梨状筋症候群

梨状筋症候群

梨状筋症候群について

梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん)は、臀部の深い場所にある「梨状筋」と、その近くを通る坐骨神経の間で圧迫や刺激が生じ、臀部痛や脚の痛み・しびれが現れる病気です。
英語では「Piriformis syndrome」と呼ばれます。
主な症状には、次のようなものがあります。
・臀部の奥の痛み
・長時間座っていると強くなる臀部痛
・臀部から太ももの後面へ広がる痛み
・脚のしびれ、ピリピリ感
・車の運転やデスクワークでの悪化
・股関節を動かしたときの臀部痛
・走る、階段を上るなどの動作での痛み
・臀部を押したときに脚へ響く痛み
一般には片側に症状が現れることが多いものの、まれに両側に症状が出る場合もあります。
梨状筋症候群は「坐骨神経痛」を起こす原因の一つです。
ただし、坐骨神経痛の多くは、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など、腰椎で神経根が圧迫されることによって起こります。
臀部や脚が痛むという症状だけで、梨状筋症候群と判断することはできません。
診断では、腰椎疾患、股関節疾患、仙腸関節障害、臀部の腱障害、腫瘍など、ほかの原因を除外することが重要です。
また、「梨状筋が硬い」「臀部を押すと痛い」という所見だけで、坐骨神経が梨状筋によって圧迫されていると確定することはできません。
症状の特徴、神経学的診察、複数の誘発テスト、画像検査、必要に応じた診断的注射などを組み合わせて判断します。

深殿部症候群との関係

近年では、臀部の深い場所で坐骨神経が圧迫・刺激される状態をまとめて「深殿部症候群」と呼ぶことがあります。
英語では「Deep gluteal syndrome」と呼ばれます。
深殿部症候群は、腰椎の椎間板ヘルニアなどによらない、臀部領域での坐骨神経絞扼を表す概念です。
梨状筋症候群は、深殿部症候群を起こす原因の一つです。
坐骨神経は梨状筋だけでなく、次のような場所でも圧迫される場合があります。
・梨状筋周囲
・内閉鎖筋や双子筋周囲
・線維性の索状組織
・大腿方形筋周囲
・坐骨と大腿骨の間
・ハムストリングス起始部周辺
・外傷や手術後の瘢痕組織
そのため、臀部で坐骨神経が障害されていても、原因が梨状筋ではないことがあります。
検査で原因を特定できない段階から、すべてを梨状筋症候群と診断することは避ける必要があります。

梨状筋の構造

梨状筋は、骨盤の後方から大腿骨へ伸びる筋肉です。
主に仙骨の前面から始まり、骨盤にある大坐骨孔を通って、大腿骨上部の大転子付近に付着します。
梨状筋は、臀部の表面にある大臀筋よりも深い位置にあります。
主な働きには次のものがあります。
・股関節を外側へ回す
・股関節の位置によっては脚を外側へ開く
・歩行や片脚立ちで股関節を安定させる
・骨盤と大腿骨の動きを調整する
梨状筋の働きは、股関節の曲がっている角度によって変化します。
「外旋筋だから内旋ストレッチをすれば必ず改善する」という単純なものではありません。
痛みの原因や股関節の状態に応じて、運動方向を調整する必要があります。

坐骨神経の構造

坐骨神経は、腰仙部の神経から形成され、骨盤から臀部、太ももの後面へ向かう太い末梢神経です。
膝付近までに、主に次の二つの神経へ分かれます。
・脛骨神経
・総腓骨神経
坐骨神経は多くの場合、梨状筋の下を通って骨盤から出ます。
ただし、坐骨神経と梨状筋の位置関係には個人差があります。
次のような解剖学的変異がみられる場合があります。
・坐骨神経の一部が梨状筋を貫く
・坐骨神経が梨状筋の上下に分かれて通る
・梨状筋自体が複数に分かれている
・坐骨神経が梨状筋の上を通る
解剖学的変異があっても、必ず梨状筋症候群を発症するわけではありません。
症状のない方にも同様の変異がみられることがあります。
画像で変異が確認されたという理由だけで、現在の痛みの原因と判断することはできません。

