部の症例では、入院または厳密な管理下で点滴抗菌薬と安静を行い、短時間で反応を確認する場合があります。
改善が得られない場合や症状が進行する場合には、速やかに手術へ切り替えます。
自宅で飲み薬だけを服用しながら長期間様子をみる病気ではありません。

ひょう疽の治療

治療は、膿がたまっているか、感染が周囲へ広がっているかによって異なります。

膿瘍形成前

明らかな膿瘍が形成される前の早期であれば、抗菌薬、安静、挙上などが検討される場合があります。
ただし、指先の腹側が硬く緊張し、拍動するように強く痛む場合には、内部に膿がたまっている可能性があります。

切開排膿

膿瘍が形成されている場合には、皮膚を切開して膿を排出します。
指先内部は線維性隔壁で複数の区画に分かれているため、膿のある空間を十分に開放する必要があります。
切開する位置や方向を誤ると、指神経、血管、腱、指先の感覚などに影響する可能性があります。
自分で針を刺したり、刃物で切ったりしないでください。

抗菌薬

膿の培養検査や受傷原因を踏まえ、抗菌薬を使用します。
感染が骨、関節、腱鞘へ広がっている場合には、点滴治療や長期間の治療が必要になることがあります。

爪周囲炎の治療

軽度で膿がたまっていない爪周囲炎では、局所の清潔、温浴、外用薬、内服抗菌薬などが検討される場合があります。
膿がたまっている場合には、排膿処置が必要になることがあります。
爪の下まで膿が広がっている場合には、爪の一部または全部を処置することがあります。
爪周囲炎から指先の腹側や指全体へ腫れが広がっている場合には、ひょう疽や腱鞘炎への進展を確認します。

破傷風への対応

刺し傷、汚染された傷、動物・人の咬み傷などでは、破傷風ワクチンの接種歴を確認します。
傷の種類と過去の接種状況によって、追加接種や免疫グロブリンが必要になる場合があります。
受診時には、最後に破傷風を含むワクチンを接種した時期が分かれば伝えてください。

受診までの対応

指輪を外す

指や手が腫れる前に、患側の指輪を外してください。
腫れが強くなると指輪が食い込み、血流障害を起こす可能性があります。

手を高く保つ

手を心臓より高い位置へ保つと、腫れや痛みを軽減できる場合があります。

傷を流水で洗う

受傷直後であれば、傷を流水と石けんで十分に洗います。
傷の奥へ異物が入り込んでいる場合には、無理に深く探らないでください。

清潔なガーゼで保護する

膿や出血がある場合には、清潔なガーゼを軽く当てます。
密閉しすぎたり、強く圧迫したりしないでください。

指を無理に動かさない

痛みを確認するために、何度も指を曲げ伸ばししないでください。
指を伸ばすと激しく痛む場合には、無理に伸ばさず、楽な位置で保護します。

食事について

緊急手術や麻酔が必要になる可能性があります。
受診直前に大量の食事を取った場合には、最後に飲食した時間を医療者へ伝えてください。
ただし、自己判断で長時間の絶食を続ける必要はありません。

自宅で行ってはいけないこと

・針を刺して膿を出す
・刃物で切開する
・膿を強く絞り出す
・水疱をつぶす
・傷の中を器具で探る
・指先を強く揉む
・熱湯へ長時間つける
・残っていた抗菌薬を自己判断で飲む
・市販のステロイド薬を塗る
・ステロイド注射を受ける
・痛み止めだけで長期間様子をみる
・傷を接着剤などで閉じる
・強くテーピングして圧迫する
ヘルペス性ひょう疽に切開を行うと悪化する可能性もあるため、自己処置は避けてください。

手術後・感染治療後の管理

腫れの管理

手を心臓より高い位置に保ちます。
医師から許可された範囲で、固定されていない指を動かします。

傷・ドレーンの管理

傷やドレーンを清潔に保ち、指示された方法でガーゼ交換を行います。
傷を濡らせる時期は、治療を行った医療機関の指示に従ってください。

抗菌薬を指示どおり使用する

症状が軽くなっても、医師の指示なく中止しないでください。
発疹、呼吸苦、強い下痢などがある場合には、服用を中止すべきか医療機関へ確認します。

可動域訓練

感染が落ち着き、医師から許可された後に指の曲げ伸ばしを開始します。
化膿性屈筋腱鞘炎では、腱の癒着や関節拘縮を防ぐため、手外科のリハビリテーションが重要です。
一方、感染や傷が安定する前に無理に動かすと、痛みや組織障害を悪化させる可能性があります。
開始時期は自己判断せず、医師や作業療法士の指示に従ってください。