梨状筋症候群が起こる仕組み

梨状筋症候群では、梨状筋周辺で坐骨神経が圧迫・刺激されると考えられています。
考えられる仕組みには次のものがあります。

梨状筋の過緊張・けいれん

スポーツや長時間の姿勢などによって梨状筋周辺に負担が加わり、筋肉の緊張が高まる場合があります。
緊張した筋肉と周囲組織が坐骨神経を刺激し、臀部痛や脚の症状につながる可能性があります。
ただし、筋肉が硬いだけで神経が必ず圧迫されるわけではありません。

筋肉の肥大

特定のスポーツや反復動作によって梨状筋が発達し、坐骨神経との間の余裕が小さくなる可能性があります。

外傷後の腫れ・出血

尻もち、臀部への打撲、交通事故などによって、梨状筋周辺に腫れや血腫が生じ、坐骨神経が圧迫される場合があります。
抗凝固薬を使用している方では、明らかな強い外傷がなくても臀部内に出血する可能性があります。

瘢痕・線維性組織

股関節や骨盤の手術、臀部への外傷、炎症などの後に瘢痕組織が形成され、坐骨神経の動きが制限される場合があります。

解剖学的変異

坐骨神経が梨状筋を貫くなどの変異が、動作時の神経刺激に関係する可能性があります。
ただし、変異だけで症状の原因と断定することはできません。

腫瘍・嚢胞などの占拠性病変

臀部や骨盤内の腫瘍、神経鞘腫、ガングリオン、血管病変などによって、坐骨神経が圧迫される場合があります。
このような状態は狭義の梨状筋症候群とは異なりますが、似た症状を起こすため鑑別が必要です。

主な原因・発症のきっかけ

長時間の座位

デスクワーク、車の運転、飛行機での移動など、臀部が圧迫される姿勢を長く続けることで症状が強くなる場合があります。
特に硬い椅子や厚い財布を入れた後ろポケットなどが、臀部への局所的な圧迫になることがあります。

長時間の運転

座位に加え、アクセル・ブレーキ操作による股関節の反復運動が重なります。

ランニング

走行時には、梨状筋を含む股関節周囲筋が骨盤を安定させます。
走行距離や坂道練習を急に増やすと、臀部周辺に負担が集中する場合があります。

ゴルフ・テニスなどの回旋運動

体幹と股関節を繰り返し回旋する競技で症状が現れることがあります。

中腰・しゃがみ姿勢

草むしり、清掃、荷物整理などで股関節を曲げた姿勢を続けると、臀部の深い場所に負担が加わる場合があります。

階段・坂道

階段昇降や坂道歩行では、臀筋群や深層外旋筋群の活動が大きくなります。

尻もち・臀部の打撲

直接的な外傷をきっかけに発症する場合があります。

手術後

人工股関節置換術、股関節鏡手術、骨盤手術などの後に、坐骨神経周囲の瘢痕や組織の変化が生じる場合があります。

臀部への注射

まれに、臀部への筋肉注射によって坐骨神経が直接損傷されたり、周囲に炎症・瘢痕が生じたりすることがあります。
これは一般的な梨状筋症候群とは病態が異なる場合があります。

主な症状

臀部の深い痛み

臀部の中央からやや外側、または仙骨と大転子の間に、深く重い痛みが現れます。
表面の筋肉痛とは異なり、「臀部の奥が痛む」と表現されることがあります。

長時間座ると痛む

座位を続けると、臀部の痛みや脚のしびれが強くなることがあります。
座ってから一定時間が経過すると症状が現れ、立つ、歩く、姿勢を変えると軽くなる場合があります。
ただし、歩行でも症状が悪化する方がいるため、必ず歩けば改善するとは限りません。

臀部から太ももの後面への痛み

坐骨神経に沿って、臀部から太ももの後面に痛みが広がります。
ふくらはぎ、足、足趾まで広がる場合もあります。

しびれ・灼熱感

次のような感覚が現れることがあります。
・ピリピリする
・ジンジンする
・電気が走る
・焼けるように痛む
・皮膚の感覚が鈍い

股関節運動での痛み

股関節を曲げる、内側へ寄せる、内側へ回すなど、梨状筋と坐骨神経に張力が加わる姿勢で痛みが再現される場合があります。

階段・ランニングでの痛み

股関節周囲筋へ負荷がかかる動作で、臀部痛が強くなることがあります。

患側を下にして寝ると痛む

臀部が圧迫されることで症状が強くなる場合があります。
ただし、横向きで外側の大転子周囲が痛む場合には、大転子部痛症候群や中臀筋腱障害も考えます。

臀部を押すと脚へ響く

梨状筋周辺や坐骨神経走行部を圧迫した際に、臀部痛や脚へ放散する痛みが再現されることがあります。
強く押し続けると神経症状が悪化する可能性があるため、本人が繰り返し強く圧迫しないでください。

筋力低下について

梨状筋周辺で坐骨神経の圧迫が強い場合には、まれに脚や足の筋力低下が現れることがあります。
・足首を上へ持ち上げにくい
・足趾を動かしにくい
・つま先立ちが難しい
・かかと歩きが難しい
・つまずきやすい
・足を引きずる
ただし、このような筋力低下は腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腓骨神経障害などでも生じます。
筋力低下がある場合には、梨状筋症候群と自己判断せず、早めに神経学的評価を受ける必要があります。

梨状筋症候群の診断が難しい理由

梨状筋症候群には、全例で陽性になる単独の診察方法や、診断を確定できる一つの画像検査がありません。
診断が難しい理由には次のものがあります。
・腰椎疾患と症状が似ている
・臀部痛を起こす病気が多い
・梨状筋周辺の圧痛は健康な方にもみられる
・MRIで異常が確認できないことがある
・筋肉や坐骨神経の解剖に個人差がある
・誘発テストの結果が検査者によって異なる
・複数の病気を同時に発症している場合がある
そのため、梨状筋症候群は一般に除外診断として判断されます。
腰椎や股関節などの明確な原因がなく、症状と臀部での神経刺激所見が一致し、診断的注射で症状が軽減する場合などに、診断の可能性が高まります。

ほかの病気との違い

腰椎椎間板ヘルニアとの違い

腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板が後方へ突出し、腰椎で神経根を圧迫する病気です。
梨状筋症候群でみられやすい特徴
・臀部の深い痛みが中心
・長時間の座位で悪化しやすい
・梨状筋周辺の圧迫で症状が再現される
・股関節の特定の動きで臀部痛が出る
・腰椎MRIで症状を説明する神経圧迫がない
腰椎椎間板ヘルニアでみられやすい特徴
・腰痛を伴うことがある
・咳やくしゃみで脚へ痛みが走る
・前かがみや座位で神経痛が悪化する場合がある
・神経根に対応した感覚低下や筋力低下がある
・下肢伸展挙上テストで神経痛が再現される
・腰椎MRIで神経根の圧迫が確認される
これらは典型的な傾向であり、症状だけで確実に区別することはできません。
腰椎椎間板ヘルニアと梨状筋症候群が同時に存在する場合もあります。

腰部脊柱管狭窄症との違い

腰部脊柱管狭窄症では、立位や歩行を続けると脚が痛む・しびれるものの、座る、しゃがむ、前かがみになると軽くなる間欠性跛行がみられます。
梨状筋症候群では、座位による臀部圧迫で症状が強くなることがあります。
ただし、どちらも臀部や脚の症状を起こすため、歩行、姿勢、筋力、反射、MRIなどを合わせて評価します。

仙腸関節障害との違い

仙腸関節障害では、仙骨と腸骨の境界周辺に痛みが生じます。
寝返り、立ち上がり、階段、片脚立ちなどで悪化するため、梨状筋症候群と似ることがあります。
仙腸関節の誘発テストと、梨状筋・坐骨神経に対する誘発テストを組み合わせて評価します。

大転子部痛症候群との違い

中臀筋腱・小臀筋腱の障害や大転子周囲の滑液包などが関係する痛みです。
主に股関節外側の大転子周辺が痛みます。
患側を下にして寝る、階段を上る、片脚立ちなどで悪化します。
梨状筋症候群は一般に、外側よりも臀部の深い場所に痛みが現れます。
両方を同時に発症する場合もあります。

変形性股関節症との違い

変形性股関節症では、鼠径部を中心に臀部や太ももへ痛みが広がります。
股関節の曲げ伸ばしや回旋が制限され、靴下の着脱、爪切り、車の乗り降りなどが難しくなる場合があります。
X線で関節裂隙の狭小化や骨棘などを確認します。