再手術が必要になる場合

次のような場合には、追加の洗浄や組織切除が必要になることがあります。
・膿が再びたまる
・赤みや腫れが広がる
・炎症反応が改善しない
・壊死した組織が残っている
・骨や関節への感染が確認された
・抗菌薬が効きにくい細菌である

予防

指の感染を完全に防ぐことはできませんが、次の点が重要です。
・切り傷や刺し傷は早めに流水で洗う
・トゲや異物を無理に深く掘らない
・傷を汚れた手で触らない
・爪や指先の皮膚をかまない
・ささくれを引きちぎらない
・深爪を避ける
・水仕事では皮膚のひび割れを保護する
・動物や人の咬み傷は小さくても受診を検討する
・糖尿病がある場合は小さな傷も観察する
・破傷風ワクチンの接種歴を確認しておく

次のような症状がある場合には早めに受診してください

次のような症状がある場合には、化膿性屈筋腱鞘炎やひょう疽の可能性があります。
・指全体が急に腫れてきた
・指を軽く曲げた状態が楽である
・指の手のひら側に沿って強く痛む
・反対の手で指を伸ばすと激痛がある
・指先の腹側が硬く張っている
・指先が拍動するように痛む
・傷や刺し口の後から腫れてきた
・膿や濁った液体が出ている
・動物や人にかまれた
・魚の骨、トゲ、針などが刺さった
・水槽、海水、川、魚介類に触れた傷がある
・抗菌薬を飲んでも悪化している

同日中の緊急受診が必要な症状

次のような場合には、同日中の緊急受診が必要です。
・指を伸ばすと耐えられないほど痛む
・腫れや赤みが数時間単位で広がっている
・赤い線が手や腕へ伸びている
・手のひらや手首まで腫れている
・指をほとんど動かせない
・安静にしていても強く痛む
・発熱、悪寒、強いだるさがある
・膿、悪臭、皮膚の黒ずみがある
・水疱や紫色の皮膚変化が広がっている
・指先が白い、青紫色になっている
・指先が冷たい、感覚が低下している
・傷から骨や腱が見えている
・糖尿病、透析、免疫抑制状態がある
・小児や高齢者で症状が急速に悪化している
化膿性屈筋腱鞘炎や深いひょう疽は、翌日まで様子をみることで治療が難しくなる可能性があります。
特に、指全体の紡錘状の腫れ、軽度屈曲位、屈筋腱鞘に沿った圧痛、他動伸展時の激痛がある場合には、速やかに整形外科、手外科または救急医療機関を受診してください。

化膿性屈筋腱鞘炎・ひょう疽でお悩みの方へ

診察では、傷や腫れの状態、Kanavelの4徴候、指の動き、神経・血流を確認します。
必要に応じてX線、超音波、血液検査、細菌培養などを行い、異物、膿瘍、骨・関節・腱鞘への感染拡大を評価します。
化膿性屈筋腱鞘炎では、抗菌薬だけでなく、腱鞘内の洗浄・排膿手術が必要になることがあります。
ひょう疽で膿瘍が形成されている場合にも、適切な位置からの切開排膿が必要です。
指先へ自分で針を刺したり、膿を絞り出したりせず、早めに医療機関へ相談してください。
当院では、傷や腫れの状態、Kanavelの4徴候、指の動き、神経・血流を確認し、症状に応じてX線検査、超音波検査、血液検査などを行います。
化膿性屈筋腱鞘炎や深いひょう疽が疑われ、点滴抗菌薬、切開排膿、腱鞘洗浄、入院治療などが必要と判断した場合には、手外科または救急医療機関へ速やかにご紹介します。
指全体の腫れ、指を伸ばした際の強い痛み、指先の拍動痛、膿、発熱などがある場合には、翌日まで様子をみず早めにご相談ください。

監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