股関節唇損傷・大腿骨寛骨臼インピンジメント

股関節内部の病変では、鼠径部痛、引っかかり感、クリック音などが現れることがあります。
深くしゃがむ、股関節を曲げてひねる動作で痛みが出ます。
臀部痛として感じられることもあるため、股関節の診察と画像検査が必要になる場合があります。

近位ハムストリングス腱障害

ハムストリングスが坐骨へ付着する部分に障害が起こると、坐骨周辺の臀部下部に痛みが出ます。
ランニング、前屈、長時間の座位などで悪化します。
梨状筋症候群よりも、坐骨結節付近の限局した圧痛が目立つ傾向があります。

坐骨大腿インピンジメント

坐骨と大腿骨の間が狭くなり、その間にある大腿方形筋などが刺激される状態です。
臀部から鼠径部、太もも内側などに痛みが現れることがあります。
長い歩幅で歩く、股関節を伸ばす動作で悪化する場合があります。
MRIで評価します。

陰部神経絞扼障害

陰部神経が骨盤内や臀部周辺で圧迫され、会陰部、肛門周囲、陰部などに痛み・しびれが現れる病気です。
座位で悪化する点は梨状筋症候群と似ていますが、症状の中心が会陰部にあります。
排尿・排便・性機能に関する症状を伴うことがあります。

仙骨・骨盤の骨折

骨粗鬆症のある高齢者や、長距離走を行う方では、仙骨の脆弱性骨折・疲労骨折が臀部痛の原因になる場合があります。
転倒後、歩行時に強く痛む、安静時にも痛む場合には、MRIやCTを検討します。

腫瘍・感染症

骨盤内腫瘍、坐骨神経腫瘍、骨腫瘍、膿瘍などでも臀部痛と坐骨神経症状が現れます。
次の症状がある場合には、梨状筋症候群として経過をみず、詳しい検査が必要です。
・安静時や夜間にも強く痛む
・痛みが日ごとに悪化する
・発熱、悪寒がある
・原因不明の体重減少がある
・がんの既往がある
・臀部に腫れやしこりがある

高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニックで行う検査

問診

主に次の内容を確認します。
・どこが痛むか
・臀部からどこまで症状が広がるか
・片側か両側か
・座って何分程度で症状が出るか
・歩くと軽くなるか、悪化するか
・運転、デスクワークとの関係
・階段、ランニング、しゃがみ動作との関係
・腰痛があるか
・咳やくしゃみで痛むか
・足の筋力低下があるか
・臀部への外傷や注射歴があるか
・股関節や骨盤の手術歴があるか
・発熱、夜間痛、体重減少があるか
・排尿・排便に変化があるか

視診・歩行

姿勢、歩幅、患側をかばっていないかを確認します。
筋力低下がある場合には、足を引きずる、つま先が引っかかるなどの変化がみられます。

神経学的検査

腰椎神経根障害や坐骨神経障害を評価するため、次の項目を確認します。
・股関節、膝、足首、足趾の筋力
・太もも、すね、足の感覚
・膝蓋腱反射
・アキレス腱反射
・つま先歩き
・かかと歩き
・下肢伸展挙上テスト
・歩行状態
梨状筋症候群では神経学的異常を認めない場合も多くあります。
明確な麻痺や反射異常がある場合には、腰椎病変や強い坐骨神経障害を含めて評価します。

腰椎の診察

腰を前後左右へ動かした際に症状が変化するかを確認します。
下肢伸展挙上テストなどを行い、腰椎神経根障害の可能性を評価します。

股関節の診察

股関節の可動域、鼠径部痛、引っかかり感などを確認します。
変形性股関節症、関節唇損傷、大腿骨寛骨臼インピンジメントなどを除外します。

臀部の触診

仙骨から大転子の間や、大坐骨切痕周辺などを触り、普段の臀部痛や脚への放散痛が再現されるかを確認します。
圧痛だけで診断を確定することはできません。
坐骨神経を強く圧迫すると、症状が悪化する場合があるため、繰り返し強く押しません。

梨状筋誘発テスト

複数の誘発テストを行い、臀部痛や脚の症状が再現されるかを確認します。
FAIRテスト
股関節を曲げ、内側へ寄せ、内側へ回す姿勢を取ります。
梨状筋と坐骨神経に張力が加わり、普段の臀部痛や坐骨神経症状が再現されるかを確認します。
Paceテスト
座位などで股関節を外側へ開き、外側へ回す方向へ力を入れてもらいます。
抵抗を加えた際に臀部痛や筋力低下が出るかを確認します。
Freibergテスト
股関節を他動的に内旋し、梨状筋周辺の痛みが再現されるかを確認します。
Beattyテスト
横向きで患側を上にし、股関節と膝を曲げた状態から膝を持ち上げます。
臀部痛が再現されるかを確認します。
座位梨状筋ストレッチテスト
座った状態で股関節を曲げ、内転・内旋方向に動かしながら、大坐骨切痕周辺を触れて症状が再現されるか確認します。
Active piriformisテスト
横向きなどで股関節を外転・外旋する方向へ力を入れ、臀部痛が再現されるかを確認します。
一つのテストだけで梨状筋症候群を確定することはできません。
Active piriformisテストと座位梨状筋ストレッチテストを組み合わせることで、臀部での坐骨神経絞扼を検出する精度が高まるとする研究があります。
ただし、検査精度に関する研究は限られており、すべての患者さまに同じ結果が当てはまるわけではありません。

X線検査

X線では梨状筋や坐骨神経を直接評価できません。
主に次の病気を確認するために行います。
・変形性股関節症
・大腿骨頭壊死症
・骨盤・大腿骨の骨折
・骨腫瘍
・腰椎の変形
・仙腸関節の変化
X線で異常がないという理由だけで、梨状筋症候群を確定することはできません。

MRI検査

腰椎MRI
臀部から脚へ痛みやしびれがある場合には、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などを確認するために腰椎MRIを行うことがあります。
腰椎に画像上の異常があっても、その異常が現在の症状の原因とは限りません。
症状の範囲、筋力、感覚、反射などと画像所見が一致しているかを確認します。
骨盤・股関節MRI
骨盤や股関節のMRIでは、次のような状態を評価できます。
・梨状筋の左右差、肥大、萎縮
・梨状筋周辺の炎症や浮腫
・坐骨神経の腫れや信号変化
・臀部の血腫
・深殿部の線維性組織
・近位ハムストリングス腱障害
・坐骨大腿インピンジメント
・股関節内の病変
・腫瘍、膿瘍
・仙骨骨折
梨状筋症候群であっても、一般的なMRIで明らかな異常が確認できない場合があります。
MRIが正常という理由だけで完全に否定できませんが、症状と一致する異常がなければ、診断は慎重に行います。
当院にはMRI装置は設置しておりません。MRI検査が必要と判断した場合には、提携医療機関をご案内し、そちらで撮影を受けていただきます。

超音波検査

超音波では、梨状筋、坐骨神経、臀部の筋肉などを観察できる場合があります。
左右の梨状筋の厚さや、坐骨神経の状態を評価する研究もありますが、超音波だけで診断を確定できる基準は十分に確立されていません。
超音波は、梨状筋への注射を安全に行うための画像誘導として有用です。

診断的梨状筋ブロック

画像で位置を確認しながら、梨状筋周囲へ局所麻酔薬を注射します。
注射後に普段の臀部痛や脚の症状が大きく軽減した場合には、梨状筋周辺が痛みに関係している可能性が高くなります。
診断と治療を兼ねる場合があります。
ただし、局所麻酔薬が周辺組織へ広がるため、注射で軽くなったことだけで梨状筋が唯一の原因と確定できるわけではありません。
注射によって坐骨神経の働きが一時的に低下し、脚へ力が入りにくくなる場合があります。
注射後は、医療機関の指示に従い、脚の状態が戻るまで自動車運転などを控えます。

梨状筋症候群の治療

治療は、まず保存療法から開始することが一般的です。
主な治療には次のものがあります。
・症状を誘発する活動の調整
・薬物療法
・リハビリテーション
・ストレッチ
・股関節周囲筋の筋力訓練
・神経の滑走を意識した運動
・梨状筋ブロック
・症例を選んだボツリヌス毒素注射
・まれに手術
「梨状筋を強く伸ばし続ける」「痛い部分を強く揉む」という方法だけで治療するものではありません。
神経が刺激されている場合には、過剰なストレッチや圧迫で症状が悪化することがあります。

保存療法

活動量の調整

痛みを誘発する動作や姿勢を一時的に減らします。
・長時間座り続ける
・長時間運転する
・硬い椅子へ座る
・患側を下にして寝る
・深いしゃがみ姿勢を続ける
・坂道や階段を繰り返す
・痛みを我慢したランニング
・臀部を強く圧迫する
長期間動かずにいる必要はありません。
痛みを大きく悪化させない範囲で、短い歩行や日常活動を続けます。
座位が必要な場合には、一定時間ごとに立ち上がり、姿勢を変えます。
後ろポケットに厚い財布や物を入れたまま座らないようにします。

薬物療法

消炎鎮痛薬
臀部痛や神経周囲の炎症を軽減する目的で使用することがあります。
次のような副作用に注意します。
・胃腸障害
・腎機能障害
・血圧上昇
・むくみ
・喘息症状
・出血傾向
アセトアミノフェン
痛みを軽減する目的で使用することがあります。
肝機能障害や、ほかの薬との成分重複に注意します。
神経障害性疼痛に対する薬
焼けるような痛み、電撃痛、しびれを伴う痛みに対して使用することがあります。
眠気、ふらつき、むくみなどが現れる場合があります。
筋緊張を和らげる薬
臀部周辺の筋緊張が強い場合に使用することがあります。
眠気やふらつきに注意します。
薬物療法は症状を軽減するものであり、坐骨神経を圧迫する構造を直接取り除く治療ではありません。

リハビリテーション

リハビリテーションでは、梨状筋だけでなく、腰椎、骨盤、股関節、膝、足部、歩行・競技動作などを総合的に評価します。
主な内容には次のものがあります。
・痛みを誘発しにくい座り方
・股関節の可動域改善
・梨状筋を含む深層外旋筋群の負荷調整
・大臀筋、中臀筋などの筋力訓練
・体幹・骨盤帯の機能訓練
・歩行や片脚動作の練習
・坐骨神経の滑走を意識した運動
・ランニングフォームの確認
・仕事やスポーツ動作の段階的な再開
股関節周囲の筋力不足だけでなく、練習量の急増、休養不足、長時間の座位なども調整します。

梨状筋ストレッチ

梨状筋周辺の柔軟性を改善する目的で、股関節を曲げ、内転・回旋させるストレッチを行うことがあります。
ただし、ストレッチで坐骨神経にも張力が加わる場合があります。
次の点に注意します。
・反動をつけない
・痛みを我慢して深く曲げない
・臀部に軽い伸張感がある範囲にする
・脚のしびれが広がる場合は中止する
・ストレッチ後に症状が長く悪化する場合は行わない
・毎回強く伸ばせば早く治るとは考えない
ストレッチが合わない方もいます。
股関節の変形や関節唇障害がある場合には、深く股関節を曲げることで鼠径部痛が悪化する可能性があります。

筋力訓練

梨状筋を単独で鍛えるのではなく、骨盤と股関節を支える筋肉をバランスよく訓練します。
・大臀筋
・中臀筋
・股関節外旋筋群
・体幹筋群
・大腿部の筋肉
初期には、横向きでの脚上げ、ブリッジ、軽いスクワットなどを、症状が出ない範囲で行う場合があります。
運動方法は、痛みの原因、筋力、股関節の状態によって異なります。
運動中に脚へしびれが広がる、筋力が低下する場合には中止します。

神経滑走運動

坐骨神経を強く伸ばすのではなく、股関節、膝、足首を組み合わせて動かし、神経が周囲組織に対して滑ることを促す運動です。
神経を限界まで伸ばす運動ではありません。
強い電撃痛やしびれが出る場合には、負荷が強すぎる可能性があります。
専門家の指導のもとで行います。

マッサージ・徒手療法

臀部周辺の軽いマッサージや徒手療法によって、一時的に筋緊張や痛みが軽くなる場合があります。
ただし、坐骨神経が刺激されている場所を強く押すと、脚の痛みやしびれが悪化する可能性があります。
硬いボールやフォームローラーを臀部へ置き、体重を強くかけ続けるセルフマッサージには注意してください。
徒手療法だけに依存せず、活動調整や運動療法と組み合わせます。

温熱・冷却

筋肉のこわばりがあり、温めると楽になる場合には、入浴や蒸しタオルなどを使用できます。
外傷直後で腫れや熱感があり、冷やすと楽になる場合には、タオルで包んだ保冷剤を短時間使用します。
温熱と冷却のどちらが必ず優れているわけではありません。
発熱、強い腫れ、皮膚の赤み、感染症が疑われる場合には、セルフケアだけで経過をみないでください。

梨状筋注射

保存療法で十分に改善しない場合には、梨状筋周辺へ注射を行うことがあります。
一般に、超音波、CT、X線透視などで位置を確認しながら行います。
使用する薬には次のものがあります。
・局所麻酔薬
・副腎皮質ステロイド薬
局所麻酔薬のみでも症状が軽減する場合があり、ステロイド薬を追加する利益が明確でない症例もあります。
注射の効果には個人差があります。
主なリスク
・出血、血腫
・感染
・薬剤アレルギー
・一時的な痛みの悪化
・坐骨神経損傷
・一時的な脚のしびれ・脱力
・血糖値の上昇
・皮膚・脂肪組織の萎縮
・十分な効果が得られない
抗凝固薬や抗血小板薬を使用している場合には、自己判断で中止せず、事前に医師へ伝えてください。

体外衝撃波治療など

体外衝撃波治療などによって痛みが改善する可能性を検討した研究があります。

体外衝撃波治療について詳しくはコチラ

整体・強い矯正について

臀部痛をすべて「骨盤のずれ」「梨状筋の癒着」と判断し、強く押す、急に股関節をひねるなどの施術を受けることには注意が必要です。
次の状態が隠れている可能性があります。
・腰椎椎間板ヘルニア
・股関節疾患
・骨盤・仙骨骨折
・臀部の血腫
・腫瘍
・感染症
・強い坐骨神経障害
特に、筋力低下、夜間痛、発熱、外傷歴などがある場合には、強い施術の前に医療機関で評価を受けてください。
梨状筋や坐骨神経を強く圧迫することで、症状が悪化する可能性があります。

手術治療

梨状筋症候群で手術が必要になることは多くありません。
十分な保存療法を行っても症状が改善せず、深殿部で坐骨神経が圧迫されていることが、診察、画像、注射反応などから強く支持される場合に検討します。
次のような場合が手術検討の対象となります。
・長期間の保存療法で改善しない
・座位、歩行、仕事などへの支障が非常に大きい
・筋力低下や神経障害がある
・画像で明確な圧迫病変が確認される
・線維性組織や解剖学的異常による絞扼が疑われる
・診断的注射で一時的に大きく改善する
・腫瘍など切除が必要な病変がある
診断が曖昧なまま手術を行うと、症状が改善しない可能性があります。
手術が必要と判断した場合には、脊椎・股関節・末梢神経や深殿部症候群の診療に対応する専門医療機関へご紹介します。

仕事への復帰

デスクワーク

・長時間座り続けない
・30~60分程度を目安に立ち上がる
・座面の高さを調整する
・硬い座面がつらい場合はクッションを使用する
・後ろポケットに物を入れない
・座位と立位作業を組み合わせる
厚く柔らかすぎるクッションでは、かえって股関節が深く曲がり、症状が強くなる場合があります。
本人が楽に座れる高さと硬さを選びます。

運転

・長距離運転では休憩を入れる
・座席をペダルから離しすぎない
・臀部の片側だけに体重をかけない
・鎮痛薬で眠気がある場合は運転しない
・注射後に脚の感覚や筋力が低下している間は運転しない

立ち仕事・重量物作業

股関節をひねった姿勢、片脚荷重、中腰などを長時間続けないようにします。
荷物は身体へ近づけ、腰と股関節をひねりながら持ち上げないようにします。

スポーツへの復帰

次の状態を確認しながら段階的に復帰します。
・安静時の強い臀部痛がない
・日常生活でしびれが悪化しない
・一定時間座れる
・通常歩行ができる
・片脚立ちが安定している
・股関節周囲の筋力が回復している
・ジョギングで神経症状が出ない
・競技動作の翌日に大きく悪化しない
歩行、自転車などの軽い有酸素運動から始め、筋力訓練、ジョギング、方向転換、競技動作へと進めます。
坐骨神経症状を我慢したまま、急に坂道走やスプリントを再開しないでください。

自宅での注意点

・長時間座り続けない
・定期的に立って姿勢を変える
・硬い場所へ長く座らない
・後ろポケットに厚い物を入れない
・患側の臀部を強く圧迫しない
・ボールや器具で強く揉まない
・痛みを我慢したストレッチをしない
・軽い歩行などで活動を維持する
・ランニング量を急に増やさない
・臀部だけでなく体幹・股関節全体を整える
・処方薬と市販薬を重複して使用しない
・筋力低下や足の引っかかりを確認する
・排尿・排便の変化を見逃さない

梨状筋症候群でお悩みの方へ

次のような症状がある場合には、梨状筋症候群または深殿部症候群の可能性があります。
・臀部の奥が痛む
・長時間座ると臀部が痛む
・運転中に臀部や脚がしびれる
・臀部から太ももの後面へ痛みが広がる
・股関節を動かすと臀部が痛む
・階段やランニングで痛む
・患側を下にして寝ると痛む
・臀部を押すと脚へ痛みが響く
・腰椎MRIでは症状を説明できないと言われた
・坐骨神経痛の治療を受けても改善しない

早めの受診が必要な症状

次のような場合には、早めに整形外科、脊椎・股関節または末梢神経を専門とする医療機関を受診してください。
・脚のしびれが徐々に強くなっている
・足首や足趾へ力が入りにくい
・つまずく回数が増えた
・足を引きずる
・座れる時間が短くなっている
・歩行や仕事への支障が大きい
・外傷後から症状が続いている
・臀部への注射や手術後から症状が出た
・保存療法を行っても改善しない
・臀部に腫れやしこりがある

速やかな受診が必要な症状

次の症状がある場合には、梨状筋症候群以外の重い神経障害、感染症、血腫、腫瘍などの可能性があります。
速やかに受診してください。
・安静時や夜間にも強く痛む
・発熱、悪寒を伴う
・臀部が急に腫れた
・臀部の打撲後に急速にしびれや麻痺が進んだ
・抗凝固薬使用中に突然強い臀部痛が出た
・がんの既往がある
・原因不明の体重減少がある
・脚の筋力が急速に低下している
・足首を動かせない

直ちに救急受診が必要な症状

次の症状は、馬尾症候群など梨状筋症候群だけでは説明できない緊急疾患の可能性があります。
直ちに救急受診してください。
・尿を出せない
・急に尿や便を漏らすようになった
・尿意や便意が分からなくなった
・肛門、陰部、太ももの内側がしびれる
・両脚へ急に力が入らなくなった
・急に立てない、歩けない
・脚の麻痺が急速に進行している
・大きな事故や骨盤外傷後である
・高熱や意識障害を伴う

梨状筋症候群でお悩みの方はご相談ください

診察では、臀部痛と座位の関係、脚への症状、腰痛、筋力・感覚・反射などを確認します。
腰椎、股関節、仙腸関節などの診察を行い、複数の梨状筋誘発テストを組み合わせます。
必要に応じて提携医療機関で腰椎MRI、骨盤・股関節MRI、筋電図などを行い、腰椎疾患、股関節疾患、腫瘍などを除外します。
梨状筋周辺への画像誘導下注射で症状が軽くなることが、診断の手がかりになる場合があります。
治療では、長時間の座位などの負担を調整し、薬物療法、股関節周囲の運動療法、適度なストレッチなどを行います。
改善しない場合には、梨状筋ブロックや症例を選んだボツリヌス毒素注射などを検討します。
保存療法で改善せず、深殿部での明確な坐骨神経絞扼が確認される場合には、まれに坐骨神経除圧術や梨状筋切離術などを検討します。
臀部が痛いから梨状筋症候群、梨状筋を押すと硬いから神経が圧迫されていると自己判断せず、腰椎・股関節・仙腸関節を含めて総合的に評価することが重要です。

監修:高輪ゲートウェイ駅前整形外科クリニック 院長 松﨑 時夫